第3話
牛の頭に蜘蛛のように八つの足がある胴体。
いやグロすぎるやろ。絶対強いやつやん。思わず脳内で似非関西弁が出てしまう。
牛の頭がガバッと口を開く。
「うお、あぶねぇ」
「吸っちゃだめだ」
明らかに有毒なにおい。目に沁みる。鼻がひん曲がる。見た目がグロテスクなだけでなく、毒ガス攻撃までしかけてくるとは。
「なんか手足がしびれてきた」
「吐き出せ。息をするな」
そんな無茶な、と思いつつ。息を止めて洛とともにダッシュ。
武器を持つ洛が逃げるのならば、武器を持たぬ俺は当然いっしょに逃げるしかない。牛鬼は八つの足をガサゴソ動かして追いかけてくる。
無暗に逃げまどっているようで、その実、洛は当初の目的を忘れておらずきちんと川の上流へ向かっているようだった。これが愛ってやつか。俺も見習わなくては……って、今はそれどころじゃあない。
「ぶはぁ……無呼吸ダッシュは限界があるぞ」
酸素が足りない。頭がクラクラする。
背後からは得体のしれない毒ガス。ガチャガチャと我々を引き裂こうとする八つの足。あるいは串刺しにしようとする牛の角。
「しゃーない、戦うか。八つ裂きにされるのは嫌だしな」
洛は――狢の狐憑きは、振り返りざまに背中の忍び刀を……まだ抜かない。
「『
いかなる剣さばきが披露されるのかと思いきや、これまた変化の術の類らしかった。
いまや忍び刀は鞘ごと弓なりにしなり、背中に結び付けていた紐は弦に。不格好な弓へと姿を変えていた。手近にあった木立から枝を二本ほどへし折り、弓につがえる。すると何の変哲もなかった木の枝が鋭利な矢に。
ギリリ……引き絞る。
洛自身が変身する妖術を持っていながら、その武器も自在に姿を変えるらしい。それが洛の与えられた忍び刀『狐狸変化』。
パァン!
二本の矢が同時に放たれる。矢は牛鬼の身体を三つに引き裂く。
ボト、ボト、ボトリ。
頭、胴、脚が別々に地面へ落ちる。
「すごいじゃん! 弓道部だっけ?」
「弓道部は矢を二本同時に打ったりしないさ」
たしかに。アニメやマンガの世界でしか見たことがない。この威力もまた
「まだだ、油断するな。距離を離すぞ!」
足を止めようとした俺を洛が押し出す。振り返れば、牛鬼のバラバラになった身体がいまだもぞもぞと動いているのが目に入る。
「なんだありゃ……」
切断面から、生物ならば本来流れるはずの血液が出てこない。代わりに粘着質な糸が傷口をふさぐ。さらに糸はそれ自体が意思を持っているかのようにもぞもぞと動き、ちぎれた身体の片割れを探す。
「『狐狸変化』はあくまで模造品。真似事に過ぎない」
「威力はイマイチってことか」
俺たちは倒すことをすんなり諦めてとにかく走る。
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