第12話 神命武器

「初めまして、デア。私はルリ、風の天使。貴方の為に生まれてきた」

「……師匠、急に幼女なんて連れてきてどうした?」


 嗚呼、そうだ、思い出した。

 初対面のルリに親しみを覚えたのは、初対面じゃなかったから。


 オレとルリは、何十年も一緒に居た。


 最高神の作った神命武器には、決定的な欠点、と言う部分がある。

 しかしそれ以外を見れば、これ以上ない完璧な武器であった。


 最高神の非道を見かねた師匠は、これに対抗する為にあることを思いついた。

 天使であれば、姿を自在に変えられるのでは無いか? と。


「神命武器が武器になったら戻れないのは、とても硬い神の魂を作り替えているから。ならばサラッと変えられる脆い魂ならそんなことは起こらないのでは無いか? と言う目論見で生み出されたのが私です」

「理論は理解した、しかし不要だ。大体、目論見の段階であって、君が本当に戻れるかはわかってないんだろう?」

「ええ、デアにしか私を剣にすることはできませんから、まだ未確定です」

「ならば……」

「おいオメーら、いつまでお見合いしてんだバカ野郎! とにかく剣にしてみろ剣に! テメェの為に生まれてきたっつってる子をしねぇ方が俺は失礼だと思うぞ、違うか?」

「いやそもそも連れてきたのは師匠……」

「奥義——」

「——神命武器ってどうやったらできるんですか教えてくださいお師匠様!!」


 それからやり方を教えてもらって、実践した。

 けれど、ルリは剣にはならなかった。


 剣の修行終わりや、飯を食った後、精神統一をしてから、あらゆるシチュエーションを試したが、成功しない。

 信頼関係は何十年も一緒に居るんだし完璧な筈だ。

 ならば相性の問題なのか? いいや、そんなわけは無い。師匠と同じくらい仲が良いのだから。

 

 何が足りないのか、一生わからないそれが、今は分かったような気がする。


「ルリ、お前のことは一生オレが守る。だから、オレに力を貸してくれ」


 オレに足りなかったのは決意だ。

 オレに足りなかったのは志。


 ルリを剣に換えてしまうその責任、万が一戻れなかった時のリスク、それを背負ってでもルリを剣にする覚悟。


「『顕現せよ、[瑠璃]』」


 薄くなっていたルリの体は、完全に光となり、その姿を変えていく。

 青く美しい刀身と、その根に十字を刻んだ剣は、オレの構えた場所に現れた鞘に収まる。

 

 

 最高神と悪魔王を見る。

 激しい戦い、しかし

 完璧に認識をした、捉えるべき物を全て把握した。

 そして、手には最高の相棒が居る。


 これでどうやって負けようか、そのような結末は、1ミリたりとも無い。


 剣を鞘から抜く。

 その瞬間、世界はオレだけの物になる——


「[嵐]」


 何をしても届かなかった最高神。

 オレの攻撃など可愛い物だっただろう。

 

 だから恐れ慄け。

 

「なんだと……?」


 オレの一撃は、お前を斬れる。


「最高神、左腕はどうした」

「調子に乗るなよ天使風情がァ!!」

「その天使風情に腕切られてご立腹か研究者気取りの引きこもりサイコパス!!」

「いいだろう、僕の秘密兵器を使ってやる。[かが——」

「——無駄だぜ?」

「は?」


 大きく掲げられた鏡を、師匠は破壊した。

 すると最高神が発動した術式は、まるで電池の切れたロボットかのようになんの反応も見せず、途切れた。

 あまりにも早いその一撃は、まるでこの行動を印象すら覚える。


 次いで師匠は上を指差し、意地の悪い笑顔を見せた。


「上を見てみろ最高神、お前が幽閉した神々がお前を見守ってくれてるぞ?」


 そこには何百、何千、文字通り八百万の神が浮遊していた。


「発動するだけで天使全削除、発動条件は天使100万を生贄にした鏡をたった一枚使用するだけ。それが天界中に何十万枚もあるってんだから困ったもんだ。……ま、俺らで破壊すればすぐだけどな!」


 次の瞬間、最高神を囲むようにして巨大な魔法陣のようなものが展開される。


「条件は完璧に揃いました。死になさい最高神、


 運命神のそれは、条件さえ揃えば絶対に実行される強制力の塊。

 一連の行動により揃った条件は、それを完璧な物に至らしめる。……ことはなかった。


「最高傑作を使うしか無いかぁ、[禁]」


 その場にいた全員が、いや、違う、、不可解な圧力によって動きを完全に封じられる。

 それは不可避で、強制的だった。


「運命神の事は勿論知ってたさ、君達の計画もね、それでも僕が静観してた理由は一つ。

「「「っ!?」」」

「本日を持って僕と僕の認めた生命体以外の生物が天界に立ち入ること、これの一切を禁ずる」

 

 最高神は最高に気持ち悪い笑顔で勝利を宣言する。


「1000年後、人間界への侵食を開始する。誰も僕を止められない、誰もこれを止められない!! フハハ、フハハハハハハハハハ!!」


 聞いているだけで吐き気がする笑い声と共に、天界全ての生物が強制的に弾き出された。

 

 

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