洞窟ダンジョン アンテロープ

 白銀に光るカード。

 これこそ『ダンジョン露店』ライセンス。普通、これを入手するには多くのアイテム取引の実績を積まなければならない。けれど、僕はこんなアッサリ手に入れることができた。奇跡に等しい。


 共和国の商人ギルド【アナライズ】を去り、僕はこれからどうするべきか思案した。いや、考えるまでも無いか。



「ダンジョンでお店を出す!」



 通常、露店は認められた通路の『露店街』で出すものだが、冒険者の多いダンジョンで露店を出すと飛ぶように売れる。

 それもそのはずだ。消耗アイテムは使えば使うほど減るから。例えば回復ポーション。モンスターと戦えば嫌でも体力は減る。となると、ポーションを飲んだり、ヒールで体力を回復するしかない。でも、体力にしろ魔力にしろ限界がある。


 アイテムを消費してしまえば、街へ戻らねばならない。

 冒険者にとっては、とても煩わしい問題だ。


 だが、ダンジョン内に露店があれば国や街に戻る必要もなく、そのままアイテムを購入して攻略を続行できるわけだ。冒険者にとっては、ありがたい存在ってわけだ。


 よって、最近では『商人』が重宝されていた。むろん、荷物持ちポーター役を雇うパーティやギルドもいる。しかし、それは一部の金持ちだけだ。人を雇うだけで結構な金が掛かるからな。


 とにかく、攻略組が多く滞在するダンジョンを目指そう。それとアイテムの仕入れは――必要なかった。さきほど【アナライズ】から、いくつかのアイテムを支給された。それをカバンに詰め込んであった。


 どうやら、アナライズに加入すると“販売用アイテム”がいくつか支給されるようで、それを売ると『販売マージン』が得られる仕組みらしい。つまり、これは雇われ店長・・・・・ってことか。リスクの少ない『委託販売』と思えばいいらしい。


 売る物には困らない。

 仕入れはアナライズを頼ればいいだけだ。とりあえず今回は様子見。委託されたものだけで十分だろう。――となると、ダンジョンを選定するだけ。



 この周辺だと……



 ①洞窟ダンジョン『アンテロープ』

 ②遺跡ダンジョン『パルテノン』

 ③氷河ダンジョン『ヨークトル』



 オーティス曰く、この三つのダンジョンが人気のようだ。どれも高難易度ダンジョンだが、ギルド単位で攻略するから集客が見込める。ただ、ダンジョン進入の推奨レベルが高く、普通の商人ではまずモンスターに殺されてしまうという。


 だから、通常は傭兵を雇うようだが、それは帝国の話。アナライズは、ちょっと違うみたいだった。説明を受けた感じ、なんとかなる・・・・・・ということだった。


 なんとかなるって言われてもなぁ……?

 いったい、どういう意味なのだろうか。分からないけど、オーティスの言葉を信じるしかないだろう。



 今回、僕はお試しで洞窟ダンジョン『アンテロープ』を目指した。徒歩で一時間の場所だし、洞窟でしか手に入らない鉱石アイテムの需要が高く、それを狙って冒険者が殺到しているようだ。


 確か、アイテムの名は『エクサニウム』。武具の精錬に使用するものだ。武器を精錬すれば、その分、攻撃力や防御力がアップする。だから需要があるんだろうな。


「……ふぅ、ここか」


 洞窟ダンジョンの出入り口前。

 二十~三十人ほどの冒険者とはすれ違ったから、予想よりも冒険者がいると見た。なるほど、レア鉱石を狙いに攻略しているのは本当か。


 ゴツゴツとした岩に囲まれた先には大きな穴が開く。あれが洞窟か。ひゅーひゅーと冷たい風が頬を撫でる。怖そう……。


 だけど、ここまでやっと来たんだ。アイテムを売ってお金を稼ぐんだ。店長として!

 僕は気をしっかり持ち、ダンジョンへ侵入した。



 ◆



「……他の冒険者もいるけど、うん?」


 おかしい。

 何かがおかしい。


 割と近いところにゴーレムや植物モンスターのマンドラゴラとかいるのに、襲ってこない。アイツ等は普通は襲ってくるはず。他の冒険者には攻撃しているのに、僕は狙われなかった。



「どうなっているんだ?」



 腕を組みながら先を進む。

 やっぱり狙われない。


 もしかして『店長』に関係するのか。


 ……あ、そういうことか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る