第2話

 結論から言って、『狼』自身は強くなかった……と言ってしまうと名誉棄損かもしれないが、勝敗を決するのにさほど時間を要しなかったことはたしかである。


 死期を悟っていたというか、死に場所を求めていたというか。


「いざ尋常に」

「「勝負!」」


 とか言っておきながら、である。


「なに、見つからないかくれんぼにも飽きてしまってね。この戦いに一石投じてみようと気が変わったのさ」


 徹底的に見つからないようにして、妖狐復活を防ぐ。それは気が遠くなるような持久戦である。何しろ相手は九尾の狐。600年以上前に存在していた玉藻の前。この時点で持久戦では勝ち目がないように思われる。


「殺生石がすべて集まって、妖狐が復活したら、どうなる?」

「さてね。石になっても人を殺し続けるやつだ。少なめに見積もっても人類の危機だろうな」


 そうすると、我々がこうして戦っているのは、人類の危機につながるのではないか? と思いつつ、戦う。戦うことを、やめない。


「それを知ってもなお、お前は尾又玉藻の指示に従うのか?」

「俺がどうすべきかは、直接会ってから考えることにした!」


 それが俺の結論だった。


 俺は九尾の狐につままれているのか? あるいは俺の恋した尾又玉藻はちゃんと存在していて、妖狐に操られているだけなのか? それは現状考えていても仕方がない。答えが出ない。だから、直接会って聞いてみるしかないだろう。


「とりあえず今は、なんかムカつくからお前を倒す!」


 むじなかわうそ――尾崎洛と尾瀬茉莉を使い捨てにした『狼』。親友とその彼女の気持ちを利用した男。俺はこいつを倒すと決めた。


 宝刀『狐假虎威丸こかこいまる』は、鞘の狐假と刀の虎威丸がそろってはじめて効果を発揮すると、たしか管狐は言っていた。


 狐假虎威こかこい。すなわち、虎の威を借る狐。


 宝刀は、虎の威プレッシャーを放つ。周囲の狐憑きはその武器の能力スキルを失う。


 つまり、狢の忍び刀『狐狸変化こりへんげ』は変化の能力を、狼の隠れ蓑『狐狼盗難ころうとうなん』は不可視化の能力を失ったのである。


「おりゃ」

「ふん!」


 俺の刀と洛の忍び刀が、隠れ蓑を切り裂く。倒れた『狼』の身体を、俺たちを縛っていた鎖で押さえつける。


 その姿が見えさえすれば、『狼』自身は強くなかった。


「私がもっとも恐れていたのは……」


 化獣集ばけものしゅうの長、『狼』は最期にこう言った。


「仮面を剥ぎ取られても、真名を呼ばれず無駄死にすることだった。だから君を……尾形虎之介を待っていたのだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る