第2話 多賀谷亮レイドボス 元冒険者視点

 俺は本郷達也ほんごうたつや冒険者だ。

 バリバリの一流……て訳じゃねぇが、二流の万能冒険者として色々なパーティーに参加してたし、そこそこ名の知れた冒険者と言っても過言ではないだろう。

 ……いや、それは過言か?


 とりあえず。

 そのお陰で収入は安定、今はさいって子と結婚して、そこそこに働いてそこそこに幸せなスローライフを堪能中……だった。


 違和感を感じた。それは言い忘れていたが同じく元冒険者であった祭も。

 その違和感は、何故か、絶対にどうにかしなければならないと言う確信があった。

 まるで精神を操られるかのように、どうにかしなければいけないがあるかのように。


 俺と祭は、いても立っても居られなくなり外に出た。

 周りを見渡す、面白い。俺や祭の様に完全武装で家から飛び出ている冒険者が数えきれない程見受けられる。

 この違和感は俺達だけのものでは無いようだな。

 さあ、これは何の違和感な——


「おぇ゛」


 これは吐きそうになった音、そして周りから聞こえるのは吐いてしまった音。

 冒険者時代、気持ち悪くなった事が何度かあった。

 それは自分達と明らかにかけ離れた存在が流放つプレッシャーに押しつぶされそうになった時。

 でもここまでの物は感じた事がない、戻しそうになったのは初め……あ、これダメだ。


「あく゛…「うぉ゛ぉ ぇ゛」


 祭が吐いちまったのとほぼ同時に、俺は地面に思いっきり戻してしまう。

 しかしダメだ、ここで倒れてはいけない。

 俺は祭の背中を軽く撫で、立とうとするのを手助けする。

 

 そうして目を凝らして。ほぼ全ての冒険者を畏怖させた、の姿を。


『我が名はルシファー。10分後の未来を予言してやろう。地球は滅ぶ』


 姿を把握すると同時に名乗りが聞こえた。

 成程、黒い翼に、濁った天使の輪っか、まさに使と言ったところか。


「……にしても、ダンジョンにしか沸かないモンスターがなんで地上にいるんだ?」

「考えても仕方ないよ、それより、アレは何をしてるの……?」


 祭の指差した方向は、ルシファーであったが少し違った。

 祭が指差しているのは、そのルシファーの手元。

 言われてみれば奴の手元は、小刻みに動いている。それも紫色のオーラ的な物を発しながら。

 それの答え合わせをするかの様に、アナウンスが流れ始めた。


『各地の冒険者の方々へ緊急連絡です。現在世界中で、同時多発的に謎のモンスターが出現しました。これは都道府県……いえ、の数で出現しています。更には超回復があるのも判明しており、対処法は現在不明です』


 対処法不明。

 その言葉が齎したのは絶望……だけではなかった。


「[氷柱]」


 遠くから聞こえたのは、明確な攻撃。

 その一撃を皮切りに、いくつもの攻撃がルシファーへと向かう。


 未知を楽しむもの、スリルを楽しむもの、そうやって冒険者になった人は非常に多い。

 そして、そう言う奴らに限って、

 そして、そして! そういう奴らを見てると、忘れた物を嫌でも思いださせられる。


「[瞬閃滅脚]」


 圧倒的な速度で、たった一撃を叩き込み引く、究極のヒット&アウェイ。

 最強では無い、しかし小回りが効く。

 そう言うスキルを、冒険者はよく持っている。


「[滅炎]」

「[雷極]」

「[紫炎渦]」

「[波紋水撃]」

「[連破風]」

「[……


 


 8分。

 これは全冒険者がルシファーに攻撃を加え終わるまだに掛かった時間であると共に、ルシファーが確かに消滅した時間である。

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