第47話 砂と舞の街

「だらっしゃニャア…!!」


「 “ジャラァ…?!!” 」



──昼過ひるすぎ -サザメーラ大砂漠 北側-

<〔Perspective:‐ニキ視点‐Nikhi〕>


現状説明ー! 〝ノッセラーム〟を目指しているニキ達は、やたら襲ってくる中型のヘビやトカゲ共を蹴散らしながら北東に進んでるニ…!


そして今ようやく全頭をぶちのめしたニ…、暑さも相まってしんどかったニ…。怪我はないけど…この調子じゃ日が暮れちゃうニ…。


「そっち怪我してないニ? 大丈夫ニ?」


「はい…わたくしは大丈夫です…」


アクアスは冷静さを取り戻しはしたけど…見るからに元気が失われてるニ…。早くカカを見つけて安心させてあげたいけど…こういう時こそ焦らないことが大事ニ。


気持ちだけ先行したって…結果的に空回りするだけだからニ。今はなるべく早くノッセラームに着くことが最優先…! 邪魔な奴等は蹴散らして前進あるのみニ…!


暑さに蝕まれながら歩きにくい砂の上を進む…、どうでもいいけど砂漠の砂ってなんであんな山あり谷ありになるんだろうニ…? おかげでめちゃ歩きにくいニ…。


いくら山を越えても見えてくるのは砂・砂・砂…、こうも景色に変化がないと…図らずも精神が削られてしまうニ…。


「ニキ様…! あれを…!」


「ニ…? おーっ?!」


アクアスが指差す方を向くと、熱でぼんやりした視界の先に動く影が見えた。結構離れてて見にくいけど…ラクダに人が乗っているように見えるニね…。


かなり遠くだけど…もし人ならば必ず街を知ってる筈…! このチャンスは逃せない…! 走ってでも接触を試みるニ…!


「行くニよアクアス…! カカ救出の足掛かりが目の前ニ…!」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「いやァ、お嬢さん達運が良かったよ。俺ァ月に一度ぐらいしか砂漠に出ないからなァ、これも何かの縁かねェ」


「いや~本当そうニね~♪ おかげで楽ちんニ~♪」


なんとかラクダ乗りの男性に追いつけたニキ達は、事情を説明してノッセラームまで乗せてもらえることになった。ついてるニ♪


荷車を引いた2頭のラクダの片割れに乗っての移動、この得も言えぬ快適さ…感動が止まらないニ…。


「お兄さんはノッセラームに住んでる人なのニ?」


「いんやァ、俺ァ外れの洞窟で一人暮らししててよォ、たまに珍しい鉱石を街に売り行ってんだっ。ちょうど向かうところだったから気にせんでいいよォ」


鉱石商の人なのかニ…? なんにせよ目的地が一緒なら気兼ねなく厚意に甘えられるニ♪ このままノッセラームに直行ニ♪








「──見えてきたぜェ、あれが終着点のノッセラームだいっ!」


「おおっ~! なんだか凄いニ~!」


あれからいくつもの砂の山を越え、ようやく目の前に目的地であるノッセラームが飛び込んできた。


途轍もない大きさの流砂と、中心には山の様に巨大な岩。その上には築かれた都市の姿があり、長い吊橋が流砂の上に架かっている。


あれがノッセラーム…分かり易く砂漠の街って感じがするニ。更に近付いていくと、流砂と岩のあまりの大きさにビックリ…。自然の神秘ニ…。


吊橋の大きさも遠くで見るより遥かに大きい…! ラクダ2頭が荷車引いたままでも渡れる程に大きく立派で、まるで街の大通りのよう。


下に広がる巨大流砂にビクつきながらも…ニキ達はノッセラームの門をくぐった。



-砂と舞の街 ノッセラーム-


黄色いレンガで造られた家々、並ぶバザール、特徴的な民族衣装、The砂漠って感じにテンションが上がるニ…!


鉱石商のお兄さんもそうだったけど、住民達はやっぱり一角族ホコスなのニね。レヴルイスの時と同様、物珍しい目で見られてるニ…。


「ほんじゃァ、俺ァ鉱石を売りに行くんでここでバイバイだねェ。また会えたらそれも何かの縁だァ、そんときゃ商品も見て行ってなァ!」


「ありがとニ~! 本当助かったニ~!」


気さくなお兄さんに手を振ってバイバイし、ニキ達はバザール賑わう通り歩き始めた。流石に砂漠のバザールなだけあって、中々見られない物ばかりが並んでいる。


でも寄っている暇はないニ…! 物色したい気持ちを胸の奥底に押し込み、バザール通りを抜けて街の広場を目指す。


広場に行けばタウンマップがあるだろうし、何か移動手段に関する情報が手に入るかもしれない…! っというかそれだけが希望…!


「ニキ様…本当に移動手段なんて手に入るのでしょうか…」


「大丈夫ニよ…! 凄腕旅商人の勘を信じるニ…!」


アクアスを励ましながらバザールを抜け、広場と思しき場所に出た。予想通りタウンマップを発見、かなり大きな街だから見るだけで一苦労ニ…。


さーて、それらしい移動手段をゲットできるような場所はあるかニー? アクアスにああ言った手前、ないと面子が潰れちゃうニ…。


飛空商会スカイギルド…はなさそうニね…、馬車商会コーチギルドはあちこちにあるけど…流石に砂漠に出たりはしないよニ…。


「他にそれらしい商会ギルドは──ニっ…?〝砂駆商会デザートギルド〟…?」


タウンマップ上には知らない商会ギルドの名前が…しかも街の中に3箇所も…。他に気になるような記載もないし…物は試しで一度行ってみようかニ…?


アクアスと意見を合わせ、ニキ達は一番近くにある砂駆商会デザートギルドに向かうことにした。一体どんな商会ギルドなのか…移動手段なら嬉しいニけど…。


広場から通りに出て、街の東側に移動する。こっち側は教会や酒場などが点在していて、バザールのあった西側とは違った賑わいが広がっていた。


確かあの教会前の十字路を右に曲がって、その先にある憲兵屯所オーダーギルドを左に曲がって直進すると見えてくる筈なんだけど…──あったニ!


立派なたたずまいをした建物の看板には〝イスーピア砂駆商会デザートギルド〟の名が。入り口付近の掲示板の前に、数人の住民達が集まっている。


初めて入るからちょっと緊張するニけど…カカとアクアスの為にも臆してらんないニ…! いざ入店…!!


「いらっしゃいませっ! 受付はこちらでーすっ!」


中に入ると、早速受付嬢が手を挙げて案内してくれた。まずはここがどういう商会ギルドなのかを聞かないとニ…、ってか先に人に聞いておくべきだったニ…。


「あの~実はニキ達ノッセラームに初めて来てて…この砂駆商会デザートギルドってどういう商会ギルドなのニ…?」


砂駆商会デザートギルドと言いますのは、〝砂駆すなかけ〟と呼ばれる方々が砂上船を用いて、お客様を遠くに運ぶ為の商会ギルドになります」


砂上船…! その言葉を聞いた瞬間、ニキはアクアスと顔を見合わせた。キタコレキタキタ…! 移動手段イドウシュダン…!


砂上船って見たことないけど…絶対ラクダよか速い筈…! これでカカを捜しだせるニ…! 最後良ければなんとやらニ…!


「ニキ達行きたいところがあるんニけど、そこに運んでほしいニっ!」


「かしこまりました、行き先はどこに?」


受付嬢は受付台に地図を広げて見せてくれた。カカとはぐれたあの地点がどこか分からないニけど…確かカカは「砂漠のど真ん中」って言ってたよニ…?


ニキ達はノッセラームから少し離れた場所まで流されてたから…、カカも同じ距離を流されたとするなら…やっぱがっつり南側よニ…。


「んーとぉ、大体この辺りに行きたいんニけど…」


「えっ…、南側にですか…!? あー…ちょっとお待ちくださいね…?」


そう言うと受付嬢は、神妙な面持ちで裏に戻っていった。また顔を見合わせるニキ達…なんだか嫌な予感がするニ…。


それから少し経ち、さっきの受付嬢が神妙な面持ちのまま戻ってきた…。不安不安不安…、アクアスの袖をギュッと掴む…。


「大変申し上げにくいのですが…、イスーピア砂駆商会デザートギルドではお受けできません…」


「何故ですか…?! だって砂上船で人を運ぶのが仕事って…」


「仰る通りではあるのですが…サザメーラ大砂漠の南側は非常に危険な地帯でして…、ギルドマスターに伝えたましたところ…お客様と従業員の安全に責任が持てないとのことで…」


やっと希望が見えたのに…再び目の前が真っ暗になっちゃったニ…。言い分はちゃんと理解できるけど…それでも心にズシッとくるニ…。


しかも何が辛いって…他の砂駆商会デザートギルドでも同じ理由で断られる可能性があるってところよニ…。


「じゃっじゃあ…! 南までじゃなくて結構です…! 中央部まで運んでくだされば…後はわたくし達だけで行きますので…!」


「それも難しいんです…。サザメーラ大砂漠の中央部では〝横流砂よこりゅうさ〟と呼ばれる特有の現象がありまして…、最悪遭難してしまう可能性もあるんです…」


横流砂…?! これはひょっとしなくとも…ニキ達が巻き込まれたあの現象のことだよニ…。横に流れる流砂なんて…そんなものがこの世にあるとは…。


これ以上お願いしてもきっと話は前に進まないし…受付嬢さんにも悪いから、ニキ達はペコリと頭を下げて商会ギルドを後にした。


「ニキ様…わたくし達は一体どうすれば…」


「諦めるには早いニよ…! 砂駆商会デザートギルドはまだ2箇所あるニ…! もしかしたらどっちかは引き受けてくれるかもしれないニ…! あっ、ニキ達乗りまーすっ!」


ちょうど目の前を通りかかった馬車に乗り込み、ここから近い方の砂駆商会デザートギルドまで運んでもらう。


道中馬車引きのおじさんにも南側に行く方法を聞いてみたけど…欲しい回答は得られなかった…。きっとどこの砂駆商会デザートギルドでも断られるって断言までされたニ…。


その後目的地に到着し、代金を払って馬車を降りた。扉を開けて中に入ると、中にはさっきよりも多くの客の姿があった。


多分ここが一番人気のある砂駆商会デザートギルド…、もしここで断られたら…もう1箇所には行くだけ無駄になるかもしれない…。


客の列に並び、自分達の番を静かに待った。心配で胸がいっぱいなアクアスは…今にも泣き出しそうな表情…。ニキは優しく背中を撫でることしかできないニ…。








ニキ達の番が回ってきて、ニキ達は必死に南側へ運んでほしいとお願いをしたけど…結果的に受付嬢が首を縦に振ることはなかった…。


理由はさっきと同じ…、やっぱり商会ギルドは従業員に危険が及ぶ依頼を受け付けてくれない…。仕方のないことだけど…あんまりニ…。


正直…完全に希望が潰えてしまったかもしれないニ…。カカがそう簡単にくたばるとは思えないニけど…時間が経てば経つほど生存率は沈んでいくニ…。


運良くオアシスに辿り着ければ話は別だけど…そんな細い希望にすがってたら取り返しのつかないことになっちゃうニ…。


日数はかかるけど…ここは地道に砂漠を渡るしか方法はないかもしれないニ…。どこかでラクダを調達できればすぐにでも出発──


「ギャアアアアッ…!!」


「ニっ…!?」


どこかから男の人の悲痛な叫び声が聞こえてきた…。あんまり構ってる暇はないけど…無視するのも可哀想な程の悲鳴だったニ…。


ちょこっと様子だけ見るつもりで、悲鳴が聞こえた方へ向かう。悲鳴は確かあそこの路地奥から聞こえてきた筈…、一体何が…──


「オラァ…!! このままあの世に送ってやろうかァ…! このボケカスゴミクズ “ピーーーーーーーー※自主規制でーす” 野郎がァ…!!」


「マ…マジすんません…、もう許してください…マジで…」


若い褐色肌の女の人がえげつない暴力と暴言で太った中年男性をボコしてるニ…。様子見だけのつもりが…余計に無視できなくなっちゃったニ…。


直視できない程に顔面がボコボコ…一切手加減されてないってのが嫌でも伝わってくるニ…。しょうがない…助けよう…。


「そこで何やってるニ…! 意味のない暴力は良くないニよ…!」


「うわっビックリした…?! 何…? 貴方達コイツの知り合い…?」


「い…今が逃げるチャンス…、うわあああっ…!!」


女性が驚いてこっちに意識を向けた瞬間、男性は走って逃げて行ってしまった。せめて礼ぐらい言っていけニー!


「ああっ逃げられた…! もー…まだボコり足りなかったのにぃ…、貴方達誰…? 言っとくけど私アイツにストーカーされてたからボコっただけだかんね…? ちょっとやり過ぎた感は否めないけど…悪いの全部アイツだかんね…?」


「あっじゃあ問題ないニね、止めてごめんニ」


女性をストーカーするような変態は、若干骨格が歪むくらいボコボコにするのがちょうどいいニ。今度見つけたらニキも喝を入れてやるニ。


ともあれ騒動は一応収まっ…た…? なんとも言えないけど…とりあえず解決したってことで、ニキ達はもとの道に戻る為背を向けた。


「ちょっと待って…! もしかして貴方…メイドさん…?!」


「えっ…はい…、そうですが…どうかされましたか…?」


一歩踏み込んだと同時に、突然女性がアクアスの肩を掴んだ。なんだろうと振り向くと…何故か妙に興奮したような表情を浮かべてる…、目が怖いニ…。


アクアスも何が何だか分からないご様子…頭にハテナが浮かんでるのが見えるニ…。えっなになに…!? 暴力…!? 暴力振るわれちゃうニ…!?


「私…私…、メイドさんのファンなんだァー! メイドさんが出てくるあらゆる本を読み漁るくらいメイドさんが好きなんだァー!」


あれっ…? なんか様子がおかしいニね…、さっきまで変態をフルボッコにしてた人とは思えない様相の変化ニ…。


めっちゃ眼がキラキラ…、輝く眼差しを向けられてるアクアスが硬直しちゃってるニ…。かく言うニキもちょっと動けないニ…。


「本物のメイドさんと出会えるなんて夢みたいだよ…! 感激だァ…! ねぇお願いがあるんだけど…私にメイド業見せてくれないかな…? 家この近くなんだ…!」


「いえ…それはできかねます…。わたくしはカカ様専属メイドですし…そのようなことをしている暇はわたくし達にはありませんので…」


「ええっ…?! お願いお願い…! ちょこっとだけでいいからさァ…!」


女性は中々引き下がらない…、こんなところで油を売ってる場合じゃないのは事実ニ…。ここは事情をはっきり伝えて、諦めてもらおうニ…。




     ザックリかつ懇切丁寧に説明中ですニ~

     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「なにそれ泣けるゥ…! アクちゃんの忠義心に胸打たれるゥ…!」


「もう打たれてると思うニよ…」


ここまでの流れを簡潔に説明した結果、涙を浮かべて同情されるに至った…。もはやメイドじゃなくてアクアスのファンみたいになってるニ…。アクちゃんて…。


「ですのでこれからわたくし達はカカ様を捜しに行くので、これで失礼致します…」


アクアスはペコリと頭を下げて、ニキの方に目線を向ける。アイコンタクトで早く行きましょうって言われてる気がするニ…ってか多分言ってるニ…。


ニキも女性に頭を下げて、今度こそもとの道に戻ろうと一歩踏み出した。だがしかし…! ここでもまた女性はニキの肩を掴んで歩行を阻止してきた。


ニー…これはちょっと強く言わないとダメかもしれないニね…。可哀想ではあるけど…これ以上カカ救出の邪魔はされたくないニ…。


「今度はなんニ…? これ以上はいい加減…」


「あっ違うの違うの…! さっき砂駆商会デザートギルドに断られたって話してたから…良い情報をあげようと思って…!」


「良い情報…?」


今の話の流れからして…これはひょっとしてひょっとするかもニ…! これでラクダだったらちょっとがっかりするけどニ…。


「南門の近くにね、商会ギルドに所属してない個人経営の砂駆屋すなかけやがあるの。そこならもしかしたら依頼を受けてくれるかも…!」


「めちゃくちゃ朗報ニ…! ありがとうニ…!! 感謝感激ニ…!!」


「気にしないで? 私はただ…推しに喜んでほしいだけだから…! 必ずご主人様を見つけるんだよ…? 応援してるからねアクちゃん…! それじゃ…!」


アクアスの両手を握って激励を送り終えると、女性は走って行ってしまった。いい人だったニねー、二度とストーカーされないことを切に願うニ。


ニキ達もさっきいた道へと戻り、女性が教えてくれた南門近くの砂駆屋すなかけやを目指して歩き出した。


道行く人に詳しい場所を聞きながら目的地へと近付いていき、ようやく個人経営の砂駆屋すなかけやに辿り着いた。


流石に個人経営なだけあって…店構えは小さい…。なんだかちょっと不安になるけど…もうここを頼る以外に道はないニ…!


「いざ入店ニ…! 今度こそ絶対首を縦に振ってもらうニよ…!」



──第47話 砂と舞の街〈終〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る