第31話 クリオネですよクリオネ!

 その後も人気コーナーを見て回ったけど、マキネが一番興味を持ったのはクラゲのコーナーだった。今までとは違って、一つ一つじっくり眺めてはジーッとクラゲを観察する。


 そして、ついに目的のクリオネのコーナーへとやって来た。


[ユータ! クリオネですよクリオネ!]


 マキネが水槽へと顔を近付け、食い入るようにクリオネを見つめる。


 水槽の中で泳ぐ小さなクリオネはさすが流氷の天使という別名があるだけあって可愛らしさの中に神秘的な雰囲気を感じさせた。


[羽根みたいな所がヒョコヒョコ動いてます! すごい……]


 クリオネ達は、透明な体をユラユラと揺らしながら水の中を泳ぎ回る。水槽の光に照らされ、中の器官が鮮やかなオレンジ色に光る。そこだけ見ると、やっぱりマキネに似てる。


[私ってこんな感じに見えるのでしょうか? ユータや美月さんにも]


「え? まぁ、そうかな。でもマキネは髪みたいな触手もあるし、似てるけどちょっと違うかな」


[不思議です。出自も違うし、種族も違うのに似てる生き物がいるなんて]


 水槽を見つめるマキネを見た途端、急に彼女を意識してしまって恥ずかしくなった。


 マキネは水族館に入ってから一番長い時間、クリオネを見つめて過ごした。



◇◇◇


 しばらくクリオネを見ていたけど、イルカショーのアナウンスで移動した。夏が近づいているかせいか、会場はかなり暑かった。でも、イルカショーが始まると、その飛沫や揺れる水面で一気に涼しげになっていく。


  マキネは終始興奮していた。それもそうか。彼女にしたら初めて見る物ばかりだし、子供みたいにはしゃいでしまうよな。


 イルカショーが終わって、水族館入り口のベンチで休憩してもマキネはずっと水族館のことを話していた。


[あのイルカさんってどうやって技を覚えるのですかね!? あとあと触れ合いコーナーで飛び上がったりさせて貰えるんですか!?]


「いや、はは……それはさすがに無理だと思うよ」


[そんなぁ。やってみたかったのに……あれ?]


 急に、マキネが頭を抑えて寄りかかって来た。


「どうしたの?」


[な、なんだか、変、です……気持ち悪い]


「え!? だ、大丈夫か?」


[多分……ちょっと休めばきっと……]


 マキネの体を支えるとすごい汗をかいている。イルカショーの時かなり暑かったから、そのせいだ。マキネはただでさえマスクをしていたり熱がこもる格好をしているのに。もっと気をつけてあげれば良かった……。


 慌てて、マキネを日陰へと移動させる。飲み物を買わないと。でも、どうする? こんな人が多い所でマスクを外させる訳にはいかないし。どうしよう?


 焦って頭が混乱する。落ち着け。マキネについてあげれるのは俺だけだろ。


 そう言い聞かせて冷静さを保とうとする。


 辺りを見回すと、キッチンカーでドリンクを買う人達が目に入った。青いジュースの中にカラフルなゼリーが入っていて、赤いストローの刺さった……。


 あ、あれなら……。


 急いでキッチンカーへ走ってゼリー入りのジュースを買った。


 日陰で待つマキネの元へと戻ってそのマスクの隙間にストローを入れる。すると、カップの中のジュースが徐々に減っていく。


[お、美味しい……ありがとう]


 飲み干す頃にはマキネはすっかり回復していた。



◇◇◇


 バスから降りて家まで歩いて帰る。マキネのことが心配で、途中何度も体調を聞いてしまう。


[本当にもう大丈夫ですから。気にしないで]


「ごめん。次からはマキネが外でも飲み物を飲めるようにストロー用意するよ」


[ありがとう。私も気を付けますね]


 今日は、熱中症気味になっていたんだと思うけど……マキネも体調を崩すのが分かった。むしろ今までよく何も無かったと言った方がいいのかもしれない。


 今までは極力マキネの存在を隠して来たけど、彼女に何かあった時の為に診てくれる人と関係を持った方がいいのかも。


 いいや、それだけじゃない。


 マキネとずっと一緒に暮らしていく為に、信頼できる人との繋がりを持たないと。



 俺も、変わらないとな。

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社畜の俺が人外地球外生命体娘と同棲することになった件 三丈 夕六 @YUMITAKE

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