越後・神渡島の狐神
第1話
わしはかつて、石狩の村の裏山に住んどった。子ぎつねがたくさんいたので、食べ物探しに大忙しじゃった。
ある日のこと、いつものように川岸を歩いていると、石狩の長者様がやってきた。長者様は魚を捕まえると柳の木の枝に魚を縛り、それを川の中へ沈めては、また他の魚を狙って川岸を歩いて行った。
わしは彼に見つからんよう注意して、柳の木の枝をひとつ引き上げた。
「こんなにたくさん捕ったんなら、子ぎつねたちのために、ちょっと一匹もらっていこう」
富める者はけちけちしてはいけない。わしのか細い腕ではこれだけたくさんの魚を捕ることはできない。人間様の力を少しばかり借りるとしよう。あの長者様もいちいち捕った魚の数を覚えちゃいないだろう。
「さてさて、今日はたくさん捕れたわい。ひい、ふう、みい、よお……ありゃ? 一匹足りないぞ」
ところがどっこい、長者様はきっちり魚の数を覚えていた。
「誰かがおらの魚を盗んだぞ。村の神様たち、山の神様たち、この不届き者に罰を与えてください」
長者様は神々に祈り、わしの罪状はあっという間に神々ネットワークに知れ渡るところとなった。
「困ったことをしてくれたもんだ、狐さん。狐も神々の仲間なのに、どうして盗みなんてはたらいたんだ。おかげで石狩の長者から朝も昼も晩もクレームが来るぞ。村の神々も山の神々も、あまりクレーム処理には慣れとらん。鬱になってしまう」
わしも狐神として村の神々とも山の神々とも上手くやってきたつもりじゃったが、いよいよ裏山から追い出されてもうた。可愛い子ぎつねたちもろともである。
「可愛い子ぎつねたちの空腹を満たすために、たった一匹頂戴しただけなのにこの仕打ち。なにもかも長者様のせいじゃ。あんなに文句言わんでもええのに」
わしは神としての力を行使することにした。
「雨よ降れ。雨よ降れ。石狩の村を水浸しにしてしまえ」
跳ね回って、パウパウと鳴く。子ぎつねたちも列を形成して一緒にパウパウ。
石狩川もあふれんばかり。いよいよ長者様の家も流されそうになる。そこにいたって長者様は事の次第に気が付いた。
「しまった。とんだことをしたもんだ。魚を捕ったのは狐神じゃったか。しかも子ぎつねたちを食べさせるためだったとは。おらが言いすぎました。狐神様、怒りをおさめてください。この雨をやませてください」
長者様は狐神に祈り、山の神々と村の神々にもけちけちしていたことを謝ってまわった。
わかればよかろうということで、わしはパウパウ鳴くのを辞めて、裏山に帰った。そうして村は水没せずにすんだとさ。
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