第7話 Vtuberの家に来た
タクシーを降りて、バッグを三つ持ちながら大きなキャリーバッグを僕は引く。
目の前には巨大なタワーマンションがあり、一階部分にはデザインされたエントランスがあった。
「このマンションなんだけど、他の人には言わないでね?」
「も、もちろんです」
エントランスに入ると、コンシェルジュ? があって、警備員の人も立っている。
僕からしたらこんなのホテルと変わらない。いったい僕のアパートの家賃何ヶ月分なのかと、庶民感丸出しで思ってしまう。
レイラはエレベーターに乗ると、カードをかざして一三階のボタンをタッチした。
どこかのホテルみたいだ。あんまり知らないけど、さすがにこんなセキュリティー当たり前ではないよね?
外観からエントランス、エレベーターと僕は圧倒されてしまう。
レイラの後ろをついていくと、当然レイラの後ろ姿が目に入る。
スカートタイプのスーツで、ウェストのところが絞られた七分袖だ。
スラッとした脚がスカートから伸びていて、足首がキュッとしていて綺麗だった。
玄関でもエレベーターと同じようにレイラがカードをかざすと、カチャっという音がして鍵が開く。
ドアが開けられると自動的に電気が点いて、こんなところでも僕のアパートとの違いを感じた。
「これベッドにもなるから、好きなように使ってくれていいよ」
間取りは二部屋と、それにリビングダイニングがある。僕の部屋の四倍くらい広そうだ。
一部屋は寝室で、もう一部屋は作業部屋らしい。いわゆる配信部屋というやつなんだと思う。
「誰か泊まりに来たりしたときに使っているんだけど、寝心地は悪くないと思うから」
見ただけでわかる。リビングにあるソファベッドは、ソファのままでも余裕で寝られそう。
僕のベッドより寝心地が良さそうなのは見ただけで伝わってきた。
「話したいことはあるんだけど、けっこう配信まで時間ないからあとにさせて」
あと三〇分で、すでに枠が立っている開始時刻だった。
込み上げてくるものがある。わかってはいたんだけど、目の前にいる人は、本当にVtuberのレイラなんだ。
「パソコンとスマホ持ってきて」
レイラに言われてついていくと、行き先はパソコンが置かれている部屋。
モニターが三枚並んでいて、一枚は縦になっている。僕は使ったことがないけど、たぶんコメント専用のモニターじゃないかな。
そういうのをお部屋紹介とかの配信で見たことある。
「それ貸して」
「は、はい」
スマホとノートパソコンを渡すと、レイラがWi-Fiを繋げてくれた。
感動だ。レイラがいつもここに座って配信をしているんだと思うと、今回起きたことがすべて報われたような気がしてしまう。
きっと今座っているのが以前言っていた、うちの家賃より高いイスなんだろう。
長時間座るから、良いやつがほしいって言っていたやつだ。
「両方繋げておいたから、リビングでも使えるはずだよ。
それでね、これから配信するから音は出さないようにしてね」
「はい」
「防音にはなっているんだけど、それでもゼロにはならないから」
「わかりました」
僕はスマホとノートパソコンを受け取って、リビングへと移動した。
ちゃんとドアがしっかり閉まっていることも確認してある。
以前配信中にドアを開けられてしまった配信者とかがいた。
そのことはけっこう騒がれていたような気がする。
僕はその配信者のファンってわけではなかったから詳しくは知らないけど、もしかしたら僕が思っている以上に騒がれていた可能性はあるだろう。
僕はドアに触れないことと、音には細心の注意を払うことを肝に銘じた。
ワイヤレスイヤホンを装着して、僕は始まるのを待つ。
今日レイラが配信するのは、ブロックで建築するゲームが予定されている。
すでに数千人が待機している状態だ。
それにしても不穏だ。サムネイルのイラストではレイラが悪い顔をしている。
その背景ではマグマが上から流されていて、マグマを使ってなにかしようとしているのがありありと感じられた。
配信が始まってゲームへと画面が移動する。すでに必要な材料は調達してあったらしく、材料が敷き詰められた箱を僕たちリスナーに見せきた。
『ねぇ聞いて。私の家こんなんにされちゃったんだけど」
そう言って笑いながら、以前作ったレイラの家が映し出される。
『草』『草だけに草』『奈美か』『お、おう』『草』『草』『頑張ったなぁ』『奈美ですね』
画面にはジャングルと言って差し支えない部屋が映されている。
部屋の一室がジャングルに変えられていて、どうやらこれのお返しをしようとしているっぽい。
『奈美が今日他のゲームやっているのは調べ済みだから、奈美の家にマグマをブッかけるよ。
レイラはやられっぱなしじゃないってことを見せてやるの!』
その後作業は進んで、奈美の家は外観が見えなくなっていた。
奈美の家の周りを大量のガラスブロックで囲って、その上からマグマが垂れ流される。
ご丁寧に周囲には燃え広がらないように配慮までされ、内側からは出入り口以外すべてマグマという光景が広がっていた。
配信でエンディングが流れているけど、まだ油断はできなかった。
極稀にではあるけど、マイクが入りっぱなしなんて事故もある。
配信が完全に切れるまで、僕は微動だにせずノートパソコンをチェック。
いつもならこのあとお風呂でリラックスして寝るだけだけど、今の僕はリラックスどころかどんどん緊張してきていた。
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