第50話 迷子と砂泳族

“ジューー…パチパチッ…!”


「んー♪ 良い匂いがしてきたなー、そろそろ食べ頃か?」


<〔Perspective:‐カカ視点‐Kaqua〕>


突然砂が横に動き…1人南側に流されてしまった私は今──襲い掛かってきた砂漠の魚を返り討ちにし、それで腹を満たそうとしている。


食べれる分だけ剝ぎ取って、砂の中から掘り起こした熱々の岩で豪快に焼いた。結構脂がのってたおかげで、岩にひっつかないの助かる。


「どれどれ~、熱っつゥ…?! フーフー…ンぐンぐ…──中々いけるな…!」


口の中で身がほぐれて、ほんのり甘い脂が舌を刺激する。思ったより魚臭くなくて美味しい、あの見た目に反して美味しい。


でも欲を言えば調味料が欲しいなぁ…ってかアクアスの料理が食いてェ…。まあこんな状況じゃ贅沢言ってらんねェし、腹が満たれば御の字だな。


ペロッと2切れ完食し、私は立ち上がって砂を払った。少し遠くに目をやると、大量の鳥がさっきの魚の残りを食い荒らしていた…、怖っ…明日は我が身…。


「ああはなりたくないな…、その為にも今後どう動くか考えねェと…」


さてさて、一度状況を整理してみようっ。私達3人は砂漠のど真ん中で分断され、更に私だけが1人南に流された。


周囲には何もない、砂ばっか。これは誰がどう見ても分かり易く遭難してる…それも昼夜で寒暖差の激しいヤベー場所で…。


やー…しくったなぁ…、もっと色々調べてから砂漠に踏み込むんだったなぁ…。まさか砂が横に動くとは思いもしなかったぜ…、しくったなぁ…。


アイツ等大丈夫かな…、2人共同じ方向に流されてたから…途中で更に分断されたってことはないだろうけど…。


アクアスは軽くパニックに陥ってることだろうな…、きっと考え無しに私を捜そうとするに違いない…。


それがやや心配だけど…ニキが上手いこと制止してくれる筈。じゃあその後アイツ等はどう動くかを予想していこう。


ニキはどう考えてどう動くかな…? んー…アイツもまず間違いなく私を捜そうとはするだろうが…、徒歩で捜しにくるかな…?


んっ、そういやアイツ等が流された方角には確か街があったっけ…? 2人も地図見てたし、そのことに気付くよなきっと。


街にまで辿り着けさえすれば、何かしらの移動手段くらいある筈。犬にソリ引かせるなり、ラクダに乗っかるなり色々。


「ラクダかぁ…、いいなぁ私も乗りてえなぁ…」


アイツ等がラクダで捜しに来てくれたら帰りに私も乗れるんだけど…、まあそれは今考えることじゃないな。


むしろこれから私がどう動くかが肝心だ…。アイツ等が助けに来るのなら、私はできるだけ目立つ場所に移動した方がいいだろう。


砂漠で目立つ場所って言えばどこだ…? あー…私オアシス以外分かんねェな…。バカデカい流砂の傍に居たら目立つかな…?


ちょっと離れた先にデケェ岩は見えるけど、あんなのいくらでもあるだろうし…目立ちはするだろうがわざわざ寄らないよなきっと…。


「じゃあ結局オアシス一択じゃねェか…! ってか砂漠の前知識少なすぎるな私な…! 軽装で登山しに行く山舐め野郎か…!」


若干自暴自棄に陥ってしまったが…一旦落ち着こう…。無駄に体力使うとすぐに力尽きちまう…、鳥に貪られちまう…。


そうなる前にオアシスを見つけ出す…! 水源が豊富なオアシスで可能な限り快適に過ごし、アイツ等が迎えに来るのをジッと待つ…!


いざ行かん…! 枯れ地に残されし楽園を目指して…!!








「──っと意気込んだはいいものの…オアシスがどこにあるかなんて知らねー…。ってかちゃんと進んでるのかな…? 風景変わんなさ過ぎて不安だわ…」


あれからとりあえず適当な方向に歩を進めているが…一向に緑は見えてこない…。ず~っと砂・砂・砂…、頭おかしくなるわ…!!


しかも道中やたら肉食獣共が襲ってきて気が抜けない…、やっぱ南側は危険地帯だったのか…? 嫌な方向に流されたもんだぜ…。


「飛空艇があればこんな場所ひとっ飛びなのに…──そうだ飛空艇…!」


アイツ等のことで頭がいっぱいで、飛空艇のことを完璧に忘れてた…。そうじゃん飛空艇があればわざわざこんな場所歩かなくても済むじゃん…!


ってか私が上空から捜し回った方が早くないか…?! 多少見つけにくくはあるが…何日も砂漠を彷徨うより良いのでは…?!


確か飛空艇は西側に流されてた筈…! 西側に行って飛空艇を見つければ…──西側に行って…、見つければ…?


今どのへんを彷徨ってるか分からんが…、南側から西側に徒歩で…? どこにあるとも分からない飛空艇を探しに…? 何一つあてもない状態で…?


「はぁ…、話にならないな…何を浮かれてんだか私は…」


オアシスも見つけらんない私が…何をすりゃ飛空艇は見つけられるってんだ…? 根拠のない自信は一銭の役にも立たないな…。


やっぱ当初の予定通り…大人しくオアシス探しに注力するのが正解だろうな…。あ~あ…ちょっと気分が上がったせいで余計に体が重いぜ…。


テンションが下がったまま…私は砂漠を進み続けた…。この肌を焼く灼熱にもかなり慣れてはきたが…それでも暑いものは暑い…。


息も上がるし…汗も止まらない…、胸が蒸れる…。どこかで休もうにも周囲に日陰はない…、ただ腰を下ろすだけじゃ休憩にもなりゃしない…。


う~ん…中々マズい事態だ…、このままだと今日は大丈夫でも明日以降倒れない保証はない…。せめて日が暮れるまでに休めそうな場所を…──あんっ…?


遠くの方に何やら小さな砂埃が見える…。しかもこっちに向かって来てないか…? オイオイ…また肉食獣か…?


私は衝棍シンフォンを背から取って、迫ってくる砂埃に構えを取った。砂に潜って接近してくるってことは、また砂漠の魚だろう。


こっちが迎撃態勢完璧だとも知らず、砂埃はみるみる近付いてくる。よく見ると砂埃の中にサメの背ビレの様なものがある…これ絶対飛び掛かってくるな…。



飛び掛かってきたところをカウンターで終いだ、あんまし体力使いたくないし…一撃で仕留めてやる…!


“ズボォ…!!”


「ワァ!」


「はっ…?」


衝棍シンフォンを回して攻撃をする気満々だったのだが…、砂の中から出てきたのはまさかの人…?! しかも男の子…! 少年…!


薄黄色うすきいろの肌に白銅色はくどういろの髪をした男の子は、ジー…っと私の顔を見つめてくる…。思考停止してしまっている私も見つめ返す…。


「お姉さん誰ェ?!」


「えっ…!? いやその…こっちのセリフぅ…なんだけどなぁ…」


なんだかめっちゃ驚かれてしまった…、き…傷付くなぁ…。ひとまず衝棍シンフォンをしまって…私が危ない大人じゃないことを示そう…。


そしたら次は膝を曲げて目線を合わせよう、子供と会話する時に一番大事なことだ。見た感じ8歳~9歳くらいかな…? フフッ…可愛い…♡


「怖がらなくても大丈夫だよ~、お姉さんは優しいお姉さんだからね~。ほらおいで~、怖くないよ~」


手招く私に男の子は少し困惑の表情を浮かべたが…警戒しながらもゆっくりとにじり寄ってきた。当然私は怖いお姉さんじゃないので、優しく頭をなでなで♡


まさかこんな砂漠のど真ん中で癒しを得られようとは…、たまには砂に流されるのも悪くないかもしれないな。


「君はここで何をしてるの…? お父さんとお母さんは一緒じゃないの…?」


「うんっ! ぼく1人で出かけて来たんだっ!」


出掛けてきたってことは…この付近にこの子が暮らす集落があるってことだよな…? 地図にはそんな表記なかった筈だが…。


しかしこんな危険地帯に子供だけでって…この子ひょっとして…。


「さては君…お父さんお母さんに何も言わず出てきたでしょ…?」


「えェ…?!! そそそ…そんなことないよ…?! ちゃんと行ってきまーすって…言って…出てきたもん…」


凄い動揺と分かり易い萎縮…これは間違いなく図星だな…。年齢相応の危なっかしい行動…、フフッ…可愛いぜ…♡ ※なんでもアリ


だがこれは好都ご…じゃなくて、こんな年端もいかない子供を1人にしてはおけない…! アイツ等との合流も大事だが…若い芽を守るのは大人の義務だ…!!


それにこの子を集落まで送り届ければ、私はそのまま集落にとどまって安全に救助を待てる…! これはWinWinな考えだ…!! 断じて私情は関係ない…!!


ってことで目的を変更、私は何としてもこの子を無事に集落へ送り届ける…! そうこれは使命…! 断じて私情は関係なーい…!!


「君名前は…? 君はどこから来たの…?」


「ぼくは〝ユク〟だよっ! あっちの方から来たのっ!」

< 少年 〝砂泳族スウサ〟 Yuek Phomahlユク・フォマーリンyn >


ビシッと指差した方角はさらに南、若干アイツ等の負担が増してしまうかもしれないが…砂上の移動手段があればそう問題はないだろう。


むしろユク君を連れた私がそこまで辿り着けるかの方が心配だ…、これからはユク君を守りながらの戦いを強いられる…。


気合い入れないとなぁ…、怪我1つでもさせたら親御さんになんて謝罪したらいいか…。死ぬ気で頑張らないとな…。


「お父さんお母さんが心配してるだろうし…私が家まで送ってあげるよ。──そういえばユク君はどうしてこんなところに…?」


「うんとね、ぼく砂泳ぎが上手ってパパに褒められねっ! それでもっと上手になろうっていっぱい泳いでたら…いつの間にかここに…」


むーん…動機が動機なだけに何とも言えないな…。この子は純粋にもっと褒められるように頑張ってただけだし…、うん…注意は親御さんに任せよう…。


ってか何気にスルーしてたけど…って聞き慣れない名だな…。初めて会った時も砂から出てきたっけね…。


独特な色の肌と特徴的な背ビレ…、いくつもの種族が暮らすドーヴァにもまだ居ないあの種族だよなきっと…。


「ねえねえ、ユク君って〝砂泳族スウサ〟だよね?」


「すーさ? 分かんないけど、ママがそんなこと言ってたかも」



 ≪砂泳族スウサ

薄黄色の肌とサメによく似た背ビレをもつ種族。全身を微振動させて砂の中に潜り、自由自在に砂を泳ぐ。背ビレは周囲の振動を感じ取る為の感覚器。



へぇー初めてみた、本当に背ビレ生えてるよ。一角族ホコスの一本角も興味深いけど、こっちも気になる…生え際が見たい。


「じゃあじゃあお家に行こっ! お姉さんに見せたいのがあるんだあっ!」


「もちろんそのつもりだけど、どのくらいかかるの?」


「うんとね、お日様がしずむころにはつけるよ」


入相頃か…ちょっとどうだろうな…。入相の到着はこの子のスピードあっての話だろ…? 私にはあんな速さで進めないし…困ったな…。


だからって私の足並みに合わせちゃうと…余裕で日が暮れちゃうし…。砂のど真ん中じゃ火起こしできないから…夜凍えちゃうし…。


「ねえねえ、一応聞くんだけど…オアシスが近くにあったりしないかな…? あの…植物が生えてて水源もあるっていうアレ…」


「おあしす? あっちにあるよ、ここからも近いよ」


指差した方角は西、若干ユク君の家からは遠ざかることになる。だがこのチャンスは逃せない…凍えたくはない…。なによりユク君を凍えさせたくない…!


ってことでユク君と相談。今後の私達の動きとしては、今日はオアシスで一泊し、明日ユク君の家に向かうことになった。


ユク君は「お泊りだー♪」ってなんだか楽し気、文句なしに可愛いね♡


「じゃあ行こ行こっ! ちゃんとついて来てねっ!」


“ズボッ! ズザザザザザッ!!”


「ちょちょちょストップストーップ…!! お姉さんそのスピードで進めないからァ…! ごめんけど足並み揃えてほしいかもォ…!!」


大声で呼び掛けると…ユク君は少し進んだ先で砂から飛び出して、私の方に走って戻ってきてくれた。


砂の中に潜ってても一応声は聞こえるのかな…? って思ったけど「なんでついて来ないの?」みたいな表情かおで見てくるから違うのかな…? 分からんな…。


「ごめんね…私砂の中泳げないから歩いて行こ…?」


「歩いて? う~ん…じゃあ手繋いでっ!」


「手? まあユク君がいいんなら…」


後で手汗凄いことになりそうだけどいいのかな…? でもせっかく子供と手を繋いで歩けるチャンスなので、私は喜んで手を差し出した。


私もあんまり手大きくないけど、それより小さいユク君の手にキュンとする。すべすべだァー♡ フフフッ…ヘヘヘッ…♡ ※一応常識人


砂漠で孤立した時はどうなることかと思ったが…、オアシスの場所も分かり、さらにはより安全な集落にも行ける可能性を得た。


まさに不幸中の幸い、悪いことばかりじゃないね。まあ不幸の割合があまりにも大き過ぎるんだけどね…、仲間と飛空艇ロスは辛い…。


「おさんぽおさんぽランララ~ン♪」


まあなんとかなるかっ! あっちはアクアスとニキの2人がかりの捜索だし、こっちもユク君可愛いし、いずれ無事合流できるでしょうっ!


難しく考えるのはやめだやめ、私は私のすべきことだけをやろう。あの2人なら案外すぐに私のもとまで来たりしてな、思わぬ移動手段とかで。


「入相までには着いときたいね~、夕食もどうにかしないとだし。あっそうだユク君、手繋ぐのはいいけど手汗ついちゃうかもしれないよ?」


「えっ…── “ズザザザザザッ!!” 」


「だから待ってって…! おんぶ…! おんぶするから待ってェ…!!」



──第50話 迷子と砂泳族〈終〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る