第7話 第0話②

「[鑑定]」


 ゐの、と名乗った冒険者は、早めに終わらせようと玄関先ですぐさま鑑定を始めた。

 常識的に考えて、家の中に入ってすこしお茶を……なんて暇はない筈で、俺たち一家は何の疑問も持たずその提案を受け入れた。

 

 鑑定は特に何の準備も必要なかった。

 どうやら今回一斉鑑定に当てられた冒険者は全員が[鑑定]持ちの様で、スキルを発動して紙に書き写すだけで終わるらしい。

 その為、鑑定自体はさほど時間はかからず、むしろそれを紙に書き写す作業の方に時間が掛かっていた。

 そこに対しても何の疑問も持たず待っていたのだが、それは両親だけであり、当事者の俺は早く知りたくて少しせっかちになっていた。

 それを察したのか、ゐのは目に見えて素早く書き写す作業を終わらせる。


 そうして書き終わった後、しばらく沈黙が流れる。

 誰かが合図を出したわけでもないのに、全員が息を飲みシーンとなる。

 そうなるほどに、ゐのは言い表せない程の激しい空気感を放っていた。

 

 そしてそれを壊すように、ゐのが口を開ける。

 

「おめでとうございます、多賀谷亮くん……いえ、多賀谷亮。貴方様の事をお待ちしておりました」

 

 ゐのがそう言いながら頭を下げる光景に、俺たち一家は一瞬時が止まり、次の瞬間、驚愕の嵐が巻き起こる。


「ちょ、ゐのさん!? 頭を上げてください!? 何が、え、ちょ!?」

「お疲れなんですか!? お、お茶飲みます!?」

「な、なんかすみません」

「は、はぇ〜」


 父さんは逆に謝り出し、妹に関しては混乱しすぎて変な声を出し始めた中、そこに燃料を追加するように、チャイムが鳴る。

 母さんが大急ぎで出ると、そこには何十名もの武装した冒険者達が!

 バタンと白目を剥いて倒れる母さんの代わりに、父さんが代わりに招くと、彼等も又頭を下げ始める。


「我らギルド、貴方様の様な方をお待ちしてありました」

「???等級スキル保持者の誕生、心よりお喜び申し上げます」

「ギルドを代表して、祝福を述べさせて頂きます」


 言い終えた直後、彼らの辞儀はさらに深く成り、90度の最敬礼まで到達してしまう。

 もう完全に目上の人扱いだ。

 この光景に父さんが母さんの様にぶっ倒れてしまったのは言うまでもない。


「今からギルド本部の方まで来ていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

「は、はい……」


 断れる雰囲気じゃないとツッコむ気力すら無く、俺は玄関から出て指示に従い黒塗りの車に乗り込んだ。


 その先に待ち受けるものが何かを知らずに。

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