美作・化粧寺の予想外

第1話

 夢の中で、私はかわうそだった。


 魚とりが得意な私は、いつも狐を呼んでご馳走をふるまっていた。


「俺ばかりご馳走になって申し訳ないね。今晩は俺がご馳走するから家に来てくれ」


 狐がそう言うので、私は胸を高鳴らせてその夜彼の家を訪れた。しかしいくら呼んでも返事がない。


 窓から中を覗くと、狐は天井を見上げて微動だにしない。こんなに堂々とした居留守があるだろうか。寒風吹きすさぶ夜道、私は憤慨して家に帰った。


「ゆうべはすまんかった。神様から天守を言いつけられたので返事ができなかったんだ。今晩こそご馳走するぞ」


 私はなぜか、なるほどそういうことかと納得して、次の晩ものこのこ彼の家を訪れた。


 しかし今度は家の床ばかり見ていて、またもや堂々たる居留守である。呼んでも呼んでも返事をしない。


「ゆうべはすまんかった。神様から地守を言いつけられたので返事ができなかったんだ。今晩こそご馳走するぞ」


 明朝の言い訳はこうであった。昨日のセリフと一文字しか違わないではないか。


「それはそうと獺さんや。君はどうやって魚をとるのかい?」


 狐はそんな調子で話題を変えて見せた。


 私は彼に、魚をとる方法を教える。夜に尻尾を川に垂らしてじっとしていれば、朝には大漁間違いなし。


「なるほどなるほど。獺さん、今度は明朝来てくれや。朝なら神様からの言いつけもないだろうから」


 私はうなずいてその場を去った。


 狐は案の定、夜中に川岸へやってきた。

 キョロキョロと周りを確認したのち、尻尾をそっと静かな川面に垂らす。

 しばらくじっとしていると、ピリピリ、ピリピリと、尻尾が引っ張られる。


「おお、食いついてきた。もっと、もっとだ……」


 欲張りな狐は、痛いだろうに明け方まで我慢をしていた。


「どっこいしょ」


 狐はそろそろよかろうということで、立ち上がろうとするが尻尾がびくとも動かない。


 それもそのはず。風のない夜中、川面はしっかり氷が張って、狐の尻尾をとらえていた。


「こりゃ大変だ。早起きの狼か人間に見つかったら、ただじゃすまねぇ」


 狐は自身の尻尾に降りかかった天罰に気が付き、大慌てでもがく。しかし無情にも氷はがっちり固まっていて解ける気配も砕ける気配もない。


 やがて朝が来て、狐は早起きの猟師に打ち殺された。

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