第6話 悪魔②

 [嵐]は周囲の空間を斬る事により、絶対的な貫通力と、異次元の速度を両立する事が出来る、為の技。

 尚、正面のみを斬るという形を取る事も出来る。

 この場合、通常の[嵐]よりも2、3倍の速度を出す事が可能。

 

 つまり、最初にルリを助ける為使ったのは移動用の前方斬り[嵐]、今黒服に使ったのは、優位を取るための周囲斬り[嵐]と言う事だ。


「[嵐]」

「[虚球]」


 だが、相手の[虚球]のせいで優位を取れない。

 いつかの隙、たった一度でも当たれば[嵐]は機能し、圧倒的優位が確立される。

 つまり、今オレが取るべき最善策は[嵐]の連発。


「[嵐]」

「先程から同じ手しかし使っていないな、他の技はないのか? [虚球]」

「お前には言われたく無いな、まあ、変えてやるんだが[伐折羅]」

「な!?」


 オレが優位に出れないのは、[虚球]に斬撃を吸われているから。

 ならば、吸えきれない量の斬撃を、対応しきれない程広範囲に放てば良い。


「終わりだ」

「——それはお前の方だ」

「は?」

「[虚纏]」


 黒服を囲う様にして虚球は集まり、それらは己の主人を

 飲み込まれた黒服は元のカタチへと戻って行き、それが落ち着くと共に、虚球は黒い鎧へと形へ変えた。

 黒い鎧は、伐折羅によって齎された斬撃その全てを飲み込み無効化する。


「虚球は触れたものを消す力なのはわかっているだろう。では、それを纏った私がどうなるか、分かるな?」

「自分の切り札切ってドヤ顔ってか? 申し訳ねぇけどさ……それで勝てると思ってんの?」

「口調が変わっているぞ、どうした、焦っているのか」

「ノってるだけだ」


 そこに技は無い。

 どうせ無効化されるならば、自分の手札を切るのは愚策。

 だからオレはただ剣を振る。

 黒服は己の体全体が武器、一発でも当てれば勝てる。

 ならばスピードと腕力に任せて拳を適当に放てば良い。

 だから黒服もただ拳を振るう。


「斬撃を飛ばし自身の得物を吸われないようにしているのか、では少し、前に出てみようか」

「どこで入手したかしらねぇけど、かなり良い業物なんだわ。だからそういうことされるとすげぇ困るんだよ、なッ!!」


 戦闘は加速する。

 全力で近づく黒服に、絶妙な間合いを保ちながら斬撃をひたすら出す。

 ある種の膠着状態、これを破ったのは、黒服だった。


「——ッ!!」

「っ!?」


 黒服の急激な加速、オレにな勿論対応可能だ。

 しかし、それをわかっているであろう黒服が、尚加速したのに違和感を感じる。

 この状態で逃げるとはまず考え辛い、なら何が狙いか?

 まさか——


「[嵐]ッ!!!!」


 周囲では無く、前方斬り。

 スピードのみを求めたその技は、突進と言って差し支えない。


「ぅぐっ」

「盾になるのは良いが、こうも脆弱だと直ぐに壊れてしまうぞ? ほら、穴が」


 ルリを一旦集中で狙った黒服の拳に割って入る様にして入れた体は、その拳に貫かれていた。


「剣を盾にすれば、また違った結果になったと思うが、既に遅い。期待外れだった。死ね」

「……はぁ、出来れば使いたくねぇんだが、仕方ないか」


 剣が歪んだ光を放つとともに、オレの体は刹那の内にする。


「ただ切れ味が良くなるのが個性なわけねぇだろ、、それがこの剣の真価だ」

「……神の力がどうした。死なない様になっただけで、殺せる様になったわけではあるまい」

「そうだな、この力に殺傷能力は一切ない。でもそれがどうした? そんなもの無くても、お前を殺すには十分な剣技がいくらでもある」


 腰を極限まで低くして、剣を下から上に振る。

 それと同時に左手を離し、手刀で[嵐]を行う。

 

「奥義」

「無駄だ!!」

 

 オレの剣はしっかりと黒服に届いていた。

 それでも尚無駄だというのは、黒服が自身の[虚球]を纏った[虚纏]に絶対の自信があるからだろう。

 

 黒服、お前はそのに、殺されるんだ。


「——[天喰]ッ!!」


 世界が削れる。

 それはどんなに硬くても、分厚くても、決して防げない。

 [虚纏]すらも意味を成さない、圧倒的なまでに理不尽な一撃。


「勝負アリだな」


 黒服は上半身と下半身がが真っ二つに分かれた状態で、地面に倒れた。

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