第39話 ラウントース職人商会

「えェ…!? 直せないのォ…!!?」


魔物に破壊された衝棍シンフォンを直す為、ムネリ女王の案内でラウントース職人商会ローウギルドを訪れたのだが…。


なんとそこの受付嬢に「直せない」と言われてしまった、ワーオ崖っぷち! ここへ案内してくださったムネリ女王の顔が青ざめてるよ。


「アクアス…ニキ…、どうやら私はここまでのようだ…。後はオマエ達だけで頑張るんだぞ…、土産は酒で…」


「カカ様諦めないでください…! 別の方法を考えましょう…!」


「どっちみちカカはニキ達の搬送で現地に行くけどニ?」


でもぶっちゃけマジでどうしよう…、戦えなくはないが…衝棍シンフォンがないと実力の半分程度しか出せない…。


武器屋で新しいの買ってもいいんだけど…、如何せん質がなぁ…。私が使ってた衝棍シンフォンって高級品だから…中々売ってないんだよね…。


まあ売ってたとしても多分買えないけど…。そもそも私の衝棍シンフォンっていくらする代物なんだ…? 貰い物だから分かんねェ…。


「あ…あのあのあの…、本当に直らないんですか…!? ここで直していただかないと…ここに案内したわたくしの面目がぁ…」


「やややー…そうは言われましても私ただの受付嬢ですから…」


受付では今もムネリ女王がめちゃくちゃ戦っている…。うーん…なんか非常に気まずいな…、なんて声掛ければいいんだ…。


「ダメですよムーミエ、説明は相手に分かり易いようにと何度も言っているでしょう。結論だけ伝えるのは貴方の悪い癖ですよ」


突如男の人の声が聞こえ、その声の主は受付の奥の扉を開けて姿を見せた。萌葱色もえぎいろの長髪と丸眼鏡が特徴的な男性、背も高い。


この商会ギルドに所属してるであろう〝鍛冶師かじし〟や〝大工〟にも見えないが…ひょっとしてこの人…。


「ややー…申し訳ないです〝マスター〟…。どーも説明って苦手なんですよねー…じゃあ受付嬢なんてやるなって話なんですけども…」


「そこまで自覚があるならしっかりしてくださいよ…、でないと貴方を雇用した僕があれこれ言われてしまいます…」


…ってことはこの人がここの〝ギルドマスター〟か。常日頃から苦労してそうな人だな…。


「女王様に噂の救世主一行様、ラウントース職人商会ローウギルドへようこそいらっしゃいました。僕はギルドマスターを務める〝ガラート〟と申します」

< ギルドマスター 〝蟲人族ビクトGuaraガラートt Low・ラウntoceントース


額からちょこっとだけ生えた触角…それだけだと何の蟲人か分からないが、ガラートさんはその背中に立派な羽があって分かり易い。


青く透けた羽が4つ…トンボの蟲人だな。羽が青い個体となると…〝ソラカゼトンボ〟とかかな? こう見ると綺麗だ…実物に会ったら絶叫するだろうけど…。


「あの…今日は武器の修理依頼で来たんですけど…」


「お話は聞こえておりました。先程ムーミエが「直せない」と仰っていましたが、あれは言葉足らずな説明でして…正しくは〝〟なのです」


「どういうことですか…? 何か直せない事情があるのですか…?」


アクアスがそう問うと、ガラートさんは窓から見える景色を指差して説明を始めた。


曰く、魔物が王都を襲ったあの日以来…この商会ギルドは崩れた建物の再建にほとんどの人出を取られているという。


それだけならば特に問題はないのだが、問題になっているのは…武器や防具などの装備品依頼が全キャンセルになってしまったこと…。


大工達が引く手数多なのに対し、鍛冶師等は仕事がなくなり…更には当面先も仕事が見込めない状況にある…。


それに伴い…仕事がなくなった者達も全員、再建作業の人手に出てしまっているという…。つまり今この商会ギルドには、私の武器を直せる技術者が居ないのだ。


「なるほど…だーいぶ舌足らずな説明だったわけだ…」


「アハハッ…反省してますー…」


ひとまず事情は分かった。衝棍シンフォンを直してもらうには、まず職人達を連れ戻らないとならないわけだ。


うーむ、仕方ない…一度街に戻ろうか…。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「…でもニキ達で連れ戻せるのニ? 都市の再建なんて大義名分の前じゃ…カカの武器修理なんて小石みたいなもんニ」


「小石てオマエ…、大丈夫だろきっと。大工はそうでも、鍛冶師等はあくまで仕事がないから手を貸してるだけだ。依頼があれば飛びつくぜきっと?」


「餌を与えられた犬のように言うのは失礼ですよカカ様…」


私の衝棍シンフォンを直してくれる職人を探す為、現在王都を彷徨い中。道中頭にタオルを巻いた職人らしき人を何度も見かけたが、皆等しく大工だった…。


意外と居ないものだな…案外サクッと見つかるかと思ったが…。これは長くなるぞォ…? 王都中を捜索するとなると…それだけで一日終わるんじゃないか…?


ぶっちゃけそれは嫌だな…、今日は修理の依頼だけして…後は体をゆっくり休めるつもりだったんだけどなぁ…。


「なあニキ、オマエ旅商人だろ? ちょっと空飛んで職人探してこいよ」


「カカは旅商人をなんだと思ってるニ? カカが飛べばいいニ飛空技師なんだから」


「そりゃ無理だ、ほら、私か弱い女だから」

「同性だろうニ…! カカが無理ならニキも無理ニ…!」


まあそりゃそうよね、冗談です冗談。私達が地上から捜索している間、ムネリ女王は空から職人を探してくれている。


自由に空飛べるっていいよなぁ、私にも羽やら翼があれば…もっと別の道もあったろうにな…。羨ましい限りだぜ…。


空を見上げていると、ムネリ女王がこちらに飛んでくるのが見えた。ひょっとして見つかったのかな? 手間が省けてありがたい。


「助っ人様方ー! 向こうで職人を見つけましたー! わたくしについて来てください!」


予想通りムネリ女王が見つけてくれた。ふよふよ空を飛ぶムネリ女王を追って、私達は噴水のある広場に出た。


広場なだけあって人の往来が激しく、ガタイの良い男達がせっせと木材を運んでいる。さて、この中の誰なのかな…?


「助っ人様方、あそこに居る方がラウントースに所属している〝加工手かごて〟の方です。きっと依頼を受けてくださいますよ」



 ≪加工手かごて

鉱物や金属を扱う鍛冶師と異なり、生物の角や骨などの加工・成形を行う職業。



ムネリ女王が手で示した先に居たのは、ひときわ太く長い木材を3本肩に担いだ大男。お…おっかねえ…、見てるだけで押し潰されそうな筋肉だ…。


えっ大丈夫これ…!? 依頼しても大丈夫…!? 「後にしやがれェ…!!」とか言われて木材でぶん殴られない…!? 余裕で死ぬぜ私…?!


「〝ダラ〟さん、今お時間よろしいですか?」


「んっ? おおっ! これはこれは女王様っ! 俺に何か御用でございますか?」


お…おお~? 見た目おっかないけど…意外と温厚な人なのかな…? すんげえ笑顔素敵…、なんか国王おじいに雰囲気似てるかも…。


筋肉ムキムキな茶髪の大男は、手首から焦茶色の何かが生えており、それが腕に沿って折り畳まれいる。またちょっと恐怖…。


「んむっ? そこに居るのはもしや…噂の英雄達かっ?! 一目見ておきたいとは思ってたが、想像してたのと違ェな…、まさか可愛らしいお嬢さん達とは…」


「ですがこの方々は凄いんですよっ! あの怖ろしい魔物を倒したんですっ!」


「あの魔物をですか…!? ほほー、やるな嬢さん等…!」


なんか気に入られたっぽいぞ…? 肩を軽くポンポン叩かれたが、そこから伝ってくる圧が凄まじい…おとこを感じる…。


「俺ァ〝ダラ〟っつうもんだっ! わざわざ女王様を連れて会いに来るたァ、そんだけの用が俺にあるのか?」

< 加工手 〝蟲人族ビクト〟 Darah Gotowrダラ・ゴトーリッヒig >


「え…ええっ…、壊れた私の衝棍シンフォンの修理をお願いしたいんですけど…、お…お願いできます…?」


「…そいつァつまり〝依頼〟ってことか…?」


急に目つきをギラっとさせて、ダラさんは私の目を直視してくる…。あれェ…!? なんか癪に触っちゃったか私…!?


ヤバい…冷や汗止まんない…、「それどころじゃねえだろォ…!!」っとか言われてぶん投げられない…!? スープレックスで上半身埋められない…!?


なんだか気分は文字通り蛇に睨まれた蛙…、私は恐る恐る口を開いた…。


「そう…ですね…、依頼したいんですが…忙しければ全然断っていただいても…」


「ガッハッハッ!! 構わねえっ! むしろ俺ァ…毎日毎日重い木材運んでばかりの日々に辟易してたところだっ! ありがてェ限りだぜっ!」


そう言って私の腕をバンバン叩くダラさん…、怒られなくて良かったけど…一叩き一叩きが強ェ…。軽くやってるつもりなんだろうけどめっちゃ脳揺れる…。


でもやっぱり…見た目に寄らず温厚で気さくな人だった。怖いの見た目だけか、いやまあそれに尽きるんだけどさ…!


「そんじゃあ早速商会ギルドに…っと言いてえとこだが、この木材をなんとかしないとな。ちょっと離れててくれ」


その言葉に瞬時に反応して、私達はすぐにダラさんのそばを離れた。何するか分かんないけど…絶対危ないことスル…。


ダラさんは太くて長い木材を抱えると、不意に上へ投げた。その瞬間、腕から生えていた何かがバッと開いた。


腕と同じくらいの長さがあるそれは、ノコギリの様な細かい刃がついた鎌。ダラさんはその鎌がついた両腕を一振りすると…ぶっとい木材が一瞬で3等分に…。


どうやらダラさんは何かしらのカマキリの蟲人らしい…。ぶっとい木材を3本同時にカットとか…なんちゅう切れ味…。


「オーイッ! 俺ァちょいと用ができたから、木材置いておさらばするぜっ! 持ち運びやすくしといたから、後でオメェ等で運んでくれっ!」


「あいよー!」


他者への気遣いも忘れない…怖いけど良い人だなマジで…。


「よっし、そんじゃ向かうとするかね。久し振りの仕事…ワクワクするぜっ!」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「ややっ、お帰りなさいませー! 無事に見つけられたんですね、良かったですっ! それではダラさん、これがカカさんの依頼品です」


「どれどれ…、なるほどな…これァ見事に破壊されてやがる…。断面を上手く補修してくっつけてもいいが…新しいのに変えた方が良さそうだな」


へぇ、補修してくっつけることもできるのか…流石は王都一と呼び声高い職人商会ローウギルド所属の加工手かごてだな。


まあでも別にそこまで執着もないし、それでより頑強になるんなら願ったり叶ったりかな。問題はお値段だが…。


「指定の素材はあるか? なけりゃあこっちで適当に見繕っちまうが、どうする?」


「カカ、これ使ってもいいニよ、思い出の口裂山羊ヨツザキゴートの角っ!」


口裂山羊ヨツザキゴートの角を誇らしげに掲げるニキ…、私はそんなニキの肩をポンポンして、そっとリュックの中に角をしまった。


しゅん…っとしてしまったニキは、うつむいて私の袖を掴んできた。ちょっと気の毒だけど…流石にあの角に私の命は預けられない…。


なので諸々の素材は全部ダラさんにお任せすることにした、きっと良質な素材で素晴らしい衝棍シンフォンを作ってくれるだろう。あとは…


「それでその…お値段はおいくらになりますかね…?」


「えっとですねー、修理のお値段は[依頼料+素材]で決まりますので…全てはダラさん次第となりますね。ダラさん、何の素材使うつもりですかー?」


素材次第か…むぅ…これは難儀だな…。今後長く使う武器だから、最低でも〝指定一級〟以上の素材が望ましいが…いくらになるかな…。



 ≪指定〇級≫

生物や特定区域の危険度など、様々な階級を表す指標。指定三級~指定特級までの4段階に分かれている。



金銭面を考えないなら指定特級の素材が望ましいけど…余裕で7万リート以上はするからなぁ…。なんなら指定一級の素材でも払えるかどうか…。


「何使うかはまだ決めてねえが、依頼料込みできっかり1万リートでどうだ?」


「えっ1万リート…!? 相場詳しく分からないけど…それってめちゃくそに格安なんじゃ…。大丈夫なんすかそれ…?」


「ガッハッハッ! 構やしねえさっ! 久々に仕事をくれた礼と、この国を救いに来た英雄達への先行投資だっ! 最高の品を作り上げてやるぜっ!」


なんという気前の良さ…! 4万リートくらいは覚悟してたのに…まさか1/4で済むとは…、これは思わぬ幸運…!


さてさて皮袋さいふの中にはどれくらい…──10オルドが20枚に100オルドが8枚…そして1000オルドが4枚か…、なるほどそうか…。


「なあアクアス…、返済の目処一切立ってないんだけど…お金貸してもらえませんか…? 今ちょっと持ち合わせがなくてですね…」


「すごいニ…めっちゃへりくだってるニ…」


「お金なんていくらでも貸しますから頭上げてくださいカカ様…!」


っというわけでアクアスから8000リート借りました、主人として非常に恥ずかしいですマジで…。


せっかくちょっと前に未払いだった給料払ったのに(払ったのは国王)…、まーた借金だよこんちくしょうめ…。


「そんじゃあ早速作業に取り掛かるが…素材の選定から始めっから、まあ明日いっぱいは掛かるぜ? それでもいいか?」


「全然大丈夫ですよ、私達も少し療養したいんで」


「オッケー了解したっ! それじゃあ明後日の朝に取りに来てくれ、それまでには完璧に仕上げておくからよォ!」


ダラさんに衝棍シンフォンを預け、私達は商会ギルドを後にした。どんな出来栄えになるかは分からんが、今は信じて待つしかないな。


「それではわたくしはそろそろ城に戻ります。他に何か必要なものがあればなんでも仰ってくださいねっ! 可能な限りご用意しますのでっ!」


「ありがとうございますムネリ女王、ではお言葉に甘えてもう1ついいですか?」


私はムネリ女王にをお願いした。っと言っても今すぐ必要な物ではないので、いずれ取りに行きますと言って女王と別れた。


一番の懸念点だった衝棍シンフォンの件は片付いた、まだ色々気になる事はあるけど…そんなことよりもやるべきことがある…!


「よしオマエ等──休むぞォォォ!!!」


「 ハーーイッ!

  わーーいっ♪ 」



──第39話 ラウントース職人商会〈終〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る