第6話 第0話①

 これは憑依というべきなのだろうか。

 朝起き、階段を降り、この食卓まで足を運んだのは全て俺が考え俺が体を動かした結果であり、つまり今の体の主導権は俺にあると言う事だ。

 過去に戻ってきたと言う事はタイムリープだろうか? ……いや、ここは恐らく夢の中だ。

 なんの根拠もないが、確信している。


「太一、どうしたの、朝から変な顔して」

「お兄ちゃんは今日の日だからね〜!」

「あ〜そうだったわね! どんなスキルが貰えるのかしら」

「俺の息子だぞ! 力強いスキルに決まってる!」

「私の息子なんだから、優しい……そう、回復系のスキルなんかになると思うの」

「お兄ちゃんはきっと攻撃系だよ、私とゲームする時ずっと攻めてばっかだし」


 何年も着なれたエプロンを身に纏う母に、その横に座るポロシャツを着た休日の様な服装の父、そして俺の隣に座る3歳年下の妹。

 何年も繰り返した、朝食の風景。

 今はもう無い、と言う言葉が最初についてしまうが……。


 必ず一度は見たであろう、記憶したであろうこの時間。

 本来ならばこんな何年も昔の事など覚えてる筈がない。

 なのに、何故だか次、何を言うか分かるような気がする。

 そう、確か……確か俺はこのあとこう言った筈だ。


『「いやいや、俺には盾役が似合うに決まってる」』


 ハッキリと覚えている。そうだ、その次は全員がこんな反応をしたんだ。


「「「は?」」」


 全部、全部覚えてる。

 この後如何に俺に盾役が似合うか、そして攻めばっかりな事に対しての弁明。

 それから家族全員による自分の進めるスキルのプレゼンテーション。

 おかしな話だが、父親の挟んだ親父ギャグまで覚えていた。

 精神力も関わっているのだろうが、これは確実に……だからだ。

 

 この話題の中心、鑑定の日。

 それは10年前、無秩序だった世界がギルドによってまとめられ始めた頃。

 未来ある若者達がいち早く冒険者スタートを切れるようにと、世界中の高校生に向けてギルドがスキルの一斉鑑定を行った。

 それは1週間と言うとてもとても短い期間の内に、たったの各国たった1万人のみで行われ、基本的には鑑定して即次の家へ移動と言う形で素早く行われた。

 

 固有スキルの存在はギルドによって正式に発表されていた情報の内の一つで、冒険者になる場合重要視するのはここであると言う事も同時に発表された。

 我々鑑定対象者である高校生の着目した点は言うまでも無く自身の固有スキルが何かのその一点。

 およそ1週間前程に鑑定日の日程が届いた全国の高校生とその家族は、どんな固有スキルになるかを日々議論した。

 この鑑定は高校生であればOKであり、不登校や引き籠り、留年組も対象者だった為、ネット掲示板などでも大いに盛り上がったそう。

 

『ピンポーン』


 瞬間、俺は椅子から飛び上がった。

 これは俺の意識ではない。

 おそらく抑えきれない物、過去の俺の意思が混じったと考えるべきだろうか。

 だとしたらこんなにも

 

 俺は誰よりも駆け足で、誰よりも早く玄関に着き扉を開ける。

 そして扉を開けると、そこにはとても爽やかな笑顔の若い冒険者が居た。


「ギルドから派遣されてきました! 久道くどうゐのです! えっと、君が多賀谷亮君かな? 早速鑑定していこうね!」

「よろしくお願いします」


 これが、俺の逆V字冒険者人生の始まりだった。


 


 

 

 

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