第54話 自業自得

「ギャアアアッ…!! 痛いッスゥ…?!!」


「ニィィィィィ…!! っついニ…!! ──オラァ…!!」


「ごべェ…?!! だいぃ…」


「ニャアアアッ…!! っづいニ…!!」


リュック無しでの戦闘が始まってそこそこ…。ずっとニキの猛攻で戦いが進行しているのに…さっきから謎にニキもダメージを負ってしまっている…。


拳が痛むせいで力が入りにくく…無駄に戦いが長引いてしまっているニ…。相手の実力レベルとしては大したことないのに…〝厄介な能力〟に文字通り手こずってるニ…。


ひとまず対敵している2人を殴り飛ばしたらすぐに水場へ直行…、グツグツのお湯に手を突っ込んだ様に熱々の手を冷やす…。


水に浸すと、手の表面から薄い粘液の様なものが広がって水に溶けていく…。何の動物なのかいまいちピンとこないニけど…能力だけはざっくりと理解できたニ…。


ラクーンの方は〝全身から高熱を発する能力〟…、リスの方は…恐らく〝を全身から滲み出す能力〟だと思うけどニー…。



 ≪熱毒ねつどく

皮膚に触れると、火傷に似た症状が出る毒。体内に入ると臓器に痛みを感じ、血管が膨れて血流が悪くなる。〝焼毒やけどく〟の下位毒。



熱さはラクーンの方が上だけど…洗い流さなきゃずっと熱いままの熱毒ねつどくも厄介…。ニー…なんてピンポイントに素手キラーな能力…。


「って言うかオマエ等全体的に能力被ってるニ…! せめてどっちかは違う能力の動物であれニ…!」


「無茶言うなァ…! 私達を生んだそれぞれの親に言え…! いや言うなァ…!」


「あと〝被ってる〟ってのは禁句ッス…! こっちだって気にしてるんスから…!」


あっ…本人達も気にしてるんだ…、なんか申し訳ないこと言っちゃったニね…。てっきり狙って2人一緒に居るものかと…。


「それに被ってるわけじゃないッス…! ミレルはただ熱くなるだけだけど、ウチは毒だから上位互換ッス…! ミレルより凄いッス…!」

<〝小毒栗鼠カルドクイラ〟の獣族ビケ Inana Hirdaイナナ・ヒルダe >


「ハァ…!? 上位互換って何よ上位互換って…?! 毒ったって大した温度もない癖に…! こっちは焼毒やけどく並みに熱くなれますけどォ…?!」

<〝火代浣熊ヴールラクーン〟の獣族ビケ Mylelu Myarミレル・ミュアードd >


なんだか仲間内で小競り合いが始まっちゃったニね…。ニキからすれば…どっちも一長一短あって良いと思うけどニ…。


まあそこは獣族ビケにしか分からないプライドみたいなのがあるのかもだし…あんまり部外者が口を出すことじゃないかもニ。


なんかまだまだ喧嘩終わらなそうだし、ニキは今のうちにリュックを取り返すとするニ…! 邪魔な爬虫類リザードを先に片付けるニ…!


「 “ギャッ…?!” 」

「 “グギャギャッ…!” 」


ニキが接近していくと、爬虫類リザード達は素早く反応を示して威嚇してくる。爬虫類アイツ等は特に能力なさそうだけど、シンプルに爪とか牙に注意するニ。


威嚇を恐れず更に近付くと、片一方がニキ目掛けて飛び掛かってきた。ギラリッと光る爪と牙…──あの爪でニキを捕らえて牙で嚙み付くつもりニね。


ニキは歩幅を調整して、爬虫類リザードの手がニキを捕らえる直前に、一気に前に踏み込んで懐に逃げ込んだ。


すぐに跳ばれてしまわないように足を踏ん付け、がら空きの腹部に渾身の一撃をお見舞いした。皮膚は硬いけど、それでも少しめり込む程の一撃。


「 “ギャッ…ガァ…” 」


思いのほか効いた様子で、爬虫類リザードはそのまま地に伏せた。残るは1匹…今みたいにスムーズに倒せれば楽なんだけどニ…。


油断を捨てて警戒を高め、リュックの前に立ち塞がるもう1匹に近付く。今度はさっきのと違って、安易に飛び込んでこない…ニキの動きを観察してる様子…。


もうじきニキの間合い…そろそろ爬虫類アイツも動く筈ニ…。不意に嚙み付いてくる場合を考えて、カウンター前提の構えで接近する。


「 “ギャギャギャギャッ!!” 」


「ニ…!?」


突然真後ろから…明らかにニキに向けられた爬虫類リザードの元気な鳴き声が聞えた…。反射的に振り返ると…何事もなかったように立ち上がってる爬虫類リザード君の姿…。


やられたァ…! あんニャろォ…わざと効いてますアピールをしやがったニ…! ずる賢い奴…! 最低ニ…! 大嫌いニ…!


すぐに前を向き直すも時すでに遅し…、ガパッと開いた口がニキの左肩にガブリッ…! 鋭い牙が肉に食い込んでいくのを痛みと一緒に感じる…。


更に背後からは砂を蹴る音…、さっきの爬虫類リザードが追い討ちをかけに接近しているっぽいニ…。──ならっ…!


ニキは左肩に噛み付いている爬虫類リザードの口を両手で押さえて、自慢の怪力で爬虫類リザードの体を垂直に持ち上げた。


「オラニャアアア…!!〝爬虫類落としリザードバスター〟…!!」


「 “ギャガァ…?!!” 」


持ち上げたまま体重を後ろに傾け、接近している爬虫類リザードもろとも砂の上に叩きつけた。ニキの即興怪力技が炸裂…!


もちろんこれだけで倒せないってのは知ってるニ…! もし仮にもう動けなくても念入りにボコすニ、さっきの仕返しニ。


リュックを両手でガシッと掴み、上に持ち上げてからニキも一緒に上へジャンプ。まだ起き上がれていない爬虫類リザード2匹目掛けて、無慈悲に振り下ろす。


「〝仕返しリュックハンマー〟…!! 怒気を添えてェェ…!!」


「 “ガッギャア…?!!”

  “グルギャア…?!!” 」


“ズドーーンッ!!”


怒りのフルパワーでリュックを振り下ろすと、まるで爆発でも起きたかの様な大きな砂埃が舞い上がった。


手で仰いで砂埃をどうにか晴らすと、リュックの下敷きになって白目を剝く爬虫類リザード達の姿があった。


“──ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギ


「──うーん…これだけ頭を強く鷲掴みにされて起きないなら大丈夫かもしれないニね…、一応こっちにも」


リギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ…──”


「うんっ、大丈夫ニねっ! きっちり倒し切ったニ!」


邪魔な守護者を片付けて、無事にリュックを取り戻した。嚙まれた箇所からは少し血が滲んでいるけど、問題なく動くから特に支障なーしっ!


リュックを背負って、残る邪魔者達のもとへと戻る。流石に喧嘩も終わってるよニ…? でなきゃいつ攻撃を仕掛けていいか分からないニ…。


「ああ~?! やっぱりさっきの砂埃…アンタの仕業ね…?! 私達が言い争ってる間にリュックを取り戻すなんて…、最低…!!」


「非人道的行為ッス…! 喧嘩してたら仲裁に入るのが普通なのに…、非常識ッス…! 救いようのない悪党ッス…!」


「えェい…! 好き勝手言うなニ…! 戦いの最中に喧嘩する奴の方が常識ないニ…! ってかそもそも悪党にそんなこと言われる筋合いないニ…!」


なんだかこの2人と居ると…ニキまでくだらない口喧嘩しちゃうニ…。変なペースに呑まれちゃう前にさっさと仕掛けた方がいいニね…。


グッ…と右脚に力を込めて、ギリギリまでどっちを狙っているか悟られないよう、2人の間を狙って一気に距離を詰めた。


どっちを先に倒すとかは特になーし…! ぶっちゃけリュックがあれば同じだし、素手で触らなければへっちゃらのちゃら。


懸念があるとすれば、リスが毒飛ばしてくる可能性があること…。服に付いても支障はないけど…万が一にも目に入ったら一大事ニ…。


ってことで先に倒すのはリスの方…! ギュルッと足の向きを変え、リュックを持ち上げて飛び込んだ。


「〝圧殺奥義あっさつおうぎ・リュックハンマー〟…!!」


リュックを振り下ろし、再び砂が舞い上がる。我ながら情け容赦なさ過ぎる攻撃…なんだかカカになった気分ニ…!


そしてリュックをどかせば、頭だけ出して砂に埋まってるリスの姿がある筈ゥ…──だったんだけどおかしいニね…。


リュックを持ち上げてみると…リスの姿がなーい…。あれー? ちゃんとペッチャンコにした筈なんだけどニー?


“──ズボッ!”


「し…死ぬかと思ったッス…」


「うわっ…?! モグラみたいに…?!」


ラクーンの足元からモコッと顔を出したリス…、えっなに…? モグラとリスのハーフ…? そんな動物いるニ…?

※元々リスは穴掘り上手。


ってかせっかくリュックを取り戻したのに意味ない奴が居たニ…! 嚙まれ損…! シンプルに腹立ってきたニ…!!


この怒りはラクーンの方にぶつけてやるニ…! 流石に穴掘りが得意なとこまで一緒ではない筈…、こっちにならリュック攻撃がきく筈ゥ…!


ただ念の為今度はリュックを横に振って攻撃するニ…。持ち上げて右に振りかぶり、砂に潜らないのを祈ってラクーンに攻撃を繰り出す。


「〝撲殺妙技・リュックハンマー〟…!!」


耳をすまさずとも風を切る音が聞こえる勢いでリュックを振った。これもまた情け容赦なく…一周回って慈悲とも言える攻撃。


流石にこれは仰向けK.Oで間違いな…──


「ふぅ…、危機一髪だったぁ…」


「オイィ…! オマエ等いい加減にしろニ…!」


ぶっ飛ばせたと思った矢先…ラクーンはリュックに登っていて無事…。えっ猿…? モンキーとラクーンのハーフ…?

※元々アライグマ(ラクーン)は木登り上手。


とりあえず反撃を避ける為に、リュックを振ってラクーンを上からどかした。攻撃を回避されたのは予想外だけど…その後の反撃がないのはありがたいニ。


恐らくは素人か実戦経験の浅い新米…、負けることはないだろうニけど…戦いが長引いている現状はウマくないニ…。


っつかどっちもリュック効かないニ…! 2人揃ってニキの代名詞技を回避しちゃったニ…! ──なんか自信無くなっちゃうニ…。


「頼みのリュックもそんなもんかっ! それなら全っ然怖くないもんねー!」


「素手で殴った方が勝機あるッスよー! ウチ等の土俵ッスけどねー!」


ニー…誤算も誤算ニ…。本気で我慢すれば殴り倒せはするだろうニけど…、まだ砂險鮫バカでかザメが残ってたら連戦がしんどくなるニ…。


アクアスはサポート向きだし…ベジルは肝心の実力が不明判らない…、きっとまだ戦ってる最中の筈ニ…。


あんまりじっくり時間をかけられないニ…。──こうなれば…、あんまり使いたくはないを使うニ…! 気が乗らないけどニ…!


「よーしっ覚悟を決めたニよ…、子供に見せられないくらいの後悔を味わわせてやるニ…! 食らえニ旅商人たびしょうにん秘奥義ひおうぎ…!」


「何ィ…!? 秘奥義だとぉ…!?」

「なんかカッコいいッス…!」


ニキはドカッとリュックを砂の上に置き、カブセ※蓋のことを開いて上半身を突っ込んだ。そして一番最初に手に振れた物をよく見ず取り出した。


「〝旅商人のおマーチャントもちゃ箱・パンドーラ〟…!! テッテケテ~!〝突颯種ガストシード〟が出ましたニ…!」



・凄腕旅商人ニキの一言 ─突颯種ガストシード

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旅商人のおマーチャントもちゃ箱・パンドーラは…ニキがリュックの中から適当に商品を取り出して攻撃する単純な技…!


ぶっちゃけ商品が減るのは頭が痛いニけど…、バトルリュックと違って汎用性の高い物から戦闘向けまでが全部揃ってるニ…!


こういう厄介な敵を相手する時は、こっちも厄介だと思わせる戦法が効果的…! 倒れるまで惜しげもなく使っていくニ…!


突颯種ガストシードを右手に握り締め、近いラクーンに狙いを定めて接近する。リュックが無ければ攻撃を回避される心配がないからニ…!


「何か企んでるようだけど…思うようにはいかないよ…! 熱さに悶え苦しめ…!〝焦熱燼斬フラム・スワード〟…!」


ラクーンの持つ剣が仄かに赤くなっていく。自身の熱を利用した熱伝導…、工夫は面白いニけど…技術が足りてないニ…!


その後を考えていない陽炎を纏った大振りの攻撃を難無く躱し、ラクーンの懐に潜り込んで右掌を腹部に押し付けた。


皮膚が焼けそうな痛みと引き換えに得た充分な手応えと、突颯種ガストシードに大きく亀裂が入った感触。


直後ニキとラクーンとの間に、爆発的な突風が巻き起こった。砂が四方へ勢いよく流れ…ニキ達の体を後方へ運ぶ…。


ラクーンは背後の樹に衝突し…折れた樹は音を立てて倒れた…。肝心のニキも砂の上をごろんごろんっ転がって…リュックに背中と頭をゴンッ…。


頭をさすさすしながら立ち上がると…樹の下敷きになってピクリとも動かないラクーンの姿を見つけた。流石に気を失ったようニね…。


「ミレル…!? ミレルしっかりするッス…! ──くっ…! この仇は絶対討ってやるッスから…! 墓にいいお酒を添えてやるッス…」


「いや死んでないよニ…? 呼吸してるのがお腹の動きで明白ニ…」


爬虫類リザードとラクーンが気絶して、これで残るはリスのみ。ようやく得意なタイマンを張れるニ。


でもニキも…さっきので右掌がやられちゃったみたいニ…。火傷みたいになって…あんまり強く握り込めないニ…。


「っとなれば再びいきます…!〝旅商人のおマーチャントもちゃ箱・パンドーラ〟…!!」


「ちょっ…?! させないッス…!」


こっちに向かって来てるんだろうニけど、もう遅いニ…! 適当に取り出すから大した時間がかからないのがこの技のメリット…!


「テッテケテ~! これは…〝蒼藍鋼石そうらんこうせき〟が出ましたニ…!」



・凄腕旅商人ニキの一言 ─蒼藍鋼石そうらんこうせき

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何の変哲もない綺麗で硬い石を取り出しちゃったニ…! しかも結構お値段高めな商品やつ…! そこそこ後悔…!


「どうやらハズレを引いたようッスね…! 引き直しはさせないッスよ…! 毒に焼かれてあの世に行くッス…!〝侵食する毒牙ポイズン・アルマ〟…!!」


今度は自身から滲み出した毒で剣をコーティング…、発想は良いだけに実力が追いついてないのが残念ニね…。


だけど万が一斬られたら…毒が体内に入って一大事になるニ…。接近は避けたいニけど…手には蒼藍鋼石そうらんこうせきしかないし…。


ダメもとでリュックハンマー…っは無理ニね…、右手がこれじゃ満足に振れないニ…。じゃあやっぱり接近しか…──あっ。


「〝旅商人の投擲マーチャント・スタン〟…!」


「ギョブぅ…?!!」


慣れない左手に持ち替えた蒼藍鋼石そうらんこうせきを普通に投擲。あんまりやり過ぎないようにお腹を狙った結果…吸い込まれるように顔面へ…。


ゴツゴツ硬い蒼藍鋼石そうらんこうせきの顔面Hit…、お腹でも充分立てなくなるだろうに…心の底からごめんニ…。


リスは白目で鼻血を流し…そのまま後ろに倒れた…。ニキは両手を合わせて謝罪してから…蒼藍鋼石そうらんこうせきを回収してリュックに戻した…。


「──よし…切り替えよう…!! 相手は敵…! 自業自得…! ニキは悪くなーい…!! もう気にしなーい…!!」


包帯を右手に巻いてリュックを背負って、ニキは倒れている2人に背を向けた。遠くではまだ戦っている音が聞こえる。


このモヤモヤは砂險鮫バカでかザメにぶつけて晴らすニ…! 相手が知性生種ちせいせいしゅじゃなければ好きなだけ全力で殴れるニ…!


よーし気合い入れてくニよ…! 滅殺滅殺ニ…!!



──第54話 自業自得〈終〉

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