一章 エピローグ 『プロローグ』

第1話 純粋なる悪意より

 30分ほど経っただろうか。

 最初に目、次に手、そして体全体と、徐々に体が動かせるようになる。

 亮が目覚めた事に気がついた治安維持部隊の3名は喜びの表情を見せた。

 しかしその顔には濁りがあり、それが自分の事であると言うことは一目瞭然だった。

 聞かないと言う選択肢もある。

 だがそれはこの問題から目を背けると言うことでもある。

 亮は思いきって問いただす。


「どうしたんですか」

「……いや、そのだな」

「俺が倒れたのがまずかったですか? すみません」

「いや、お前のせいじゃない」

「隊長、はぐらかすのはやめにしましょう」

「……そうだな」


 すると餓屋は、手のひらサイズのエクリアを取り出す。

 次の瞬間、空間に平たいパネルが浮かび上がり、その中に人影が見える。

 堂導だ。

 

「こちら治安維持部隊、亮の回復を確認しました」

『……やあ、A級ダンジョン攻略おめでとう、多賀谷君。突然だけど、君、S級指名手配犯に昇格』

「え?」


 想定外のその一言に、亮は時が止まったかのような感覚に陥る。


『困惑するのも無理はないだろう。S級は世界的な大犯罪者に送られる称号だからね』


 S級指名手配犯に指定された者は極悪人ばかり。

 ダンジョン内で合計10000人を殺害した殺人鬼、ギルドの情報を全て盗んだ詐欺師、他にも野放しには出来ないとんでもない犯罪者に送られるS級指名手配犯。

 それに自分がなったことが、亮はどうしても納得できなかった。


『単刀直入に言うと、君のスキルがバレた』

「……どうして!?」

『君がスキルに覚醒したトリガーである強盗だが、ギルドは回収後ステータスがAll1なのに疑問を覚えた。そこからギルドは議論に議論を重ね、君のスキルが覚醒したと言う結論に至った。要するに』


 パネルに写る堂導は亮の指名手配書を手に持ち、それを、どこから抜き出したのかわからない小刀で真っ二つにした。


『冒険者殺しと言っても過言ではない君を、抹殺しようとしてる訳だ』

「うそだろ……」


 それはつまり、何をしても永遠に追われ続けると言うことだ。

 自分の安全性を誇示しても、冒険者を辞めると言っても、何をしても変わらない。

 何故なら存在することが危険だと判断されているから。

 

 思わず膝から崩れ落ちる亮に対して、堂導は落ち着いた声音で語りかける。


『貴方が助かる唯一の方法があると言ったら?』

「「「「!?」」」」


 その言葉に驚いたのは、俺だけではなかった。

 初耳だと言う様に、餓屋達3人も驚いていた。

  

『治安維持部隊の皆さん、耳を塞いで貰えますか? いつも持ってる耳栓で。目も瞑って置いてもらえると』


 すると茅末と風越は素早く耳栓をして目を塞いだ。

 持ってない餓屋に対して、亮は咄嗟の起点で自分の耳栓を貸す。

 こうして亮と堂導の二人だけの場が一時的に作られた。

 準備完了と言わんばかりに、堂導は話し始める。


『君が疑われている理由である[ダメージ吸収]覚醒説は、一つだけ隙がある。それは、。今君への疑念は、99%だが100%ではない、そんな状態なんだ。つまり、そこに我々群馬支部で改竄したステータスがあれば、崩せる

「……本当にそれだけで崩せるのか?」

『だからかもしれないと言ったんだ。この作戦には大きな穴が一つある。君が吸収してないなら、誰が彼のステータスをAll1にしたのか、と言う点だ』

「それはどうしたら解決できるんだ」

『それは……』


 そこで通信はブツリと切れる。

 見ると、エクリアは粉々に砕けていた。

 それと同時に、餓屋達3人は耳栓を取り戦闘体制に移る。

 その行動に対する説明は、そのすぐ後に行われた。


「[氷槍]」

「[完全遮断]」


 亮目掛けて飛んできたそれは、茅末の魔法によって無効化される。


「困りますね、治安を維持する貴方達治安維持部隊が、

 

 そう口に出すのは、180程の高身長で、白い髪をした青い目の男。

 服装は白を基調としたダウンジャケットで、寒さ対策をするかのようにマフラーや長ズボン、手袋など徹底されている。 


「ギルド執行部No.5シロと申します。執行を開始いたしますので、治安維持部隊の方々はどいてもらえると、それか……一緒に死にますか?」

「亮、今すぐ逃げろ」

「……分かりました」


 俺らが食い止める。

 そう言うニュアンスで言われたはずだ。

 ならば俺のとるべき行動は、迷わず逃げる事、隊長の覚悟を無駄にしない事——


「[高速移動][思考加速]」

「逃げられては困ります。[冰結世——」

「[命焔乃一撃]」


 シロのスキル発動に一瞬のブレが生まれる。

 しかしシロは決して隙を作らない。

 風越の即死攻撃を軽々と避け、新しくスキルを発動し始める。


「[冷気拡散]」


 瞬間、亮を除いた全員の動きが止まる。

 それは寒さからか、それとも圧倒的な力による恐怖からによるものなのかは不明だが、それは亮を追うには十分すぎる時間だった。


「捕まえました……よ?」


 完璧に亮を捉えていた。

 しかしシロは、何もない虚空を掴んでいた。


「寝てる間に5発ぶん殴った。上手く機能してるみたいだな、[心闘滅脚]は」

「なるほど、これは参りましたね。……まぁいいです、貴方達を倒し、今の発言を元に彼の無罪説を完全に潰すとしましょう」

「本当に俺らに勝てると思ってるのか?」

「……? ただの治安維持部隊が、我々執行部に勝てるとでも?」

「ただの治安維持部隊じゃねぇよ……俺らは、悪魔だ」


 瞬間、餓屋と茅末と風越は、禍々しいオーラを放出する。

 それと同時に、部屋全体が重苦しいなんとも気持ち悪いもので覆い尽くされる。


「亮の前じゃこんなの見せる訳には行かないだろ?」

「我々の目的は彼を単独行動させる事。それが達成できた今、力を隠す理由も義務もありません」

「さっきの変な術のお返ししちゃうよ!」

「クソ……[冰結世界]ッ!!」


 刹那の間に部屋内をとてつもない冷気が支配する。

 本来ならばこのスキルは、一切動けなくなる最強スキルのはずだった。

 彼らが相手でなければ。


 そこからは記す価値も無いほどに一方的に、一瞬で全てが終わった。

 部屋の床には、体に風穴の空いたシロの姿があった。


「私は、執行部の中でも、最弱……、必ずNo.1が貴様らを倒す……」

「No.1は駒として潰される。お前達執行部全員、飲み込まれる」

「それが王の筋書きだから」

「地獄で朗報を待て! じゃあな」


 そう言って彼等は去って行った。

 目的地は、吸収の力を持つ冒険者の元。

 王の力を持つ、冒険者の本へ。

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