第8話 第0話③

「これよりC級ダンジョンの攻略を開始する!」

 

 車に乗ってから一気にここまで記憶が飛んだ。

 正直あそこからはひたすら説明説明説明の連続だった為飛ばしてくれて助かった。

 あんなのは一度で十分だ……。

 

 だがまあ、このダンジョン探索に比べれば説明ずくしなんてマシだ。

 このダンジョンで俺は、絶望のどん底に立たされるのだから。


 

 入ってから数分で、俺は数えきれないほど攻撃を受けた。

 その度に痛みに疼き、反撃などは一切しなかった。

 何故か、それはモンスターの動きに


 本来レベル100未満のステータスでモンスターに勝てるわけがないのだ。

 俺が今までB級をソロで攻略できたりしたのは、ステータス吸収と言うチートスキルがあったからで、本来あり得ない。

 

 しかしながら、俺の周りの人達はモンスターをいとも簡単にボコボコにした。

 そう、これが俺のスキルの評価を地の底まで落ちてしまったスキルの優位さの可視化だ。

 吸収系はなんの役にも立たず、火力・強化系はダンジョン攻略にガンガン付いていける。

 この差をダンジョン攻略に行く度に見せつけられ、俺の心は段々と壊れて行った。


 勿論トレーニングやレベリングはしっかりした。

 しかしそれだけでは、ダンジョンのモンスターに付いて行けない。

 そんな中、企業というスポンサーや、ギルド側からの期待は、低ランクダンジョンに挑むと合う選択肢を完全に潰した。


 気づけば記憶が飛んでいた。

 ダンジョンでボコされるというワンパターンな記憶の為飛んだのにあまり気づけなかった。

 全くもって最悪な夢だ。

 

 又飛ぶ。又飛ぶ。又飛ぶ。又飛ぶ。

 飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ。


「壊れたビデオテープみたいだな、もうやめにしないか?」

「それは効いているというアンサーか?」

「ハハ、何言ってんだよ。……俺の事を壊したいならこっちの方が良いって言ってんだよ」


 記憶は大きく飛び、場面はギルド長と俺の二人、そして多くのギルド幹部の集まる会議に切り替わる。


『多賀谷亮に対し、永久的なダンジョンへの出禁を命ずる』


 そこから更に場面は変わり、親との縁切り発言。

 又変わり、スポンサー達からの激怒。

 いや全く、どれだけの罪を犯せばこうなるのかと頭を抱えてしまうレベルだ。


「同情はしよう。過去には冒険者失格の烙印を押され、今はこうして抹殺命令が出ている。もしも自分がそうなれば自殺するだろうな」

「……」

「俺のスキル[惨劇]は体ではなく心を殺すスキル。この記憶空間で絶望すると、植物人間になってしまうと言うスキルだ。その様子だと、もう折れてしま——」


 瞬間、亮が寡占の首を掴む。

 寡占はそれに、一切対応ができなかった。


「惜しかったな、昨日だったらぶっ刺さってた

「なにぃ……!?」

「こんな所で絶望して立ち止まれる程余裕は無いんだよ、今目の前にあるラストチャンスを離すわけにはいかないんだよッ!!」

「今のお前の状態は、決してチャンスなどでは無い……!!」

「なら無理矢理にでもチャンスにする、全力を尽くす、だから退け!!」

「遅めの厨二病拗らせてんじゃねぇぞガキィ……!!」


 寡占も亮の首を掴み、ガッと力を込める。


「心を折らずとも、この空間で死ねば最低1時間は寝込む事になる。そうなればお前の拘束など容易。だから此処で殺してやる、お前のチャンスとやらを徹底的に砕いてやる!!」

「悪いがここで止まるわけにはいかねぇんだよッ!!」


「「うォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」」


 目は充血し、手の血管がくっきりと現れるほど掴む力は激しくなる。

 それは10秒に満たない非常に短い時間、しかし何時間にも思える激しい力のぶつかり合い。

 激しさは増し続け、そして、その末に——


「ぅぁっ」


 寡占の方が先に力付き、その空間に倒れた。

 同時に空間にヒビが入り、大きくなっていき、爆発的に弾ける。


 収束していくと共に視界は晴れて行き、アスファルトに寡占が倒れて居るのを見て、現実に戻ってきた事を認識する。


「死んで無いよな」

「気絶してるだけですよ?」

「っ!?」


 突如聞こえた声に反応する様に横を振り向くと、そこには誰も居ない。


「上ですよ、上」


 言われた通り上を振り向くと、そこには三名の冒険者が建物の上から此方を見下ろしていた。


「我ら執行部」

「No.4、No.6、No.7」

「三人の脅威の連携スキル」

「「「その効果は強制転移」」」

「[高そ——」


 もう遅いと言うかのように、三人のスキルが発動する。


「[結界]」

「[天陣]」

「[転移]」


 激しい倦怠感と重力感によって、[転移]は恐ろしく正常に機能し亮を転移させた。


「——っ、ここは……?」

「ここは闘技場、いくら荒らしても良い場所だ」

「っ!」


 目の前に立つ金髪の高圧的な目をした男は、尋常では無いオーラを放ち告げた。


「執行部No.8、六道輪廻。貴様を存在ごと葬り去ってやろう」


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る