第9話 治安維持部隊③

 戦場は激化する。


 攻める餓屋と風越、その2人を襲う蜂は全て茅末の[完全遮断]によって塞がれる。

 その連携はあまりに見事だった。

 攻撃の隙すら与えてくれなかった女王蜂は、いつの間にか逃げ回っている。

 勿論女王蜂も負けずと蜂を飛ばす量を増やすなどして対抗している。

 拮抗した状況、自分にはできなかったそれを作り出した彼らに、亮は尊敬と、そして申し訳なさを感じた。

 これが出来る彼らに託された物を、自分は遂行出来なかった。手伝ってもらう形になってしまった。

 ギュッと拳を握る。


 その負の空気を破ったのは、茅末の声だった。


「多賀谷君……いえ、亮ッ! 君は今自分が情けないと思っているんだろうな!」

「っ!」

「私は君に勝てと言った、それ以上は求めない! そして君は勝った、十分だッ!!」


 勝った? 何に勝ったと言うんだ。

 女王蜂の攻撃に対して一切反撃できず、加勢が無ければ死んでいた自分が何に勝ったと言うんだ?


「これはソロ攻略では無い、治安維持部隊としてのチームプレイだ! このダンジョンは事前情報から蜂の大群が襲ってくる事が分かっている。しかし来ないのは何故か? それは君が倒したからだろう? 実言えばこの構成、集団は苦手なんだ。つまり君は既に活躍した。君はチームの役に立った。それだけで勝ちだ!!」


 茅末は、しかしと続ける。


「立ち尽くしている君は何の役にも立っていない。君に出来る事はもうなくなったのか? 君はあの蜂に1ミリもダメージを与える事はできないのか? 君の体は、もう言う事を聞いてくれないのか!?」


 そして茅末は、目をカッと開き言い放つ。


「君は8年前から違わないと言うのか? 君がこうして一切反撃ダンジョンに、冒険者の世界に戻って来た意味を見せてみろ!」


 世界最強の冒険者になりたい。

 28歳になってもあの頃と全く変わっていない。

 よく考えて見れば何が変わったのだろうか?

 手に入れた強い力に舞い上がって、こうして窮地に立たされる。何も変わっていない。

 

 違う。

 

 今は挑戦権がある。

 このステータス吸収は世界最強を目指せる最高の挑戦権、これが前と変わった点。


 違う。


 [ダメージ吸収]は、覚醒する前から壊れていた。

 俺がずっと目を背けていた事実。

 火力特化のスキルや武器を入手すれば死なない不死身の特攻型とし最強になれたはずだ。

 企業は俺のスキルで見限ったんじゃ無い。

 俺の姿勢を見限ったんだ。

 

 何も変わっていないじゃ無いか。

 あの頃と変わらずガキのまま。

 俺がこの8年は、自らチャンスを手放して自業自得で不貞腐れると言う呆れるような事だった。


 そうして気づいた。

 今自分が悩んでることはなんともアホらしいことだと。

 

 ただ、今変われば良いだけの話なのだ。

 ほんの少し手を伸ばせば良い。


「先輩、帰りは担いで貰えると助かります。——[転換〔蒼〕]」


 何かが外れた感覚がした。

 次の瞬間、亮の左目は青く染まる。

 その目を閉じ、亮は息を鋭く吐き出す。

 吐き終え目を開くと同時に、亮は地面を蹴る。


『[超速移動]』


 それは生物としての本能か、女王蜂は異次元の速度で逃げる。

 餓屋も風越も追いつくのが不可能な、生物として異次元の速度で逃げる女王蜂。

 しかしそのに、亮は自身ので追いつく。

 

『[命毒]』

「[中止]」


 超至近距離で撃たれる女王蜂の命毒は、なんの苦も無く消される。

 どころか


「[削除]」

『っ!?』


 女王蜂は、完璧と言わざるを得ない隙を作り出されてしまう。


「[天撃]」


 その一撃は女王蜂の体に傷を刻む。


「[天撃]」


 その一撃は女王蜂の体を蝕み続ける。


「[天撃]」


 その一撃は女王蜂の隙を新たに生み出す。


「[天撃]」


 その一撃は女王蜂の悲鳴を生む。


「[天撃]」

 

 その一撃は、終わらない。

 

「[天撃]」


 その一撃は、

 女王蜂を絶命へと至らせた。


 女王蜂はゆっくりと地面に堕ちる。

 それと同時に、[転換〈蒼〉]は役割を終え、効果が切れる。

 亮が倒れるのは、それから数秒の事だった。

 

 

 


 

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