第38話 神造物

「ふんふ~ん♪ ふんふっふふ~ん♪ あっ! ようやく王都が見えてきたニよっ!」


「ああ、そろそろ到着だな。アクアス、信号拳銃を頼む」


「かしこまりました」


──明昼あかひる -王都ファスロ-


シヌイ山を出発してかなり経ち、予想通り明昼前あかひるまえに王都へ到着した。以前来た時よりも、都市の復興が進んでる気がする。


まあ割とシヌイ山に滞在してた期間長かったしな…、正確にはシヌイ山じゃなくて草原にだが…おもにナップのせいで…。


都市を見ながら飛空艇を発着場に停め、私達は甲板へと出た。やんわりとした風が、心地良く頬をなでる。


「これからどうされます? 早速ムネリ女王にお会いになりますか?」


「そう…だな、腹ごしらえしたいところだけど…まずは報告するか」


飛空艇を降りた私達は、とりあえず城に向かうことに。ここからでも城が見えるが、城は以前と状態が変わっていない、今も半壊したままだ。


冷静に考えてもやっぱ危ないなアレ…、あの中にこの国のトップが居ると考えたら尚更…。なんか岩族ロゼ達に通ずるものがあるな…。


なんて考えながら道を歩いて行くと、比較的大きな通りに出た。そこでは住民達が今も民家の修繕をしており、住民達は皆活気溢れている。


全員私達の存在を知ってるのか、目が合う度に笑顔でペコッと頭を下げてくる。悪い気はしないが…妙に落ち着かない…。


無邪気なニキが羨ましいよ…嬉しそうに手を振ってやがる…。あんまり目立ちたくもないので…足早に城へと向かった。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




-フリンデール城-


「おっ居た居た、グヌマさーん! チッスチッス!」


「カカ様…! 距離感間違えていますよ…!」


大通りを抜けて城に到着、その後しばしグヌマさんを捜索してなんとか見つけた。けどガッツリ距離感間違えたなぁ…、なんか気が緩んでる気がする…。


どうしよう「無礼だっ!」っとか言われて投獄されたら…、シャレになんねえなそれ…。怒られそうだったら速攻謝ろ…。


「むっ? おおっ、帰ってきていたか。無事…ではなさそうだが…、シヌイ山に石版はあったか? 何か収穫はあったか?」


特に気にしてる様子はなかったので、そっと胸をなで下ろし…何事もなかったかのようにシヌイ山での事をざっと説明した。


シヌイ山で起きていた異変、招かれざる敵の存在、そして魔物との激闘と…その後の結末までを全部だ。


「そんな事があったのか…、フムフム…なるほど…。ちっ…ちょっと整理してもいいか…? 短い報告の中にスルーできない内容が複数あって…頭が回らん…」


グヌマさんは額に手を当てて難しい顔をしている…。脳が情報を処理しきるまでもう少しかかりそうかな…? 無理もないが…。


3人で名も知らない指遊びをしながら待っていると、ようやくグヌマさんはその口を開いた。負けそうだったから丁度良き。


「ひとまずシヌイ山に巣食う魔物は消えて…シヌイ山全体は平和になったで良いんだな…? そこは安心したが…気になるのは〝敵〟の存在だな…」


「どこに潜伏してるのかは知りませんけど…魔物を手懐けるんだ~っとか言ってたっすよアイツ等。頭お花畑な連中っすよきっと」


あんなハイスペックキモキモお化けを手懐けるとか…、実際に戦った私からすれば絶っっっ対無理…!! 万に一つもない…!!


衝撃波放つわ…超再生するわ…死んだら跡形もなく消えるわ…、明らかにこの世の生物とは一線を画してる…。到底同じ土俵で生きていない存在だ…。


いっそ一回獣賊団アイツ等に石版渡して、そんで魔物相手に全滅させてみるのも良い策かもな…。そうすりゃ獣賊団アイツ等と戦わず済むしね…?


「今のところ民に被害は出ていないが…我々も警戒も強めるとしよう、情報感謝する。それでこれからどうするのだ…? 女王様にお会いになられるか…?」


「うーん…正直ここには報告しに来ただけですし、後はグヌマさんから伝えてくれたらいいですよ。私達は石版を戻しに石碑へ向かいます」


「石碑…! そうか…分かった…。ならば俺も行こう、丁度伝えておきたい事があるのだ。オイ…! 誰か居ないか…?!」


グヌマさんは若い兵を呼び付け、ムネリ女王への言伝を持たせた。若い兵はムネリ女王のもとへ向かい、グヌマさんは私達と共に石碑へと向かう。


城を出て王都を後にし、森の中を歩き始めて少し経った頃…グヌマさんは真剣な表情でゆっくりと口を開いた。


「昨日の中宵頃…警備していた2人の兵士から、石碑が謎の光を発し…その光が空の彼方に消えたとの報告が入った…。オマエ達が魔物を倒したのは…?」


「昨日ですね…倒したのは昼過ぎぐらいでしたけど…」


石碑から謎の光…しかも空の彼方にか…、まーた分からないことが1つ増えた…。もう頭パンパンだよぉ…。


魔物を倒す度にそうなるのか…、それとも倒されたことがきっかけで何かが作動したのか…。今更だけどあの石碑も相当普通じゃねえよな…。


「学者達が石碑の調査をしてはいるが…きっと進展はないだろう…。学者の中には…あの石碑は〝神造物しんぞうぶつ〟だと考える者も居てな…、俺もそう考えている…」



 ≪神造物しんぞうぶつ

遥か古にから存在しているとされ、現代の技術を以ってしても造ることが叶わない建造物や造形物の総称。



神造物か…、そう決定づけると何でもありになってしまうが…こればっかりは私も同意見だな…。封印とか言う抽象的な力も…そう考えれば飲み込める…。


だがそれは同時に…現代を生きる私達には、解明がほぼ不可能であることを意味する…。未知を未知のまま…全て受け入れるしかない…。


魔物の消滅と石碑の発光には何かしら関係があるとは思うが…、その解明にはあと数百年はかかるだろうし、もう考えるのやめよ…。


思考を放棄したタイミングで、私達は石碑に到着した。グヌマさんが言っていた通り、石碑周りには学者が数人集まっていた。


「全員少し離れてくれっ! これから石版を元に戻すが、その際何が起きるか分からんっ! 皆十分に距離を取ってくれっ!」


そう呼び掛けると、学者達はそそくさと石碑から離れた。私もグヌマさんに石版を託して、2人と一緒に石碑から離れた。


緊張の一瞬…、もし石版を元に戻した瞬間に爆発でもしたらと…嫌な展開を考えてしまう…。心臓がドクドクッしている…。


「よし…はめるぞ…!!」


“──ガコンッ…”


低い音が聞こえ、私は身構えた…。だが特に何かが起きるわけでもなく、鳥のさえずりが辺りに広がるだけ。


大丈夫そうなので…慎重にグヌマさんのもとへ向かう。遠目で見た通り…特に異常はなし、2人を手招きで呼び寄せる。


「何も起こらないな…、パズルのピースをただはめただけの様な…」


「対応してる魔物を倒したからですかね…? いやまあ確信はありませんが…」


特に異変がないと判ると、学者達はまた石碑周りを調査し始めた。それ程までに何も変わんない…なんか拍子抜けだな…。


「グヌマさん、ちょっと周りも見て回りましょう。アクアスも手伝ってくれ…! ニキは…分かるな…?」


「ニ…? ああっなるほどニ、 お任せニ~!」


周りを見たって何も見つからないのは分かっている、これはニキの為の必要労力。ニキが能力チカラを使っている姿を見られない為の措置。


次の石版はどこにあるかな…、シヌイ山にもう1つあったりしないかな…? あれば楽なんだけど…──うんっ?


何気なく空を見上げると、何かがこっちに向かって来ているような…。なんか見覚えあるぞ…あのキラキラ…。


「助っ人様方ー! お戻りになられてとても嬉しいです…! 石版を取り戻してしかも魔物を倒すなんて…なんてお礼を言ってい──キャア…?!」


「ムネリ女王ー!? 大丈夫ですかー?!」


空から降りてきたムネリ女王は…着地の瞬間に足を滑らせて大転倒…。相変わらず地面苦手な人だな…、おっかないわなんか…。


「女王様…!? 何故ここに居られるので…?!」


「あっ! 見つけましたよグヌマ…! 助っ人様方の生還だというのに…若い兵に言伝任せてわたくしを除け者にするなんて…! どういう了見ですか…!」


「いやそれはカカ殿が…」


私とアクアスは揃ってそっぽを向いた…。ヤッベー…想像以上にムネリ女王が私達に会いたがってたァ…!


グヌマさんが若い兵に言伝任せたおかげで矛先が向いてないけど…、これ普通にグヌマさんが言伝を任されてたら…私達が問い詰められていた可能性アリ…。


あんまり会うつもりなかったってことは…墓まで持って行こう…。


「後でお説教ですからね…! まったく…お見苦しいところをすみません…、ご無事でなによりです助っ人様方…! お話は兵から聞いております…! 本当に本当に…なんとお礼を言えばいいか…」


「ああいえ…私達は元々その為にここへ来たわけですし…、すべきことをしたまでなので礼には及びませんよ…。なのであの…頭上げてくださいお願いします…」


涙を流して頭を下げるムネリ女王を必死に慰める…。どうでもいいけど目上の人を慰めるのって変に緊張しない…? 私めっちゃ苦手…。


ここは慰め上手なアクアスに任せて、私は半歩退く…。流石は私のメイド…一国の女王を相手に怖じ気ず完璧に慰めてやがる…。どんどん泣き止んでく…。


「うぅ…失礼しました…。ですが何かお礼をさせてください…! 施されてばかりでは…わたくしの気が済みません…! 羽が枯れてしまいます…!」


「羽がァ…!?」


それはマズい…、なにがマズいって…私達が女王の羽を枯らした原因になるから…。激昂した民から袋叩きにされそう…。


考えろ…何かお礼を考えろ私…! でないと死ぬぞ…! ええっ死んじゃうの…!? お礼orDead…!? お礼受ける立場が危機に立たされることってあんの…!?


止まらない冷や汗を拭う暇もなく…私はお礼を考える…。時々アクアスのほっぺをムニムニしながら考える…。そして浮かぶ天啓…! もはやこれしかない…!


「あの実は…先の戦いで私の武器が壊れてしまいまして…。修理を考えてるんですが…どうでしょうか…?」


「大丈夫ですっ! 王都には立派な〝職人商会ローウギルド〟がありますので、わたくしがご案内致しますね」



 ≪職人商会ローウギルド

鍛冶師や大工などが所属している商会ギルド。武器・防具の製作や建築などの仕事をこなし、日々裏方で人々の生活を支える存在。



私の衝棍シンフォン結構ボロボロにされちゃってたから…最悪買い替えも検討してたけど、職人商会ローウギルドがあるならその点は問題ないかな。


幸い震重石は無事だし、柄だけ新調してもらえばそんなにお金も掛かんないだろうしね。まあもしもの時はアクアスから借りて…かな…。


「お言葉ですが…女王様自ら案内されるのですか…? 女王様の命令とあらば…私奴が案内をしても構いませんが…」


そうグヌマさんが発すると、ムネリ女王は反射的にムッ…!とした表情を浮かべて、グヌマさんに顔を向けた。


「またわたくしを除け者にするつもりですね…?! そうはいきませんよ…! 案内はわたくしがやりますので、グヌマは城でお留守番してなさい…!」


「うっ…しかし…、はい…仰せのままに…」


「それでは参りましょう! 王都が誇る職人商会ローウギルドへ案内しますね!」


ムネリ女王に流されるまま…さらっと合流したニキを連れて王都に引き返す。一足先に空を飛んで王都へ戻るグヌマさんの…落ち込んだ後ろ姿を見ながら…。








「えーっと、確かこの道沿いに…あっ! ありましたありましたっ! あれが王都一の職人達が集う商会ギルド──〝ラウントース職人商会ローウギルド〟ですっ!」


「おおー…なんと言うか…心配ですね…」


目の前に広がる商会ギルドの外観は、一部壁が崩れていたり…所々亀裂が入っていたりと…、倒壊に対する恐怖を掻き立てられる…。


外観がボロっちいのは仕方ないにしても…、なんだか不安だ…。本当に私の衝棍シンフォン直るかな…、歪な形になったりしないだろうか…。


不安と恐怖につい足を止めてしまったが…ムネリ女王は構わず扉の前でこっちに手を振っている。むぅ…行かねばならぬか…。


扉を開けてに中に入ったムネリ女王の後に続き、私達も中に入った。内部なかは薄暗く…穴の空いた天井から光が差し込んでいる…。


「…ややっ! ようこそいらっしゃいましたー! こちらは絶賛倒壊寸前のラウントース職人商会ローウギルドですっ! ご用件はなんでしょうかー?」


弾けるような声と共に奥から出てきたのは、ピチピチな若い受付嬢。黒髪のショートヘアに耳の上辺りから伸びた触角が特徴的。なんの蟲人なんだろうか?


「ウフフッ、今日もお元気そうですね〝ムーミエ〟さん」


「やややっ…!? 誰かと思えば…まさかまさかの女王様ァ…!? うわーい女王様だァ~♪ 今日も綺麗な羽ですねー、お触りさせてくださーい♪」

< 受付嬢 〝蟲人族ビクト〟 Mumille Khorムーミエ・コリレスiles >


なんかハチャメチャに陽気だな…。しかも臆さずムネリ女王の羽ベッタベタ触ってるよ…、怖いもの知らずかな…? ひやひやするね…。


ムネリ女王は笑顔で触らせてあげてるけど…心広いなぁマジで…。これ場合によっては投獄よ…? 若気の至りじゃ済まされないよ…?


「ムーミエさん、今日は依頼をしにここへ来たんです。こちらの方の武器が壊れてしまったらしくて、修理を頼みたいのですが」


「修理ですかー? うーん…一度その武器を見せてもらえますか…?」


「えっ…ああ…、どうぞ…」


バラバラの衝棍シンフォンが入った紙袋を渡すと、受付嬢は柄の残骸を手に取って断面などを注視している。


やがて確認を終えた受付嬢は、手に取った物を全て紙袋に戻すと…手を前で組んで神妙な面持ちを浮かべた…。


「申し訳ありません…、こちらは…」


「えェ…!? 直せないのォ…!!?」



──第38話 神造物〈終〉

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