第29話 ふわあぁ……

 スマホが振動してる。


 振動して……。


 ……。


 あれ? 今何時だ?


 全然無い。どこ置いたっけ。


 枕元に右手を伸ばすと、手の甲に硬い板の感触が伝わった。


 あった。


 手元に引き寄せてホームボタンを押すと、画面に時刻が大きく表示される。


 8時45分か……。



 ……。



 8時45分!? ヤバイ! 遅刻だ!!


 

 焦ってもう一度スマホを確認すると、「土曜」と書かれていた。


 なんだ……休みか。働きすぎかな。


 起き上がろうとすると、なんだか体が重い。薄い布団をめくってみると、マキネが俺に抱きついていた。横向きにしがみつくように。


 なんだ。マキネが抱きついてたのか。そういえば寝てる時体が動かせなかったなぁ。金縛りにでもあったのかと思ったよ。


 ……。


「うぇっ!?」


 な、なんでマキネが!? ふ、服もはだけてるし、め、目のやり場が……。


[ふわあぁ……おはようございますユータ]


 マキネが俺のことを見上げる。とろんと長細くなっていた光が徐々に球体に戻っていく。


「ど、どうして俺の布団に?」


[夜ですね、急に目が覚めて……寂しくて]


「そうだったんだ……」


[嫌でした?]


「嫌じゃない! ぜんっぜん!! 嫌じゃない!」


 思わず大きい声を出してしまう。


[ふふ。嬉しいです]


 マキネが余計に抱きついて来た。柔らかい感触が左腕に伝わって……気付かれないようにするのが大変だった。色々と。



◇◇◇


[久しぶりに裕太と二人のお休みな気がしますね]


「この前は俺が実家帰ったり美月の件があったからなぁ」


 あ、そういえば。


「あの後は美月からメッセージ来るの?」


 美月の件があったすぐ後、あの子の方からマキネの連絡先を教えて欲しいと言って来た。この前のことをマキネに謝りたかったらしい。


[来ますよ。学校のこととか教えてくれます。後は……色々]


 そこまで言ってマキネの光が濃いピンクになった。え、なんで恥ずかしがるんだ?


「色々って何?」


[その、えと、さりげなく男の人の袖を掴むと男の人は喜ぶ、とか……]


「なんで美月がそんなこと知ってるんだ!?」


[きゃっ!?]


 あんな真面目な子がっ!? 俺の知らない所でどんな学生生活を……!?


 マキネが光を点滅させる。触手達も驚いたようにギクシャクした動きになってしまう。


「あ、ごめん。ちょっとビックリして」


[ビックリ? 本で読んだり、友達から聞いたって言ってましたよ?]


「なんだそういうことか……焦った……」


[なぜ焦るのですか?]


 マキネはよく分かっていないみたいだったのでなるべくオブラートに包んで説明した。説明してもよく分からないみたいだったけど。いや、俺も心配しすぎなのか。この前子供でもいいって言ったけど、恋愛方面で俺が口出すことなんて無いからな。むしろ喜ばしいことじゃないか、うん。


 自分にそう言い聞かせた。


 でも、だからマキネに告白した時、袖を掴んで来たのか。なんだか中ニの子の実中にハマったみたいで悔しい。俺のこと、他に何を言われたんだろう……。


[さて、朝ごはん作りますね]


「ありがとう。何を作ってくれるの?」


[スクランブルエッグと、昨日用意しておいたジャガイモとウィンナーのスープと……」


「俺の好きな物ばっかりだ」


[ふふふ。美月さんに教えて貰いましたから]


 ありがとう美月!



 心の中で感謝した。


 

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