第30話 もしゃもしゃしてます
休みだから何をしたいか聞いてみると、マキネが「クリオネを見てみたい」と言うので、ちょっと遠出して水族館に行くことにした。
準備して、10時過ぎに家を出た。マキネはUV対策用キャスケット帽に白いブラウス、それにカーキのロングスカートを着て。やっぱり、こういう格好はすごく似合ってる。
バスに乗って15分。水族館に続く路線の駅で降りて、改札を潜る。普段使わない駅は想像以上に混雑していた。家族連れや恋人、旅行者で溢れかえってる。
電車に乗ろうとした時、後ろに引っぱられる感覚がした。振り返ると、マキネに服の裾を掴まれていた。
「どうしたの?」
[ちょっとだけ、怖いです。こんなに人がいる所は初めてなので……」
「そっか。街の方に行くのも初めてだしね」
[はい……]
彼女を安心させたくて手を握る。今は色は分からないけど、マキネの気持ちが少しでも楽になっていたらいいな。
◇◇◇
電車を乗り継ぎ、目的の水族館へとやって来た。マキネはすごくはしゃいでいた。あちこち動き回ってはスマホで写真を撮るっている。
「あ、触手動いちゃってるよ」
[え!?]
マキネが咄嗟に両手で顔を押さえる。でも、それでも興奮は収まらないようで、その手の隙間から触手の先端がヒョコッと顔を出した。そして、先端だけピコピコ動く。
[も〜なんで止まってくれないの!]
マキネは焦っていたけど、その姿が可愛らしくて笑ってしまう。それに気付いた彼女に怒られてしまったけど……。
水族館に入って順に水槽を見ていく。魚だけじゃなく、ペンギンやアシカと言った人気の水槽もある。
しばらく館内を進むと、列が出来ているコーナーがあった。
[カピバラ触れ合いコーナー? 何故水族館に動物がいるのですか?]
「え、うーん……。水辺の生き物なんじゃない? きっと」
マキネと2人で列に並び、コーナーへ入る。飼育員さんがカピバラにエサをあげてカピバラの気を引いていて、その間に背中を触っても良いというスタイルだった。
[さ、触っていいのですよね? 触りますよ……]
マキネが何故かカピバラに許可を求める。カピバラはマキネを一瞥すると、またエサに集中した。それを了承と受け取ったのか、彼女は恐る恐るカピバラの背中を撫でた。
すごく緊張してるな……。触手がつまようじみたいにピンと張ってるし。
[……意外です。カピバラの毛って固いのですね。もしゃもしゃしてます]
マキネの触手は徐々に柔らかさを取り戻し、フリフリと左右に揺れていた。
[でも気持ちいいですね〜]
嬉しいからなのか、マキネの触手が暴れ回る。
……。
飼育員さんに見つからないようにするのが大変だった。
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