第44話 謁見

バイエさんの案内のもと、現在私達は大通りを抜けて城を目指している。大通りここからでも分かるサイズと重厚感…デカい城だぜェ…。


こんなご立派な城の玉座に座す王はどうな人物なのだろうか…ゴリゴリにお堅い人だったら嫌だなぁ…。国王おじぃとかムネリ女王みたいな人がいいなぁ…。


「見えてきました、あそこが城への入り口です」



─城門前─


進む先には立派な城門と、その前にたたずむ2人の兵士の姿。あそこに兵長が居るのか、そうか…あそこにか…。


これまた城に見合った堅固な城門ですこと…。王のイメージがどんどん頭の中で出来上がっていく…それはそれは恐ろしい修羅の様な姿が…。


そんな王に仕える兵長もまた…二足歩行の怪物みたいに恐ろしい人なのだろうか…。生きて帰れるかな…食われないか…?


「…っ! バイエ殿、お疲れ様ですっ! 兵長に何か御用でしょうか? 街で何か事件でもおこりましたか?」


「いえ、今回は少し違いまして。実はこの方々が兵長殿にお会いしたいと仰っていましてね、通していただけますか?」


「バイエ殿のお連れの方とあれば問題ないでしょう、どうぞお通りください」


兵士に通された私達は、無事に城門をくぐることができた。だが心拍数は高いまま…一歩踏み込むごとに緊張がのしかかってくる…。


怖いなぁ…嫌だなぁ…、身長16フィート(約5メートル)くらいあるのかな…。もう巨人族トールじゃんそれ…怖過ぎるよ…。


想像の恐怖に慄きながらバイエさんの後に続くと、目の前に円筒型の建物が見えてきた。あそこが兵士達の本部なのだろう。


扉の前に着くと、バイエさんはノックしてから扉を開けた。いよいよか…一体どんな兵長怪物が出現するというんだ…。


中に入ると、そこには大勢の兵士の姿があった。鎧や剣が綺麗に置かれており、誰とも分からぬ手配書が壁に沢山貼られていた。


「〝ロダン〟兵長は居りますか? 用があるのですが」


「──む…? その声はバイエ殿か…? よっっっこいしょォ…!」


大勢の兵士達が立っている中…それを上回る身長の持ち主の背中が奥に見えた。デケェ…?! 7フィート(約2メートル)はありそう…! 怖い…!!


巨躯で屈強な男は…振り返ってこっちに近付いてくる…。近付いてくる度にどんどんデカさが強調されていく…、圧が凄い…。


「これはこれはバイエ殿、吾輩に何か用があるそうですが…何用ですかな…?」

< ベンゼルデ軍兵長 〝一角族ホコス〟 Rhodan=Xie Myロダン=ジエ・ミラルlale >


「こちらの方々がロダン兵長にお会いしたかったそうで、お連れしたんです」


「ほう…こちらの女性陣が…?」


身長のせいで図らずも見ろされるこの構図…、天井に吊るされたランタンの灯りが、ロダン兵長に影を作っていて怖い以外の感情が浮かばない…。


眉間に寄ったしわ…濃い武将髭…壁みてェな肩幅…、おまけに背中にはバカデカい大剣…。私が知る兵長の中でぶっちぎり最強の風格をしている…。


「ひっ…怖…」

「コラ…! 口に出しちゃダメ…!」


思わず本音が口からこぼれたアクアスを叱り、私のことをガン見するロダン兵長との対話を試みる…。大丈夫だ…こっちにはがある…。


「えーあのですね…単刀直入に言いますと、この国の王に謁見したいんです。リーデリアの悲劇に関係するお話がありまして」


「むん…? 見たところ貴様等はリーデリアの住民ではないようだが、何故リーデリアの悲劇に関わる…? 何故謁見を望む…?」


まあやっぱりツッコまれるよね…グヌマさんの時もそうだったし…。だが今回はちゃんと秘策がある…! わざわざムネリ女王に書いてもらった手紙…!


石版集めが進展すれば、いずれベンゼルデには来ることになるとは思っていた。この手紙はその時の為のものだったのだが…まさかこんなに早く出番がくるとは…。


これさえ見せれば、私達がリーデリアの悲劇に関わる理由が一発で伝わる筈。あとは謁見したい理由を口頭で告げれば、多分会わせてくれる…筈…。


私は睨みを利かせるロダン兵長に…恐る恐る手紙を渡した。結紐を解いて中身をじっくりと拝見するロダン兵長…この何も生まれない間が怖い…。


手紙は預かったけど…私拝見してないから内容分かんないんだよね…。どうしようまったく関係ないこと書かれてたら…、悪戯に思われたら終わりだぞコレ…。


「ふぅむ…なるほど、ひとまず貴様等の立場は分かった。ムネリ女王直筆の手紙であることも信用しよう、して謁見したい理由わけは…?」


「ベンゼルデに堕ちた石版が万が一立入禁止区域にあった場合に備えて、今のうちに立入許可証をいただきたいんです」


「立入許可証の為に謁見…どうやら指定特級を望んでいるようだな。ふぅむ…余程の事がなければ指定特級の立入許可証は発行されんが…それを決めるのは吾輩ではないからな…。よかろう、玉座の間に案内する、ついて来い」


そう言ってロダン兵長は扉を開けて外に出ていった。思ったよりすんなり話が進んだな…ムネリ女王の手紙パワースゲー。


これで王と謁見か…、ハァ…怖ェ…。こんな武将髭生やした怪物を従える王か…ハチャメチャにムキムキの三面六臂な人だったり…? マジ怖ェ…。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




─ ウーラノス城 5F 玉座前 ─


「この扉の先に居られる、失礼のないようにするのだぞ」


「任せてください…私目上の人から可愛がられやすいので…」


「それって多少は失礼に目を瞑って貰えるって話よニ…? 礼するなニ…」


私は両手でほっぺを叩き、大きく深呼吸をして気持ちを整えた。気付かれてないだろうけど…今小刻みに膝が震えてる…、緊張が膝にきてる…。


アクアスを見ると…胸に手を当てて鼓動を鎮めようとしていた…。ニキだけだ…この状況で緊張せずにいられるのは…。


もう一度ほっぺを叩いて気合いを入れ直すと、ロダン兵長は大きく頑丈そうな扉を3回ノックして大きな声を出した。


「〝アイリス様〟!! リーデリアより、アイリス様に謁見したいと申す者達が来ておりますっ!! 通しても宜しいでしょうかっ?!」


「──構わぬ、通せっ」


ゴツい扉の奥から聞こえてきたのは、想像していた姿とはかけ離れた女性の声。〝アイリス〟という名からしてもそうだが…もしかして…。


人物像が頭をよぎった途端、重たい扉がゆっくりとひとりでに開いていく。ロダン兵長の後に続いて中に入ると、ついに王の姿を謁見できた。


淡黄蘗うすきはだの髪と淡藤色あわふじいろの瞳、天を向く立派な角が生えた凛々しい女性。まさかリーデリアに並んでベンゼルデも〝女王〟だったとは…。


「其方等が妾に謁見したいと申す者等か。妾が一角族ホコスの国ベンゼルデの女王、〝アイリス=ギル・ロートリエール〟である」

< ベンゼルデ女王 〝一角族ホコスAyrice=アイリス=Guire Loギル・ローtholialeトリエール


アイリス女王と目が合い、私達は片膝をついて頭を下げた。言葉は交わしてないが…雰囲気からして明らかにムネリ女王とは違うタイプな気がする。


っと言うよりこっちが正しい女王図な気もする…。ムネリ女王あの人がフレンドリー過ぎてるんだなきっと…、完全に近所の面倒見の良いお姉さんだもん…。


ひとまず私達はアイリス女王に挨拶を済ませ、早速本題に踏み込んだ。ここからが勝負だ…なんとか説得して指定特級の立入許可証を貰わねば…。


「此度私が謁見を希望した経緯としましては、是非この私に指定特級立入許可証を発行していただきたく思ったが為です。その理由につきましても順次説明を…」


「その前に、其方等が何者であるかを教えてはくれぬか? 簡潔でよい、名だけではその者の内なるものは見えてこぬ」


確かに…少し気持ちが先行し過ぎてしまった…。まずはこちらが信用に値する人物であると知ってもらわねばな…。


「アイリス様、それにつきましてはムネリ女王の手紙がございます。こちらをお読みになればお分かりになるかと」


「ふむ…ムネリ殿の手紙とな…?」


アイリス女王はロダン兵長から例の手紙を受け取り、結紐を解いて中を拝見した。これで信用してもらえればいいのだが…。


しばしの間玉座の間に沈黙が広がり、やがてアイリス女王は読み終わって私達の方を向き直った。さてさてどうかな…?


「ひとまず其方等の事情や立場は理解した、ムネリ殿が信用しておるのなら充分信用に値する。では改めて許可証の件を聞こう、何故指定特級が必要なのじゃ?」


「あっそれはですね、空に散った石版がここベンゼルデ国内にも墜ちていることが判ったのですが…その石版を回収するにあたって、万が一に立入禁止区域に石版があった場合回収が困難になってしまうからです」


「ふむ…それで後で困らぬよう先に貰いに来たというわけか、相分かった」


良かったぁ…とりあえず信用してもらえたぁ…。ムネリ女王マジスゲー、純粋故に…他者からの信用と信頼が厚いんだろうな…。


だがおかげで好感触、これなら許可証をいただけるかも。マジで手紙用意してて良かったぁ…もうすぐ帰れそう…。


「しかし、何故この国に石版があると知れたのじゃ? リーデリアの者等でさえも正確な場所までは判明しておらぬだろうに、日の浅い其方等に何故分かる?」


「うぇ…!? そっ…そそそれはですねぇ…」


やべェ…何も考えてなかった…、王都ファスロの面々からは何も聞かれなかったから…全然警戒してなかった…。


どうするどうする…?! ニキの能力チカラでーなんて絶対言えないし…かと言って他に何かあるか…!?


これはマズいぞォ…?! ここで下手すると信用が損なわれてしまうかもしれない…! 考えろ…考えろ…!


「どうしたのじゃ? まさか答えられぬとでも…?」


「いえそんなことは…! 実は…ですね…──このニキと言う者は凄腕の〝占い師〟でして、石版の在り処を占ったのです…!」


「ニ…!?」


巻き込んでごめん…! でもそれしかないんだ…私もアクアスも到底占い師の風貌じゃないから…オマエ以外なかったんだ…。


これでもだいぶ苦しいんだ…ただでさえ占い師って職業は胡散臭いってのに…、それをあろうことか女王に信じてもらおうとかふざけてる…。


「其方占い師じゃったのか? この手紙には旅商人と書かれておるが…」


「旅商人兼紫兼…占い師なんですコイツは…」

「紫ってなんだニ…!」



 ≪占い師≫

様々な方法を駆使して、探し物や風水を判断する職業。星を用いる占星術師せんせいじゅつしや、水面の波紋を用いる占漣術師せんれんじゅつしなど複数存在する。



「そう…なのか…、じゃがまあ…それならばその怪しい頭巾も納得じゃ…。妾の知る占い師達も皆…レースやらフェイスベールやらで顔を隠しておるしの…」


なんか誤魔化せた…ニキの紫頭巾ファインプレー…。だがここでニキが占い師だと言ったことは絶対忘れないようにしよう…ボロ出したら終わりだ…。


後で念入りにニキと打ち合わせしなきゃな…水晶玉とか持ってるだろうか…。まあそれは後で考えよう…今は目的を果たすのが最優先だ。


「それでアイリス女王陛下、指定特級立入許可証はいただけるのでしょうか…?」


「むっ、そういえばその話がまだであったの。そうじゃな…それについても追々話すつもりじゃが、其方等とはもっと気を楽にして話がしたい。ロダンよ、この者達を妾の寝室にお通しせよ、妾もすぐに向かう」


んぬぅ…?! 何故故に寝室へ…!? とても口には出せないけど…会話の相手が女王ってだけで気は楽にはできませんよ…?! とても言えないけど…!


「アイリス様…流石にそれは危険では…」


「心配要らぬ、この者達は悪しき賊ではない、ムネリ殿のお墨付きじゃ。もし懸念が拭えぬのであれば、武器を預かるでもするがよい。とにかく通せ、よいな?」


「承知致しました。オマエ達、ついて参れ」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




─ ウーラノス城 4F 女王の寝室 ─


「な…なんでこんな事になってしまったのでしょう…」


「分からないニ…緊張が止まらないニ…」


「とにかくだ…絶対に失礼のないようにするんだぞ…! いいな…!」


ロダン兵長の案内のもと、私達は本当にアイリス女王の寝室に通された。武器系は全てロダン兵長が持っていったが、ニキだけはバカデカリュックも取られていた。


アイリス女王が来るまではソファーに座って待機するよう言われ、ロダン兵長は私達を残したまま足早に寝室を後にした。


現在いまは私達しか居ないが…やはり落ち着かない…。部屋全体が圧を放っていて…それに押し潰されちゃいそうだ…。


気を紛らわせる為にあちこち目を向けるが、視界に入ってくる物全てがどれも高級そうでやはり落ち着かない…。


唯一の救いは大きな窓から見えるこの景色だろう。活気溢れる王都が一望できる、圧巻の一言だ。


“ガチャッ!”


「うむ、待たせて悪かったの。心配性なロダンからあれこれ言われて長引いてしもうたのじゃ、まったく困ったものよ…」


扉を開け入ってきたのは、アイリス女王とティーカートを押す侍女らしき女性。アイリス女王が私達の対面に座ると、すかさずティーカップがテーブルに置かれた。


透き通った真朱しんしゅの紅茶からは、微かな果実の甘い香りをのせた湯気が立っている。ちょっと気持ちが落ち着いてきた。


「んむっ? 其方も座るがよい、でなければ気を楽にして話などできぬであろう?」


「いっいえ…わたくしはカカ様のメイドですので…このままの方が…」


「いやいいよ、ほらっ私の隣においで」


クイクイッと手招きをして、緊張した様子のアクアスを右隣に座らせた。アイリス女王は何か話があるようだが、一度落ち着く為に紅茶をひと口…うん美味しい…。


フルーティーな味わいにスッキリした後味、余裕のない心にゆとりが芽生えていく…。ふぅ…話って何だろう…。


「さてさて、楽しい歓談の時間は後に回し、まずは本題から入ろうかの。はっきり申す、現状其方等に──指定特級立入許可証を渡すことはできぬ…!」


「早速行き詰まったァ…?!」


「なんか前にも似たような事なかったニ…?」



──第44話 謁見〈終〉

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