第3話
妹尾治郎の妖術は武器入れ替え。化け玉と隠れ蓑を交換するように、騙し、入れ替える。俺の宝刀を盗んだ能力ではあるが、内容はいたって地味。ものを入れ替えるだけ。
「「コン!」」
それがスイッチとなって、俺の手元にある『狐假虎威丸』と鳥居の中に閉じ込められた洛の『狐狸変化』が入れ替わる。空間を越えて。
狐火でゆらめく鳥居が消失。
二人の少年の影が再び金倉堂に、俺の目の前に戻ってくる。
「洛!」
「おわ!……生きた心地がしなかったぜ」
冷や汗で汗だくの尾崎洛がこちらをちらりと振り返る。精神攻撃系か? 俺は体験していないからわからんが……。
隠者の心象世界を具現化する力は、
「なん……だと……」
隠者の狐憑きは、血を吐いて倒れる。その
「マジに恐ろしい技だったけど、俺たちとの組み合わせが悪かったな」
「組み合わせ……そうだな。偶然というか、運命というか」
攻撃を仕掛けてきた敵とはいえ、あまり同級生が苦しむ様子を見たくないので、俺は隠者の狐憑きに歩み寄る。黒き仮面を外す。
「誰……?」
やや幼さの残る面影。洛は知らないようだ。無理もない。
「
彼の身体は光に包まれ、やがて消える。
「松尾、か。言われてみれば、聞いたことがあるかもしれない。いつも空席のあそこか」
「1年の時にイジメにあって、それ以来不登校になっている。俺という生徒会副会長がいながら、ふがいない話だ」
「べつに、タイガーが責任を感じるこたないだろう」
「元の世界に還すのは……かえって残酷だったかもしれないな。彼の場合は」
自分の胸に槍を突き刺してみようなんて、よほど自暴自棄な……それこそ投げやりな態度でないと思いつきもしないだろう。今、俺が仮面を剥いで真名を告げたから、彼の妖術は俺のものとなったはずだが、使いこなせる気はしない。俺は自分の胸に刃を突き立てる覚悟がない。
「鳥居の中はどうなってたんだ?」
「鳥居……? ああ、外から見るとそうなのか」
洛は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「彼は『狐の倉』と呼んでいた。おそらくは金銀財宝からご馳走まで、およそ無いものは無いであろうと思われる楽園だった。狐火の声が頭の中で反響しなきゃな……」
「彼を虐げるものは無く、すべて思いのままの世界か……」
「でもあれは、寂しい世界だぜ。盗人扱いされたから言ってるわけじゃないんだが」
「盗人は殺せ! 盗人は殺せ!」と篝火は連呼していた。おそらくは彼の狐の昔話に由来するセリフなのだろう。彼の心象世界『狐の倉』への侵入者は問答無用で盗っ人ということになるらしい。
「嫌いなものをブロックして、好きなものだけで構築した世界。それは天国のようで孤独な地獄だよ」
「なんだか深いことを言いおるな……」
そういうわけで、俺と洛は隠者の狐憑き・松尾鎗太郎を下し、金倉堂を後にした。
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