第11話 悪魔王

「んー、これ以上の発見はなさそうだね、君、死んでいいよ?」


 剣は先端から完全に折れてしまい半壊、最高神の一撃をモロに喰らった体はもはや言うことを聞かない。

 

 最高神の一撃は、あまりにも理不尽だった。

 避けれる訳がない程速く、大きい、アホらしくなってしまうほどの圧力が込められた一撃。


 薄く目を開く。

 なんということだろうか、最高神はそれをもう一度放とうとしている。

 剣の無いオレにできるのはただ喰らい死ぬだけ……だが、ダメだ。


 後ろにはルリが居る、巻き込むわけにはいかない、これからも守り続けなければならない。

 ならばここは、どんなことをしてでも生き残るべきだ。


 だとすれば、ここでオレがすべきことは無様に寝転がる事ではない。 

 剣は折れた、しかし消えたわけではない。

 まだ刀身はある。

 

「ごめんな、もうちょっとだけ無理させるぞ」


 立ち上がり剣を構え、最高神めがけ地面を蹴り距離を詰める。

 一つ、剣技を繰り出そうとした瞬間、全ての動きが止まった。

 否、止められているわけではない。

 圧倒的なまでのを込めた圧力、ただそれだけで全員の動きが完全に封じられているのだ。


「我が主神を無理させないで貰えるか、天使最強」


 その人物を、オレはよく知っていた。

 あれほどの激戦を繰り広げた相手を、まさか忘れる訳がない。


「この剣は返してもらおうか」

「悪魔王……!?」

「我が分身を見事に打ち破って見せたのには感心したが、まあ流石にコレに勝つのは無理か」


 剣を手放すつもりはなかった。

 しかし無理だった。

 悪魔王との力量差もあるのだろうが、それよりも、剣が悪魔王の元へと行こうとしていた。


「何故この剣に神化の権能があるのか、それはこの剣自体が神だからだ」


 悪魔王は、剣を優しく撫でる。


「最高神、貴様は天使だけではなく、神さえも研究対象にしていた。覚えているか?」

「ああ、覚えているとも、君が手に持つ剣は神器……又の名を『神命武器』と呼ばれるもの、僕の最高傑作さ」


 悪魔王が剣を強くさすると、途端に剣は再生し、鋭さが増す。


「神の魂の形を強引に作り変えて武器にする、そんな残酷で最悪な方法で作られた武器、それがこの剣。……最高神、貴様はその権力を持って天使を、そしてたった一人の我が主神を奪った。堕天した意味を、今ここで果たさせて貰おう」


 最高神と悪魔王の技がぶつかり合う。

 それはかつて無いほどに速くて、そして、感情が乗っていた。

 一つ一つの斬撃が、怒りに、そして悲しみに満ち溢れている。

 そう感じざるを得ない激戦の中、オレは何もできず膝立ちのまま。


 見ていればわかる、悪魔王は

 剣はオレと一緒にいる時よりも素晴らしく鋭く、美しい。

 しかしそれでも、悪魔王は負けている。


 オレも、なにか。

 何かしなければ、何かしなければいけないのに。

 何もできない、剣がない、あの戦いに手刀で参加しようものなら足手纏いだ。

 どうすれば?

 どうすればいいんだ、どうすれば——


「——ルシファーさん、私のこと使って」

「は?」


 顔をあげるとそこには、ルリと、師匠と、そして一人の女神がいた。


「条件は揃った、さあ、最後の一つを埋めよう、デアくん」


 女神がオレに手を添えた瞬間、まるで硬く縛り付けていた錠が外れたかのように記憶が溢れた。

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