第17話 到着・出発・そして出会い

-シヌイ山 山中-


「ニー…しんどいニー…」


「ハァ…ハァ…、もうちょっとの筈…だよな…?」


「うん、もうじき見えてくるよ。さあほら皆元気だしてっ! ワンツーワンツー!」


石版の落下場所を知るナップと出会えた私達は…、ようやく元居たシヌイ山へと着き、ユフラ村への帰路を辿っていた。


砦跡からシヌイ山までは1日とちょっと…、では何故私は〝ようやく〟と言ったのか…。それはナップと出会ったあの日から…既に3日経っているから…。


ナップが呼んでるんじゃないかと疑う程…動物と魔獣が襲ってきた…。それらと戦い…時に逃走し…、グネグネと進んでる間に3日経った…。ほんとクソ…。


しかもナップ全然戦えねェ…、ちょっと攻撃したらすぐ逃げる…。ヒット&アウェイアウェイアウェイ…。


結局私達3人はこれまでの戦い疲れに登山で疲労困憊…、対してナップコイツは山育ちだからか…やたら体力がありやがる…。


テンションの差は見るも明らか…、殴りたい気持ちを抑えて…一歩ずつ山を登っていく。──ニキ…ステイッ、ステイッ…。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




-ユフラ村-


「うおぉぉぉぉ…ふくらはぎパンッパン…」


わたくしはお尻の筋肉がヤバいです…」


「ニキもニ…、お尻割れて穴まで空いたニ…」

「元からだそれは…」


村の入り口で崩れ落ちた私達…、もう一歩も動きたくない…。私達頑張ったよね…? 登山前に1回戦ってんだよ…? 肉食獣の群れと…。


気合いで体を起こすも…上に岩が乗っかってるかの様に重だるい…。この後石版を探しに…もっと山の上の方まで行かないとなのに…。


「君等大丈夫…? なんか体力回復に役立ちそうな食い物でも持ってくるよ」


「ごめんけどそうしてもらえる…? できれば軽いのでお願い…」


道を駆けて行くナップの背中をボーッと見つめたまま…深呼吸をして心臓の鼓動を落ち着かせる…。まるで耳鳴りのようにドクドクと鼓動が聞こえる…。


アクアスもゆっくり体を起こして、私と同じように深呼吸…。ニキはまだ横になったまま動かない…っというより動けないっぽい…。


私ももう動きたくない…、なにか動きたくなるきっかけでもない限り…。


「──あ~! お外のお姉ちゃん帰ってきた~!」


「わーー♡ そうだよ~帰ってきたよ~♡ おいでおいで~♡」


「カカ様…」


癒し成分摂取完了、ふぅ…とりあえず今日は頑張れそうだ。あとはナップから食べ物を貰って体力をつければ、昼過ぎには登れるだろう。


問題はそこから…、砦跡でナップは言っていた…石版は〝厄介な場所〟に墜ちたと…。その厄介ってのが何を指すのか…登る前に聞いておかないとな…。


そう考えながら子供達の頭をなでなでしていると、こっちに向かってくる人影が2つ見えた。1人はナップで、もう1人は知らない女性。


2人は手にざるを持っており、上にはパンや干し肉や新鮮な生野菜などが盛られている。子供達もはしゃぎだす、可愛い♡


「お待たせお待たせ、いっぱいあるから沢山食べてね」


「〝食べてね〟じゃないでしょ…! アンタを助けてくれた恩人達なんだから、〝食べてください〟でしょうが…! このアホ恩知らず…!」


厳しい言葉でナップを責め立てる青髪の女性は、ナップに強めの蹴りを入れ、私達の前にざるを置いた。


「本当に申し訳ありません…私の〝弟〟がご迷惑をお掛けしたようで…。ほんのお礼ですが…皆さんで食べてください…。本っっ当に申し訳ありませんでした…!」

< パン職人 〝蟲人族ビクト〟 Nalrah Heraiナルラ・ヘレスth >


「ああっお姉さまでしたか…!? いやいやそんな…頭上げてください…! ナッp…いや弟さんの件は、私達にしても用があってのことですから…!」


ナップと違って…なんて礼儀正しい蟲人ひとなんだ…。こんな姉の背中を見といて…何故ナップアイツはああなったんだ…。不思議だ…。


ひとまず頭を上げてもらい、ご厚意に甘えて野菜を1つ手に取った。ついでにパンも1つ取り、ニキの口にねじ込んだ。


私が取った野菜は〝スニルル〟──ぷっくりまん丸な緑の果肉と、表面に浮き出た黄色いイボが特徴的な野菜。みずみずしくてほんのり甘い。


アクアスも野菜を手に取り、必死になって頬張ってた。お腹が空いてたのか、今後に向けて全力で体力回復に努めているのか、小動物みたいに頬張っている。


「ねえねえナップのお姉ちゃん、ぼくたちも食べていい~?」


「うんいいよ、いっぱいお食べ」


子供達は干し肉に手を伸ばし、美味しそうに干し肉を食べだした。スニルルを勧めてみたが、野菜は嫌いなのかいらないと拒否。嫌いならしょうがないか。


「姉ちゃん、俺も食っていい?」


「アンタは後でいくらでも食べられるでしょ…! それより恩人の方々に飲み物持って来なさい…! ほら今すぐ…!!」


「へいィ…!」


完全に尻に敷かれているナップに…若干の哀れみを抱きながら、私達は黙々と食材を胃に詰めていった──。








「ごちそうさまでした」


「大変美味しかったです」


「元気いっぱいニ!」


豊富なタンパク質とビタミンを摂取できたことで、私達の体は急速に体力を回復した。これなら問題なく登っていける。


あとは筋肉痛が襲ってくる前に事を済ませられるかだな…。サッと行ってパッと石版回収して、サササッと帰ってきたいものだ…。


「さてさて、それで? これから早速例の場所に向かう? 今から登るってなると…到着は入相頃いりあいごろになるかもだけど、向かう?」


「…だって残り半日をここで過ごすのもなぁ…。昼前から出発して到着入相だろ…? 半日かかるんなら…野宿覚悟で向かうのが最善かなって…」


本音としてはゆっくり休みたいけど…ユフラ村の村民に迷惑かけたくないし…、想像以上に草原で時間をかけ過ぎている…。


当初の予定なら…もうとっくに1つ目の石版は回収できてる筈だったんだけどな…。ことごとくナップの野郎め…。


「あの…1つよろしいですかカカ様…? 草原では仕方ありませんでしたが…山なら飛空艇で向かえるのではないですか…?」


「──…あっそっか、完全に失念してたわ、飛空技師だったな私」

「そこまで忘れてたのニ…!?」


草原では凶暴な動物・魔獣に飛空艇を襲われるリスクがあったけど、山ならそれっぽい場所に隠しておけるしな。良かった…気付けて…。


飛空艇ならすぐに目的地まで行けるし、もしかしたら日が暮れる前に石版を回収して帰って来れるかも?


っとなればじっとはしてられない…! 私はナップのお姉さまにお礼を言い、しこたま暴力を振るわれた気合いを入れられたナップを借りて村を出た。


隆起した大地を登り、久し振りに飛空艇へと戻ってきた。ほんの数日だけだったけど、なんだか懐かしくてほくほくする。


「おおっすっげェ…! 俺飛空艇に乗るの初めてなんだよね…! これが飛空艇か…ワクワクしてきた…! 姉ちゃんに殴られた甲斐があったわ…!」


「へぇ、オマエ初めてなのか。じゃあ初回料金でいいよ?」


「金取んの…!? 一応協力関係だよね俺達…!?」


4割冗談で場を和ませ、私達は飛空艇へと乗り込んだ。初めての興奮であちこち動き回るナップを拳で制止し、アクアスに見張らせる。


飛空艇を離陸させ、とりあえず山の上の方に向けて飛空艇を飛ばした。


「さて、そんじゃ石版が墜ちた場所を教えてもらおうか。オマエが言うには…〝厄介〟な場所なんだろ? 何が厄介なんだ?」


「墜ちた場所が魔獣の巣なんだよ。〝コレクトヤツザキグモ〟って言う魔獣で、巣の周辺に落ちてる物を巣に持って帰る習性があるんだ」


「うげっ…クモか…」


ヤツザキ…ヤツザキねぇ…、どーせ裂けるのは自分の口なんだろうな…。なんだってこう…この山の魔獣は口が裂けるんだ…。


嫌だななんか…、まあ私には最悪アクアスが居るから…まあいいか…。それに相手がクモなら…遠くから狙撃で一発だろ…、私の出る幕はないな。


「そのクモの巣って分かり易い場所にあるのニ?」


「場所自体はまあまあ分かり易いけど、巣自体は洞窟の奥にあるから、バレないように潜入しないとかな」


前言撤回不可避…、狙撃の為には洞窟に入らないとならない…。洞窟はキケン…皆がアブナイ…私キケンワカル…──行かないとダメか…。


…嫌いなんだよなぁ…虫…。人ベースな蟲人族ビクトなら大丈夫なんだけど…、ガッツリ虫はキツいんだよなぁ…。虫ベースな蟲族セグもキツい…。


早速どんよりとした憂鬱な気分…、何が悲しくて自分から虫の巣に飛び込まにゃいかんのだ…。空で怪物に襲われるより嫌だ…。


「はぁ~あ…──うおっ…?! なんだ…!? なんか下から飛んできたぞ…!?」


「あれは…石ニ…!? なんで石が飛んでくるのニ…!?」


山をはっきり見る為、飛空艇は雲より下を飛行しており、山の斜面から大体218ヤード(約200メートル)程しか離れていなかった。


だがしかし…石がこの高さまで浮き上がるのは明らか異常…。しかも私達の進行を妨げる様に、飛空艇の前方に一定間隔で岩が浮き上がっている。


[カカ様…! 地面より何か…動く岩の様なものが確認できまして、その岩?2人?が投石器を用いて岩を打ち上げております…!]


いつの間にか甲板に出ていたアクアスの声が、鉄の筒から伝って操縦室に響く。3割程しか理解できなかったが…、投石器となれば知性生種の仕業だろうか…?


今も絶えず握りこぶし大の石は打ち上がっているが…1つ分かることは、〝当てる気がない〟ということ。もし当てるつもりなら〝音〟が聞こえる筈だ。


私は一旦飛空艇を止め、アクアスの指示のもと、停められそうな場所に飛空艇を下した。飛んで間もないというのに…、ため息が出る…。


ひとまず飛空艇を降り、アクアスが見たという動く岩?の場所まで行ってみる。投石器を扱う動く岩…ね…。きっとあの〝種族〟だろうけど…、目的はなんだ…?


「えっと…確かこの辺りだったかと記憶致しましたが…」


案内された場所には、投石器と積まれた石が見受けられ、確かに今までここに何者かが居た痕跡が残されていた。


ニキは岩を持ち上げて何かいないか確認しているが…流石にそんな虫じゃねえんだから…。もしかしたらまだ近くに隠れてて…──んっ…?


目についたのは、道の端に横並びで地面に転がる2つの16インチ(40cm)程の岩。それだけなら別に違和感はないが…、前に置かれた2本の槍が凄い違和感…。


気になった私が近付こうとすると、4歩のところでピクッと動き、もう一歩近付くと小刻みに揺れ始めた。


追い打ちをかけるようにもう一歩進むと、カタカタッと大きく揺れ動いて、槍と一緒に道の真ん中まで跳んだ。


道を塞ぐように槍をクロスさせた2つの岩は、手足らしき細長い石と、瞳孔と虹彩のない黒いまん丸な目をしていた。


「ゴロ達に気付くとは…オマエ只者じゃないゴロね…! 誰かは知らぬが…この先には一歩も通さんゴロッ…!」


「そうゴロッ…! 大人しく引き返せゴロッ…!」


道を守る兵士の様な口調で威嚇してくる2人?の岩。──言っちゃ悪いけど…全然怖くない…! むしろ可愛い…! 一頭身な見た目にあの黒目、可愛い…♡


「おおっ~! 君達は〝岩族ロゼ〟ニね? 珍しいニ!」



 ≪岩族ロゼ

見た目・質感・硬度が岩と酷似している知性生種。あくまで岩と酷似しているだけの為、傷付けば血も出て骨折もする。



「そうゴロッ…! 分かったらさっさと引き返せゴロッ…! 無理やりここを通ろうって言うんなら…悪口言うゴロよ…!」


ヤバい…反撃も可愛い…、槍使わないんだ…可愛すぎ。でもかなり必死で止めようとしているのは伝わってくる…、何かあったのかな…?


投石器まで用意してるあたり…昨日今日の出来事じゃなさそうだ…。


「ちょっと待て待て…! オマエ等〝ルーク〟と〝メラニ〟だろ…?! こんな所で何してんだよ…!?」


「あっナップだっ! また来たんゴロね! ヤッホーゴロッ!」

< 見張り兵 〝岩族ロゼ〟 Roupue Hictaルーク・ヒクタスssu >


「ヤッホーゴロッ!」

< 見張り兵 〝岩族ロゼ〟 Meilani Luluメラニ・ルルーユウyw >


ナップが居ると分かった途端、2人の岩族ロゼは槍を下して笑顔になった。そういやナップは一度来たことがあるんだったなそういや。


だがナップの口振り的に、こうして通行止めをしているのは知らなかったらしい。…となればこうなったのは、ナップが草原に足を運んだ後なのだろうか…?


「いやヤッホーじゃなくてさ…説明をくれよ…。なんで…? この前来た時は普通に通してくれたじゃん…」


「それがちょっと事情が変わって…通せなくなったゴロ…。っと言うかこの前の時でさえ…本当は通していい状況じゃなかったんゴロ…」


んー…いまいち話が見えてこないな…、一大事ってことは伝わってくるが…。


「何があったのニ? 詳しく教えてちょーだいニ」


「「 変な語尾の奴が居るゴロッ…?! 」」


「オマエ等に言われたかないニッ!!」


まあ気持ちは分かる…確かにニキの語尾は変…。岩族ロゼは岩だから「ゴロッ」なのはまあ理解できるけど…「ニッ」何…!?


名前から取ったのか…? それとも自然発生したのか…? この魔物騒動が片付く前に解決させよう…、気になってきたわ「ニッ」。


「詳しく説明したいけど、その前にゴロ達の集落に案内するゴロッ! 正直言うとゴロ達も事の重大さをよく分かってないゴロッ!」


「だから一度酋長しゅうちょうに会わせるゴロッ! ついて来てゴロッ!」


槍を持ってずんずん進んでいく2人の岩族ロゼの後を追い、訳も分からぬまま…私達はただ道を歩いて行く…。



──第17話 到着・出発・そして出会い〈終〉

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