第5話 悪魔①

「これで、何神目だ?」

「ルシファーさん、そろそろ休んだら?」

「さん付けなんてしなくても大丈夫だぞ、ルリ。それと休みたくてもコイツらが仕掛けて来るんだ」


 オレは剣を鞘へと収めながら、光となり間もなく分散するであろう襲撃者に目線を送る。


「ごめんなさい、私のせいで」

「自分で選んだ事だ、気にするな。それよりもルリ、少しこの耳栓をしておいてくれるか? 後、目を塞いどいて欲しい」

「? 分かった」

 

 刹那、オレは後ろに斬撃を一つ飛ばし、流れのまま距離を斬る。

 剣は最終的に、翼を生やしたメガネの男の首元で静止する。

 尾行していた者——メガネと呼ぶことにしよう——は地上に居らず、更には500m程離れていた。

 しかしその程度では、認識出来ない方が難しい。


「空、飛べるんですね」

「空間を斬れば良いだけだ、簡単だろう」

「……ちなみに、ルリさんの警護は完璧ですか?」

「完璧だ、それがどうした」

「所で私の部下がルリさんの背後を取っているのですが、本当に完璧なんですか?」

「驚いた、お前の部下は瀕死の状態でオレより素早く動けるのか」


 最初に飛ばした斬撃は、想定通りの働きをした様だ。

 後ろを振り返ると、血を流しながら割とグロイ感じでメガネの部下がぶっ倒れている。

 ルリに目を隠す様に言っておいて良かったと心の底から思う。


「ルリに危害を加えようとした、その時点でお前らは襲撃者と変わらない。オレの言いたい事は分かるな?」

「……私の部下は、この森に何千と潜んでいます。これでもまだ、ルリさんの警護が完璧だと、そう言えますか」

「疑問文に疑問文で返すな、そんな事、聞かなくても分かるだろう?」


 オレは剣を、メガネは虚空から書物を。

 一触即発の空気が流れる中、その空気は破壊される。


「ルシファーさん、まだ?」

「「!!」」


 バチバチとした空気には似合わない、とても可愛らしい声によって、一瞬、和む。


「……待たせすぎてしまったな、確かにこれは、完璧じゃない」

「……」

「今すぐ立ち去るなら見逃す」

「……」

「何だ、何かあるのか?」

「……お願いがあります」

「何?」

「最高神を、殺して下さい」

「あ?」


 瞬間、超弩級のサイズの歯車が出現し、途轍もなく気持ちの悪い空気が流れる。


「[夜天・連星]」


 しかし、その程度で剣は鈍らない。

 オレの剣技は見事に決まり、歯車は崩壊する。


「……メガネ、何だ今のは」

「『身捧げの歯車』、天使10万体の命を強制的に捧げられ作られた、最悪の監視等です」

「10万の命を強制的に……?」

「現最高神、ゼウスJr.は、旧最高神ゼウスと真反対の、天使蔑視を行っています。お願いします、ゼウスJr.を——」

「[嵐]」


 たった一瞬の違和感。

 それはオレの危機感を最高潮まで上げた。

 メガネを巻き込み、爆速でルリの元へ戻る。

 次の瞬間、メガネが居た場所には巨大な黒い球が出現し、その中から黒い服装をした貴族のような男が出てくる。


「流石は神殺し、素晴らしい反応速度だ」

「素晴らしい? おいおい……オレはお前を評価する立場だぞ」

「[虚球]」

「……へぇ、これは、高い評価つけれるかもな」


 オレはこの黒服がどのような存在なのか知らない、だが、並の実力ではないのは確か。


「そこのメガネ、聞きたい事は山程ある。だから死ぬな、そしてルリを守ってろ。そしたらさっきのは忘れてやる」


 目を閉じ、開く。

 息を吸い、吐く。

 自身の中で、明確に意識が切り替わる。


「黒服、楽しませてくれよ」

「黒服? 私の名は——」

「聞いてねぇ、[嵐]ッ!!」

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