第3話 再登録

 冒険者ギルドは世界各国に支部を持つ、冒険者を纏めダンジョン攻略の最先端に立つ組織だ。

 様々な技能が集結しているそのメリットを活かし、治安維持や研究や医療、消防、被災地への支援等幅広く動いてる。

 

 その手広さがどのように成り立っているのかと言うと、主に引退した冒険者や駆け出し冒険者が行なっているのだ。

 冒険者の任務はダンジョンに潜るのがメインだが、低ランク層はそうは行かない。

 日々更新される装備、どんどんと強くなっていくモンスター。

 そのレースに取り残された冒険者達は、ダンジョン探索から引退して治安維持に努めているのだ。

 又、新人冒険者には開始時お金が無く装備なしで潜るのは命取りとして、お金を貯める為に治安維持の任務を請け負っている事が多い。

 彼等は、自らのステータスとスキルを駆使して日々治安維持に貢献している。

 他の者に関しても、医療なら回復系のスキルを持った冒険者が、消防なら水系のスキル持ちやパワー系のスキル持ちが、と言うように適材適所でその力を活かす。

 この様にして、冒険者の需要は永遠に保たれているのだ。


 そう、こんな俺でも。

 八年前、丁度その頃にギルド治安維持などの方面にも力を入れ始めた。

 当然その頃はとにかくダンジョン! と言う流れで引退した冒険者等は存在せず、新人冒険者位しかその仕事を受けていなかった。

 治安維持には数名の新人が参加していて、確か5名程居た気がする。

 五人共ダンジョン未経験で、唯一ダンジョンに潜っていた俺は経験者として——ほぼ何もして無い寄生虫だったが——ダンジョンの話をしていた。

 彼等は目を輝かせて聞いていて、俺は申し訳なさを覚えながら毎日のように聞かせた。

 

 半年後五人は冒険者としてデビュー、彼等はパーティーを組むと言っていた。

 俺を誘ってきてくれたが、今は無理だと断った。

 理由を聞かれても言えなかった、禁止令があるなんて恥ずかしくて堪らなかったからだ。

 彼等は俺に、いつまでも待っていますと言ってくれたが……流石に七年後の今でも待ってるなんてそんな事はないだろうな。

 

 それから更に半年後、俺は遂に治安維持と言う仕事さえ奪われる事になった。

 その理由はとても筋が通っていて、内容は俺が犯行を行う者達を止めれずボコボコにされているからだそうだ。

 確かにこんなのは治安維持とは呼べない。

 治安維持の任務にも禁止令が出され、俺は仕方なくコンビニバイトを始めた。


 さて、そんな禁止令二個待ちの俺は今どこに居るのかと言うと、群馬の冒険者ギルド支部だ。

 俺は神奈川の横浜市住みなのだが、わざわざここまできたのは理由がある。

 その理由とは——

 

「おいおい、ペテンじゃねぇか!」

「「ペテンだ!!」」


 後ろから聞こえた、これは恐らくダンジョン帰りの冒険者だろう。

 昔の俺ならビビっているのだろうが、今は違う。

 あの強盗、菅屋から吸収した精神力のステータスがメンタルを支えてくれているのだ。

 

 精神力は、その名の通り精神に関係している。

 精神力を極めると、不安や悩み、恐れ、さらには呪いや弱体化の効果までも無効化する事が出来る為重宝されており、今この場では俺の恐れや不安を解消してくれて居る。

 俺は彼等の言葉を無視して、ギルドの扉を開ける。


「——再登録に来た」


 瞬間、場が凍りつき、そして次の瞬間、後ろの冒険者達が大爆笑する。

 それに釣られてギルドの中で話し合いや飲食などをしていた冒険者達も笑い出す。


「おいおい! 再登録は固有スキルが覚醒をしたらするもんだぞ!」

「ダンジョンに潜ってないペテンサマがどうやって覚醒するのか是非お聞かせ願いたいな」

「「ハハハハハハハハハハハ!!」」


 俺は、それらも無視してカウンターまで進む。


「鑑定して下さい」

 

 俺は、魔法陣の書かれた紙に手を翳す。


 固有スキルには、覚醒と言う物がある。

 覚醒には条件があるが、達成し覚醒に至ることが出来れば、どんなに弱いスキルで有ろうとも、強力なスキルとなる。

 それこそが、冒険者スキルと固有スキルの圧倒的な“差”であり、固有スキルの重要性を高める要素なのだ。

 

 勿論固有スキルは、一人一つしか持てない。

 こんなのは常識だ。

 しかし、俺のダメージ吸収は覚醒し、ステータス値、そして相手の固有スキルを吸収出来る。

 あの時は強盗との対決で焦り、このスキルのヤバさに気づかなかったが、今ハッキリする。


「おいおい、良い加減帰れよ。落ち目のペテ……」

「え、固有スキルが二つ?!」

「「?!」」


 ギルド職員は、急いでギルド長の部屋へと走っていく。

 俺は、自身のステータスが書き記された紙を確認する。


〈名前〉多賀谷亮たがや りょう

〈レベル〉1

〈力〉10(+200)

〈体力〉10(+100)

〈精神力〉10(+30)

〈俊敏〉10(+40)

〈固有スキル〉

《覚》[ダメージ吸収]

 敵から攻撃を受けた時、ステータスの10%を吸収する。

(以下略)

[獅子奮闘]

 自身の力が+100%増加

〈冒険者スキル〉

(以下略)


 [獅子奮闘]からβが消えているのは完全に吸収し切った証拠だろう。

 そうしてステータスを確認している事三分、ギルド職員が小走りで戻って来てこう告げる。

 

「支部長がお呼びです」

「分かりました、行きましょう」

「な、なにが、どうなって……」


 俺は、膝から落ちて固まる冒険者を放置して支部長室へ向かう。

 部屋の前に着くとギルド職員は扉を3回ノックして、俺を連れて来た事を伝える。

 するとどうぞと言う声が聞こえ、ギルド職員によって俺は中へと案内される。


「座ってくれ」

「分かりました」


 俺が座ると、支部長は手で合図をする。

 すると、中に居た秘書らしき人と俺を案内してくれたギルド職員の2名が出ていく。

 支部長はかなりのイケメンで、白い髪に赤い目、スタイルが良く筋肉質に見える。


「それで、何故わざわざ群馬支部まで? こんな所まで何時間も掛けて、なんの利益も無いと思うけどね」

「いや? ここじゃないとだめだ。俺は統括理事会の1人、堂導廻どうどう めぐると話したくて来たんだからな」

 

 先程まで曖昧だった視線は一気に鋭くなり、その目は亮を捉える。

 統括理事会と言うのは、限られた人しか知り得ないギルドで最も権力の高い最終議決組織であり、名前も姿も謎に包まれたギルド長はその統括理事会の理事長だと言われている。


「……その情報はどこから?」

「俺が雑魚だと分かったのは特別扱いを受け始めてから二年後、つまりその二年間は俺が冒険者界隈のTOP、あらゆる情報が入ってきた。だからある程度の事は知ってる。堂導さんが監査官として業務に参加し、様々な支部の支部長として動き冒険者ギルドを日々改善している事もな」



 統括理事会の中でも監視官として現場に出ている堂導の発言権は大きく、俺の参加禁止令も解ける筈だ。

 俺が群馬支部を選んだ理由は、この方法が禁止令を取り払うのに一番早く正しいからである。

 

「僕がその監査官だとすれば、君の想像する事は可能だろうね、しかしどのように説得するつもりだい? 別に監査官だと言う情報を公表されても僕は大したダメージを負わないし、脅しの材料にはならない」

「脅すつもりはない、大体その腕前ならこの部屋に入った瞬間からいつでも無力化できる、そうだろう?」


 俺がそう指摘すると、堂導は袖に隠していたナイフを素早く出し構える。


「よく気づいたね……、でも、これはただの護身術だ、これも脅しの材料にならない」

「俺は交渉をしに来た」

「交渉? 君は何を差し出せると?」

「おいおい、目の前にあるだろ」


 堂導はその言葉に困惑の表情を浮かべるが、次の瞬間何かに気づいたのか唇を吊り上げ強烈な笑みを浮かべる。


「堂導廻が監査官に立候補した理由、それは面白いものが大好きだから」

「まさかだけど君は」

「人類史上初の固有スキル二個所持者、これから三個四個と増えていくかもしれない。更には相手のステータスが吸収できるスキル持ち。こんなにも面白い人間は後にも先にも居ないと思うが、どうだろう?」


 堂導は顔を伏せ考え込む。

 そして二十秒程して考えが纏まったのか顔を上げる。


「確かに君は今最高に面白い。正直ここでOKを出してしまいたい、だがしかし統括理事会の一人としての理性がそれを止める。だから僕を納得させてくれ」

「具体的に何をすれば?」


 堂導は、机の上に置いてあった紙を表にして俺に差し出す。


「龍を殺してみろ」


 その紙にはこう書いてあった。


 B級ダンジョン

 主な出現モンスター:バケトカゲ、ヤミコウモリ、ドクドクヘビ

 ダンジョンボス:堕龍

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る