ダンジョン露店
オーティスからつけて貰った左胸にある『
これは【アナライズ】の所属を証明すると同時に、店長の資格であることを表すのだが、補助能力も付加されるようだった。
「これか……!」
『アナライズのバッジ。店長を証明する。これを身に着けている場合『店長』のクラスとなる。ダメージを受け、一定の
フィールド・ダンジョン進入後『10分間』に限り、通常モンスターを忌避する。(ボスモンスターは除く)』
忌避能力があるとはな。
スムーズにダンジョンに進める特殊能力。なんて力だ。もっと持続時間があれば嬉しかったが、十分だろう。
「よし、行くか」
効果が持続している内に僕は先へ進む。モンスターから襲われない光景に、他の冒険者が僕に振り向く。
そりゃあ、店長の能力なんて知らないからな普通。
洞窟ダンジョン『アンテロープ』は、それなりに広く通路もしっかりしていた。ゴーレムなど地属性モンスターが主に生息しているが、もちろん自分には襲い掛かって来ない。奥へ進めば進むほどモンスターも強くなり、強い冒険者も滞在している。
慎重に歩きながらも、アナライズ支給のダンジョンマップをチェックしながら、比較的安全な場所まで歩いていく。
微かに聞こえる水流。
ポタポタと落ちる水滴。
現れるつららの鍾乳洞。
青白い水溜り。
どうやら、中間地点までやって来たようだ。安全地帯で休む冒険者の姿も見えた。少し離れた場所に丘のように盛り上がった程よいスペースがあった。
決めた。あの場所で『露店』をしよう。
場所を迅速に確保し、委託品を地面に並べていく。
ロングソード×2個、ウッドシールド×2個、チタンガントレット×1個、エルフのネックレス×1個、体力小回復ポーション×100個、体力中回復ポーション×50個、体力大回復ポーション×50個、魔力小回復ポーション×30個、アベオの葉×50個。
ずらっと、けれど綺麗に並べ、客人を待った。というか、お店を出した瞬間に注目が集まっていた。
「ダンジョンで露店だって?」「おいおい、初めてみたぞ」「へぇ~、ダンジョンでお店を出す商人がいるとはな」「こんな洞窟の奥地でようやるわ」「消耗品が足りなくなってきていたんだ。買ってこ」
ぞろぞろと多くの冒険者が立ち寄ってきた。僕はどんどん売りさばいていく。……おぉ、予想を遥に上回る売れ行きじゃないか。
特に回復ポーションの売れ行きは良かった。ここまで来ると、さすがに消耗しているだろうしな。次に魔力回復ポーションも売れた。
共和国の貨幣『リペア』銅貨、銀貨で支払われた。へぇ、これが。
稀に帝国の『ボルト』で支払う者もいた。アナライズは両方とも対応していたので、僕はギルドのルールに従い対応した。
「お買い上げありがとうございま~す!」
あまりに順調で驚く。
もう売り上げも数十万近い。
中でも『チタンガントレット』は高く、買う人がいたから驚きだ。しかし、そんな順風満帆の時だった。
新たにやってきた冒険者のひとり。少し人相の悪い
「……」
動向を見守っていると彼は、高級装備の『エルフのネックレス』に手を出していた。――って、盗みやがった!!
いきなり窃盗かよ!
となればもうお客様ではない。ただの
「待て、泥棒!」
「へっ、このネックレスはいただくぜ!!」
「させるか!!」
男の背後から飛び込み、確保する。
おぉ、身が軽い。
こんな素早く動けるのか僕。
「ぐッ!! 放せ!!」
ジタバタ暴れる大男。たいした力ではない。いや、僕が強すぎるのか。
盗人は拳を振り上げ、僕に暴力を振るう。
「わああぁぁ……!!!」
顔面に拳を受け、僕は意識が
「へっ! たかが商人風情がこんな場所で商売する方が悪いんだよ!」
と、男は逃げていくが。
僕は“服装”が変化して、赤黒くなっていた。なんだこれ!? なんか『店長』から『大店長』にクラスチェンジもしていたし!!
これはそうか!
そういえば、
溶岩のようにパワーが湧き出ていた。これなら余裕で窃盗犯を捕まえられそうだ。
試しに走ってみると――
「うおおおおおおお!? 一瞬で追いついた!」
「…………へ!? ええッ!! お前!?」
驚く窃盗犯。
僕は勢いで男を放り投げた。男は脳天から地面にメリ込み――白目を剥いて気絶。一撃で葬った。
こ、これが『店長』の力……!
なんてパワーだ。
凄い、凄いぞこれは!
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