第8話 治安維持部隊②

「[高速移動]」

『[超速移動]』

「っ!?」

『速さに驚いたか? それとも、喋った事に対してか?』

「力で勝てないからって口で勝とうとしてんのかよ」

『なんだと』

「怒ったか? じゃあ口でも俺の勝ちだな」

『ぼざけ』


 こちらが高速であるのに対し、女王蜂は超速。

 一見不利に見えるが、そんなことはない。

 女王蜂が先に仕掛けてきてくれるというなら都合がいい、なぜなら……


『死ね、人間』

『[命毒]』


 異次元の速度で飛んできた黒い正体の掴めない針状の物は、亮の左腕を掠めた。

 それは亮にとっての起点、勝利へのトリガー。


「[臥龍点睛]」

『何!?』

「先に仕掛けてくれた方が都合がいい。俺の攻撃は、後出しの方が強いからな」


 女王蜂は自らの攻撃をそのまま返される。

 それは全力とまではいかないものの、非常に強力な一撃であった。

 その為女王蜂は、重大なダメージを負った。

 その筈だった。


『お前は巣の中で私が居眠りをしていたとでも思ったのか? カウンター……いや、吸収と読んだ方が正しいな』

「……っ!」

『口では勝たせてもらったという事でいいのかな? では次に、力で勝たせてもらおうか』

「自分で言っといて気づかないのかよ、お前の言う通り俺に吸収能力があるとするなら、不利なのは確実にお前だ」

『その吸収は死体にも有効なのか?』


 瞬間、気づく。

 先程の攻撃を喰らった時、いつもの吸収した感覚がなかった事。

 そして、さき程攻撃を受けた腕がいつまでも回復しない事。


『速すぎて見づらかっただろう? 特別に教えてやろう。これは私がたった今生み出した蜂だ』


 そう言うと女王蜂は、今度は少し遅めに針を飛ばす。

 今度はハッキリとわかった。

 確かにそれは、蜂だった。

 目で終える速さのそれは、勿論避けれた。

 蜂はそのまま地面を目指し、刹那の間に底に到達する。

 飛んだのはただの蜂、それのどこがこの左腕の状況を生み出しているのか。

 その答えはすぐにわかった、女王蜂の出す蜂は普通の蜂とは違う点がある。


「衝突の瞬間死ぬ……?」

『吸収が使える相手と遠い昔やり合ったことがある。完敗した後リベンジの為生み出したこの戦法、奴が死に意味のないものになっかと思ったが……、どうやら使えるようだな』

「[渾身の一撃]」

『[命毒][命毒][命毒][命毒][命毒]……』


 こんなにも攻撃を避けるのは、堕龍以来だろうか。

 いや、堕龍はつい最近戦ったばかり、となると最近避けてばかりと言うことになる。

 ステータスを吸収するスキルを持っているにも関わらず、避けてばかりとはにんとも無駄であり理解不能の行動。

 しかしそれは仕方ない。

 当たれば死ぬ攻撃を吸収しようとして当たりに行くことこそ理解不能な行動だ。


 攻撃を喰らえば即死。

 攻撃を喰らわなければ相手にダメージを与えるどころか、近づけもしない。

 しかし! 攻撃を喰らえば、


「[思考加速][高速移動]」


 効果が切れてきたスキルを掛け直すと共に、自身に疲れが溜まってきていることに気づく。

 スキルは特に回数制限も何も無い、あるのは、連続使用や何十回も発動する場合に発生する精神的疲労。

 この疲労は睡眠でも取り除くのは難しい。

 

 疲労は判断ミスや思考力低下など、ある種ステータスが下がるよりも深刻な状態異常。

 しかしこの条件である連続使用や何十回もと言うラインは、中々超えることはない。

 その為、誰もがあまり気にせずスキルを使っている。

 しかし——


「……っ[高速移動]」

 

 明らかな疲労の声と共に使われたスキルは、たった今発動30回目を越した。

 

「[思考加速]っ」


 それもまた、10回を超えていた。

 無数に飛んでくる針を全て避ける為、その動かに合わせるかのように強引な方法としてスキル効果を濃縮すると言う行為を行い始めた。

 それにより全ての攻撃を避けれる事に成功したが、この回数は、まずい。


「[こうそくぃ……]」


 その時、疲労が自信にトドメを刺した。

 舌を噛んだ。

 たったそれだけだ。

 日常生活に溢れるミスのうちの一つ。

 それが、敗因だった。


『[命毒]』

「…………詰んだか」


 避けれるはずがない。

 大人しく目を瞑り、その一撃に自信を委ねた。


 その瞬間——


「[蘇生]」


 目の前に見慣れた女性が立っていた。


「[命焔乃一撃]」


 刹那の間に、亮に迫っていた蜂は全て消滅する。

 

『[命毒][命毒][命毒][命毒]ッ!』

「[創]」


 そのスキルと共に亮を狙う蜂は、地面に向かうことが最優先事項かのように亮を避け地面に到達する。


「安心しろ」

「ここからは私達も入るから!」


 2人は女王蜂のさらに奥を見る。


 次の瞬間、女王蜂が横に吹き飛ぶ。


「チッ、この程度しかいかねぇか。まあいい。やるぞー!!」

「「ッ!!」」


 餓屋が女王蜂に向かって突っ込むや否や、2人も同じ速度で、連携の取りやすそうな地点を目安に女王蜂へと突っ込む。




 

 


 

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