第2章 -5-

───数日後。


空蝉町のあの公園に集合した。


約束どおり、Arisaは友人を連れてきている。


『はじめまして。Yuiです。Arisaのクラスメイトです。アバターさんとお会いするのは初めてで・・変な事言っちゃうかもですが、よろしくお願いします。』

ごく普通の女子高生だ。無表情なのはAIDの設定だからなのか、緊張しているのか・・。


『ボクはNobuっていいます。同じくArisaのクラスメイトです。プログラミングとかが好きで、アバターさんがどういう制御で動いているのか、とても興味があります。色々とお話しを伺わせてください。』

慎太郎タイプのAIDだ。黒縁メガネも被っている。そのうち「ござる口調」になるかもしれない。


『えー私は3人が通う学園で非常勤講師をしているKenといいます。先生もアバターに興味があるって話したら、一緒においでよーと言ってもらえたので、お言葉に甘えて。年齢は25歳となってますが、歳の差や立場など気にせずに仲良くなれたらなって思います。よろしく!』

若干地味キャラだと思ったら、まさかの先生AID!そして他のAID達よりも人間味を感じる。先生AIDだからコミュニケーション能力が高いとかあるのかも・・。


続いて俺たちも簡単に自己紹介を済ませた後、

『ふっふっふ~♪ それでは早速、本日のプランを発表しまーす♪』

Arisaが得意げに前に出てきた。


今日、皆で集まって何をするかはArisaが計画するから任せて欲しいと言われていたのだ。

魅せてもらおうか。空蝉町の魅力とやらを!


『ジャージャン♪ 町を見下ろせる丘の上でグランピングしたいと思いまーす♪』

おおーー!と歓声が上がる。


『みんなで一緒に行けるように、Ken先生にはマイクロバスを用意してもらいましたー♪』

おおーー!と歓声が上がる。


『ではでは、早速向かいましょう~♪』

おおーー!と皆、マイクロバスに乗り込んだ。

Arisa、いつもよりテンション高めなのは、やはり友人も一緒だからだろうか。

元気があって良い♡


Ken先生が運転するマイクロバスは町中を抜け、ちょっとした峠道をうねうねと登っていく。

Gはかからないが、窓の外を見ていると酔いそうになるので車内の会話に意識を集中する事にした。


茜は外の景色を見てはしゃいでいる。

「うわぁ~・・絶景だねぇ~・・一樹も観てる? ぁ・・弱いんだっけ?(汗)」


「ギリ平気だ。外見たらヤバい。マジで。」

酔わないように集中しているのが顔に出ていたようだ。


慎太郎はNobuと難しい話をしている。

「この世界でガジェット組んでメニューに仕込む事も出来るでござるか?」

『アバターさんのシステムには介入できないと思うけど、ボクたちが扱う端末上のアプリならある程度の事は出来ます。たとば・・・・』


宏と麻衣の声は聞こえないが、楽しそうに会話している。

ちなみに今日の麻衣は普段着だった。


「ここは仮想現実という事なら、離れた場所に瞬間移動する事も可能でござるか?」


確かに・・。ゲームのように、ファストトラベル機能が使えても良さそうなものだ。

その疑問には、マイクロバスを運転していたKen先生が応えてくれた。


『この仮想都市はー、極限まで現実世界を模しているんだ。だからゲームのような便利機能は実装されていないんだよ。遠くへ行くには歩いたり、こうして乗り物で移動したりして、現実と同じように時間と労力をかけるんだ。そうする事で私たちAIDは時間的にも空間的にも人間と同じような感覚を学ぶ事が出来るのさ。』


おおー・・流石は先生AIDだ。


「へぇ~・・じゃさ、空飛んだりとかも出来ないの?あたしホウキに乗って空飛びたかったなぁ・・」


『はっはっはっ、ホウキでは飛べないけど、飛行機やパラグライダーならこの世界にもあるよ。それで簡便してくれ(笑)』


「パラグライダーやってみたーい♪」


『いやまてよ・・今建設中の大規模アトラクションランドが完成すれば、そういう疑似体験も可能になるぞ』


「大規模アトラクションランド?遊園地みたいな?」


『えー?そんなの造られてるんですか?先生、物知り~』


AID毎に知識の共有レベルが違うんだなぁ・・。

まぁ、先生と生徒が同じレベルだったら、立場が成立しないもんな。


『さーて、そろそろ目的地に到着だぞ~』


マイクロバスは最後のヘアピンカーブを曲がり、開けた場所に到着した。


オートキャンプ場というか、ただの広場だ。

周りに他のAIDやアバターは見当たらない。


広場の一方は森になっていて、もう一方からは空蝉町を一望することができた。


町の中央に高層ビルが1棟立っていて、

その周辺をオフィスビルやデパートが取り囲んでいる。

さらにその外周には公園や民家が建ち並んでいる。

それが、2万人ほどのAIDが生活している仮想都市の全貌だ。


『さーて!グランピングの醍醐味といえば~?』


「まずはテントだろ!」


『はい!宏さん正解です!テント設営隊長に任命します!』


「ぉ・おう!任せろ!じゃ~、Ken先生と慎太郎、Nobuも手伝ってもらおうか。」

『了解!』「ラジャ!」『承知です。』


「じゃ~あたしは火をおこすよ!一樹、薪拾い行こう♪」

「オッケー。ArisaとYuiちゃんも一緒に行こうか。」

『はいです!』『よろしくお願いします(ペコリ)』


「一樹氏、ハーレム状態でござるな(ボソ)」


ははは・・(汗)


俺たちは作業を分担して各自取り掛かった。

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