第2話 覚醒

「[鑑定]」

 

 俺は咄嗟の判断で[鑑定]を発動する。

 勿論。犯人にバレないように小声でだ。


 [鑑定]は相手のステータスやスキルを表にした物を見れるスキルで、モンスターでも人間でも対象に際限は無い。

 戦闘時は情報が有ればあるほど有利である事から需要は高いが、反対に覚えるのは困難で供給率は低い。

 入手難易度とその有用性から階級としてはユニークに分類されている。


 そんなレアスキルを何故俺が待っているのかと言うと、企業から貰っていたからだ。

 俺の知名度が上がる程、支援をしたスポンサー企業の評判も上がる。

 だから企業は大金を費し『スキルの書』を俺に渡した。

 スキルの書と言うのは読むとそこに書かれたスキルが入手出来る物で、その内容は謎の言語の文字列が何十頁にも続いている。

 ダンジョンの出現に対しての原因解明の研究材料にもなると、この様な視点からも需要が高い。

 これを貰っていたから慰謝料とかがバカ高くなり、周りからの非難が激しくなった可能性もあるのだが……今役立ってくれるなら+でしか無い!


 強盗をしてきた者のステータスが表示される。


〈名前〉菅屋英介すがや えいすけ

〈レベル〉10

〈力〉100(+100)

〈体力〉100

〈精神力〉30

〈俊敏〉40

〈固有スキル〉

[獅子奮闘]

 自身の力が+100%増加

〈冒険者スキル〉無し


 参考までに俺のステータスも載せておく。


〈名前〉多賀谷亮たがや りょう

〈レベル〉1

〈力〉10

〈体力〉10

〈精神力〉10

〈俊敏〉10

〈固有スキル〉

[ダメージ吸収]

(以下略)

〈冒険者スキル〉

[鑑定]

 相手のステータスを看破する。

[思考加速]

 視覚的・聴覚的情報の処理能力向上。

[渾身の一撃]

 自身の攻撃力×10の一撃を放つ。


 [思考加速]も[渾身の一撃]も階級はレアだが強力なスキルで、どちらとも企業からスキルの書を貰い習得した。

 この二つがあれば、多少の実力差は埋められると言われているのが……


 ステータスは、十離れるだけで子供と大人位の差が開く。

 百以上離れてしまうともはや比較にならず、強引に例を出すとしたら人と戦車程の差と言える。

 俺と菅屋のステータスを比べると、力と体力の二つが百近くも離れているのが分かる。

 これでは、スキルで多少の差が縮まっても無意味だ。

 まともにやり合っても勝てない、なら逃げるしか無い!


 強盗に気づかれ無いようにそっと目線だけを寄せた俺は、レジ横のバックヤード入り口からこちらを覗き混む店長と目が合う。

 すると店長はビクッとした後に、いつも会議などで使っているホワイトボードに何か書き俺に向けてこそりと見せる。

 俺は、ホワイトボードに書かれた文字を黙読する。


『多賀谷君、特別ボーナスか無職のニート生活、どちらが欲しい』


 店長の訴えるような厳しい目線は、書かれている内容が如何に真実であるか物語っていた。

 ステータス差もあって逃げ切れる保証は無い。

 逃げれば死、あるいは重症になる事間違い無し、ならば特別ボーナスの為に頑張るのが今の俺に出来る最善だ。


「強盗さん」

「あ? なんだ」

「なんで強盗なんかするんだ? あんたのステータスなら、十分ダンジョンでもやっていけるだろ」

「それは……、ムシャクシャしてるからだ!」

 

 思わず[鑑定]を使った事がバレかねない失言だったが、興奮状態で気づかなかったのだろう。

 俺は場に似合わない安堵の息を吐く。


「さっきからなんなんだ、まずはお前から殺してやろうかっ!?」

 

 一瞬怯みそうになるが、そうしたらずっと強盗のペースになるに違いない。

 俺は、敢えて強気に出る。


「そんだけのステータスがあれば銃なんて使わなくても俺を殺せるだろう? それなのに銃を使っている。お前は殺す気なんてないんじゃ無いか?」

「そ、それはこの店ごと壊れたら金ごと消えちまうからだ!」


 しかしその言葉が嘘である事を証明するかのように、銃を持つ手は震えている。


「強盗さん、俺はこれでも昔冒険者をやっててな、少しなら相談に乗れるはずだ」

「……俺だってやりたくてやってるわけじゃねぇ」

「何があったんだ? まずはその銃を下ろして、冷静になろう」

「あ、ああ……、そうしヨ゛ぉ゛」


 刹那、亮は強盗からモンスターと同じ物を感じた。

 強盗の腕は薄紫色に変色し、全身が漫画の様な筋肉へと。

 目は完全にキマッている。


 そして、手に持つ銃の意味も変わった。

 手が全く震えていない、強盗……いや、目の前の化け物は今


 俺は咄嗟にレジを開き、中に入ってる札束をばら撒く。

 強盗がした金に対しての発言が真実であると言う一点に賭けた、結果の分かりきっている作戦。

 あんなのは言い訳、虚偽に決まっている。


 だが、それしか希望が無い。


「[渾身の一撃]」

 

 それは、しっかりと強盗の脳天を捉えていた。

 男と俺のステータス差だと、精々気絶させるのが精一杯だが今はそれでも十分。

 俺は、祈るように拳を放つ。

 

 ——しかしそれは強盗の右手によってぽすんと言う音と共に受け止められる。


「——くそっ!」

 

 俺は距離を離そうとするが、それを無駄な事を知っている。


 強盗は、銃弾を放つ。

 その銃弾は確実に俺を捉えていた。

 しっかりと、脳天を。

 普通なら即死だろう。


 銃弾が発砲されてから僅か零点数秒、それは俺に命中した。

 俺の意識は急速に落ちていき、重たい瞼をゆっくりと閉じる。


 完全に絶命するその瞬間、謎の声が聞こえてきた。


『特殊条件達成、スキルが“覚醒”しました。スキル説明欄の“対象”に相手を直接追加。効果が変更。10%を


 瞬間、体が明らかに軽くなったのを感じる。

 試しに[鑑定]でステータスを覗いてみる。


〈名前〉多賀谷亮たがや りょう

〈レベル〉1

〈力〉10(+11)

〈体力〉10(+10)

〈精神力〉10(+3)

〈俊敏〉10(+4)

〈固有スキル〉

《覚》[ダメージ吸収]

 敵から攻撃を受けた時、の10%を吸収する。

(以下略)

[獅子奮闘β]

 自身の力が+10%増加

〈冒険者スキル〉

(以下略)


 ステータスが吸収できている時点で驚きだが、なんとあの『固有スキル』までも吸収できてしまっている事に、俺は驚愕する。

 強盗のステータスも確認する。

 すると、俺が吸収した分のステータスが減っていた。

 もしこれが何回でも出来るなら……!


「銃弾一発程度じゃ死なねぇよ、なんなら、もう一発行ってみるか?」

「ウガァァァァァァァァ!!!」

「おいおい、完全にモンスターじゃねぇか」


 こうして俺は、計六回打たれた。

 その後も、散々殴られ続けた。

 強盗は、自分のステータスが下がってるとは知らずに。

 

 一時間が経って、強盗は明らかに動きがトロく、弱くなった。

 反対に俺は、体力も力も増している。

 今ステータス差は完全に逆転しているに違いない。

 しかし、ダメージは吸収されるだけであって痛みはある。

 銃で六発も打たれさらには一時間も殴られ続ける。


 こんなのを耐えれたのは俺の身体がからかも知れない。


 なんて、そんな訳のない妄想をしながら、限界の来ている身体に無理を効かせ強盗に別れの言葉を告げる。


「殴り続けてくれて有難う、お陰で、ステータスを身につけられたよ」


 俺は強盗に対して拳を叩き込む。

 [渾身の一撃]では無く、力のステータスだけで放たれた一撃。

 その一撃で強盗は気絶してしまった。


 警察の役割も担っているギルドは、110で呼べる。

 俺は慣れた手つきで通報をして、仕事は終わりましたと店長に親指を立ててグットポーズを取るが、次の瞬間何が起こったか悟り土下座の体制を取る。


「多賀谷君、店がボロボロじゃないか!!」

「すみませんでしたァ!」


 後日、店長は特別ボーナス取り消しだけで済ましてくれた。

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