聖女アルメリア

 奪われた高級装備の『エルフのネックレス』を取り戻し、窃盗犯は追い返した。これでもう盗みに来ないだろう。多分。


 露店へ戻り、再びアイテム売買。

 そうそう、買取もそれなりにしていた。

 レアアイテムに限ってだけど。


「これを売りたいんだが」


 お客さんが武器を売りにきた。

 モンスターが落としたものだろうな。


「これはゴーレムから低確率で入手できる『アースアックス』ですね。地属性の属性付きの。これは買い取ります」

「おぉ、ありがたい。いくらになります?」


「これならそうですね~…。十万リペアでどうでしょう」

「十万! それは助かる」


 買取が成立し、僕はお金を渡した。


「ありがとー! 店長さんも頑張って!」


 そう励ましの言葉を貰い、僕はちょっと感動した。……はじめて『店長』って呼ばれたかも! そっか、僕は本当に『店長』なんだ。



 それからも露店を続け、数時間が経過。そろそろ売るアイテムも無くなり、撤退の文字が見えてきた。



「この辺にしておこう。共和国へ帰ろうっと」



 帰りは帰還アイテム『アベオの葉』を使う……のだけど、あれ。あれ……ないっ! アベオの葉がないっ!!



「しまった……全部売っちゃった」



 自分の分を残し忘れていた。

 うっかり!



 こういうダンジョンの奥地では『アベオの葉』は必須。いちいち歩いていたら大変だからな。使えば『帝国』か『共和国』に帰還できる優れもの。

 だから、本来は一枚残しておくべきアイテムなのだが……舞い上がって忘れていた。露店が楽しすぎちゃった。



 仕方ない、歩いて帰ろう。



 けれど、忘れてはいけない。

 この洞窟には危険なゴーレムとマンドラゴラが生息している。今や攻略ギルドも少ない。すれ違う人もいない。



「外は夜だもんなあ……」



 ゆっくりと慎重に先へ進んで行く。

 なんとかモンスターに襲われる事無く出入口付近まで辿り着くが、そこで異変は起きた。



『…………!』



 ゴツゴツとした地面から何かが湧き出てきた。なんだこれ……黒い影・・・



「なんでいきなりモンスターが沸いて出てきた……!」



 それは姿を変え、ゴーレムとマンドラゴラを足したような姿になった。で、でかいし……にょろにょろした触手のようなものが不気味だ。なんだ、この怪物!



 見たことがないモンスターだ。



 驚いていると、その黒い影のモンスターが襲い掛かってくる。……嘘だろ、あの触手のスピード早すぎる。こんなの避けられないぞ――!!



「うわぁぁ……って、あれ」



 まて、あの触手は僕を狙っていない。

 自分ではなく他の誰かを攻撃している。



「む……?」



 よ~~~く見ると、反対側に人がいるようだった。いつの間にかこの場所にきた人がいたようだ。まずい、巻き込んでしまう。



「た、助けて……」

「今、助ける!!」



 僕は飛び跳ね、影のバケモノを飛び越える。その先には少女がいた。美しい銀髪の少女だった。


 ……あの子はいったい。

 なぜ一人でこんな場所にいるんだ。


 いや、考えるのは後だ。

 今は彼女を助ける方が先決。



 唯一の持ち物である『アースアックス』を使い、触手を受け止める。商品だが、このような緊急事態。仕方ない!



「ていやッ!!」


『……!』



 ぐわんと弾き飛ぶ触手。

 その隙に少女の手を取り、僕は洞窟の出入り口を目指した。



「わ、わ、わぁぁあ……早い、走るの早いですね、あなた!」

「悪い、今は話している暇はない――!」



 どんどん加速して逃げて行く。

 あんなバケモノを相手にしていられないからな。さっさと逃げて外へ出るが吉だ。物凄いスピードで走ったせいか、勢いでポ~~~ンと夜の外に飛び出す。



「――――っしょっと!!」



 一瞬空を飛び跳ね、宙を舞った。

 まん丸の赤いお月様が祝福していたいような気がする。そんな幻想的な風景の下に落ちて、僕は少女の手を握ったまま着地。



「……た、助けていただきありがとうございました」



 少女の銀髪が風で靡く。

 あまりに美しく、僕は息を飲む。


 どこかの教会の方なのだろうか、シスター服に身を包み神聖な雰囲気を漂わせていた。


「君は、いったい……どうしてひとりで?」


「わたしは共和国の教会に所属するアルメリアと申します。先ほどの恐ろしい怪物『シェイド』を滅殺する為に旅をしていたのですが……まさか、あんな禍々しいモンスターだったとは……完全に油断していました」


 アルメリア、なんて可愛い子なんだ。

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