第11話 目指す場所

「 “震打しんうち” …!!」


「 “メェェェェェェ…?!!” 」


シヌイ山に到着し、集落があると思しき場所に降り立った私達。だがそこでこの地に生息している魔獣〝ヨツザキゴート〟に見つかり、現在戦闘中である。


新たに増えた5匹の内、私とアクアスがそれぞれ1匹ずつ倒した為残り3匹。今の私の攻撃でもう1匹倒れて残り2匹──これならなんとかなりそうだ。


“──キーン…!!”


背後からまた〝音〟がする。ゴートが私に襲い掛かろうとしているのだろう。衝棍シンフォンを回して勢いをつけながら、バッと振り返った。


こっちに向かってくるゴートとの距離…大体20フィート(6メートル)──ってヤベェ…! 近過ぎる…!


“バキュン…ッ!!”


「 “メェェェ…?!” 」


カウンターを狙いで嚙みつかれるのを覚悟したが、直前で轟く銃声と共にゴートの体が力なく崩れ落ちた。


「カカ様…! お怪我はございませんか…?!」


「ああ…! ナイスアシストだ…! ──アクアス…! 後ろきてるぞ…!!」


片膝をついて銃撃をしたアクアスの背後から、残された最後のゴートが急接近している。アクアスの折畳銃スケールは連射が利かないから迎撃ができない…!


私は槍投げのように衝棍シンフォンを構え、ゴート目掛けて投擲しようとするが、アクアスが射線上にいて上手く当たるか分からない…。


万が一アクアスに当たれば大怪我する可能性は大…。だがゴートに嚙みつかれても結果は同じ…、どうすればいい…?!


悩んでいる間にも…ゴートはアクアスを喰らおうと全力で地面を駆ける…。アクアスに当たらないことを願って…私は握る手に力を込めた──。


「危ないニー!! “纏哭てんこく” !!」


「 “メェ…!?” 」


突如右から飛び出してきたニキの渾身の右拳を受け、ゴートの体は思いっ切り左の方へぶっ飛ばされた。だがまだ気は失っておらず、依然敵意がのった鋭い睨みを利かせている。


リロードを終えたアクアスが止めを刺そうと引き金を引くも、ゴートは寸前で高く跳躍し弾を躱した。


四つに裂けた口を大きく開け、放物線を描きながらアクアスとニキの方に落下していく。だがこの距離ならアクアスでなくても当てられる…!!


「 “華天かてん” …!!」


よく狙い澄ましてぶん投げた衝棍シンフォンは、風を切りながら落下中のゴートの胴体に直撃した。


小爆発のような衝撃に全身を包み込まれたゴートは、空中で吐血しながら勢いよく地面に転がり、白目を向いて動かなくなった。


「見事な腕前ですカカ様。 ニキ様も、助けていただいてありがとうございます」


「ニー…! 衝撃の余波がここまできたニ…! 肌がピリピリして痒いニー!!」


ニキはそう嘆いて顔を搔きむしっている。──なにはともあれ、これで一旦難を切り抜けただろうか。


誰も怪我が無くて良かった…。多少衝撃慣れしてないニキが痒みを訴えている程度、私達の完勝と言えるだろう。


「さて…そんじゃ入り口探し再開といきますか。これ以上面倒な魔獣に襲われるのは懲り懲りだしな」


「それじゃあニキは今度こそ角を剥ぎ取ってくるニ~! ニキキッ♪ 取り放題ニ~♪ これは間違いなく良い商品になるニ~♪」


ニキはいつの間に取り出したのかも分からないノコギリを手に持ち、両手を上げながら横たわるゴートへと走っていった。


「よろしいんですか…アレ…」


「アイツ割と怪力っぽいし…自力で逃げてくるくらいは出来るだろ…。それより早く入り口を見つけよう…、これ以上汗を掻きたくない…」


上機嫌で角をギコギコしているニキをこの場に残し、私とアクアスは再びサークルの周りを歩き出した。


残すは半周、もしそれで入り口が見つからなけば…上から飛空艇で内側を確認することにしよう。


そんでもし中に集落がなかったら…深いため息を吐いて去ろう…。ニキ置いて去ろう…、置き土産だ…。※鬼畜の所業


そんな若干諦めムードを漏れ出しながら歩いていくが…、やはり全然それらしきものは見えてこない…。あともう4分の1しかないというのに…。


「──ぉーぃ…おーい…! こんな所でな~にしてんだアンタ等ぁ。ってかどこから来たんだアンタ等ぁ? 見ねえ顔だべぇ」


突然私達を呼び止める声が聞こえ、声のした方に顔を向けると、帽子を被った恰幅の良いおじさんが盛り上がった土の上に立っていた。


肩には大きな網を担いでおり、中にはピチピチと跳ねる魚が詰められていた。もしかしてこの人──。


「説明すると長くなりますが…私達は王都ファスロから来ました。貴方はもしかして…この壁の向こうの…」


「そうだべそうだべ。オラはそこの〝ユフラ村〟の住民だべさ」


ユフラ村って言うのか…、良かった…無駄足にならなくて…。これでシヌイ山の置き土産にニキを置いてかないで済む…。


「こんな危なっかしい場所にお客さんなんて久々だなぁ! こんな所で立ち話もなんだし、オラ達の村に案内するだよ!」


「助かります、私達もちょうど入り口を探していたので」


おじさんがこっちに来るまでの間に、私は腰につけているポーチから青の〝光烈玉こうれつだま〟を1つ取り出した。


指先から第二関節部程度の大きさをした小さな玉は、ざらついた表面と伸びた導火線からなるシンプルな見た目。


あとはこの導火線の先をざらついた表面で擦って火をつけたら…あとは思いっ切り空に投げるだけ…!


高く昇った光烈玉は最高地点で破裂し、綺麗な青い光を散らした。特に何も言ってはいないが、ニキなら意図を察してくれるだろう。


「なんだべ今の光…!? アンタ等まさか魔術師さんかい…?!」


「ああいやいや…! 実はもう1人私の仲間がいまして…ソイツを呼ぶ為の道具にすぎませんよ…! ご心配なく…!」


魔術師ときたか…、光烈玉って結構知られた道具の筈なんだが…。まあこんな閉鎖された山の中じゃ…知らなくても不思議じゃないが…。


「ほんじゃ案内するでな、ちゃんとついて来るだよ」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「着いただよ! ここがユフラ村の入り口だべ!」


「へぇ、ここが…──いや近っか…?! こんな所にあったのかよ…!」


わたくし達…ガッツリ逆方向に進んでいたのですね…」


そこは入り口探しのスタート地点のすぐそば。私達はサークルを右に進んだが…入り口は左側に進んですぐの場所だった。


なんて運のない…、幸中こうちゅうの災いってやつ…? んな言葉ねえよ…。


「カカー! アクアスー! 入り口見つかったのニーって…えっここだったのニ…!? めちゃめちゃ運ないニねニキ達…!」


ニキもめちゃくちゃショック受けてんなぁ…、まあ無理もないが…。


「しかしオマエ…そんな経ってないのによくそんな採ってこれたな…」


ニキは両手に何本もの角を抱えていた。数的にコレ…あそこにいたゴート共の角全部採っちゃいないか…? ノコギリであっても角切り落とすのは難しい筈だが…。


前にアクアスも一度やってたが…その時もかなりの時間を要していた。


「最初は丁寧にギコギコしてたニけど、途中で面倒くさくなっちゃって…結局全部へし折ってきたニ♪ ニヘヘッ♪」


へし折ったって…、見た目に寄らずなんちゅう怪力…。遥かにそっちの方が難しいだろうに…、ほんと何者なんだよコイツ…。


ニキはリュックを降ろして、抱えていた角を全部リュックに詰め込みだした。…しかしわざわざ半身リュックに突っ込む必要あるのか…?


「その紫ちゃんがお嬢さん達の仲間かぁ! ほんじゃ全員揃ったことだし、早速村の中さ行くべ行くべ!」


「紫ちゃ…──まあいいニ…。行くべ行くべニー♪」


ニキはバカでかいリュックを背負ってウキウキでおじさんについて行った。アクアスと顔を見合わせ、私達も後に続いた──。








-ユフラ村-


巨大な2つの岩が絶妙なバランスで寄りかかってできた入り口。人一人なんとか入れる狭さの隙間を進むと、ようやく村が姿を現した。


階段状の大地の上に建てられた家々に、かかしの立てられた畑、奥の方には空から視認できた煙も見える。


家の数的に…村に住んでいる住民はそこまで多くなさそうだ。落下した石版を見ている蟲人ひとはいるだろうか…。


「さあさ、どうぞこちらだべ! こっちさオラの家があんだ! 寄ってけろ!」


「えっ…あー…じゃあお邪魔します…」


本当は聞き込みだけしてすぐに発ちたいのだが…、ここまで案内してもらった恩もあるし、少しだけお邪魔することにする。


おじさんの後に続いて道を進んでいくと、遠くからこちらを物珍しそうに見つめる子供達の姿があった。額から生えた小さな触角…、ここの住民も蟲人族ビクトのようだ。


「そういや自己紹介がまだだっただなっ! オラはこのユフラ村の村長をやっとる〝マット〟って言うだ! よろしぐなっ!」

<農民 〝蟲人族ビクト〟 Mate Jilukiマット・ジルキィy >


マットさんは被っていた帽子を取って挨拶をすると、押さえつけられていた触角がぴょこんと立った。アホ毛みたいだ…。


道なりに進んでいくと、やがて一番奥の家に辿り着いた。豪邸…とは言えないまでも、この村では一番大きい。


「婆さっ! 今帰っただっ! 今日は珍しくお客さんも来てるだよっ!」


ドアを開けて中に入っていくマットさんに続いて、私達も家の中に失礼した。生活感があって温もりのある内装…、私の家より綺麗かも…。


「あらっお客さんなんて珍しいわねェ、それも人族ヒホなんて何年振りかしらね~? 爺さ、お菓子出してあげて」


「分かっとるよぉ! オマエさん達は適当に座っとってくれ」


「あっほんとお気遣いなさらず…! そこまで長居しませんので…」


椅子に通された私達は、3人横並びで腰を掛けた。マットさんと奥様もお菓子とお茶を持って対面に座ったので、ようやく本題に入れる。


私は一口お茶を飲んで呼吸を整え、ここまで来た経緯を話した。勿論私達が超能疾患クァーツであることを伏せてだ。


「石版がこの山に…なるほどねぇ。王都ファスロで起こった事件のことは耳にしていたけれど…、貴方達も大変ねぇ…」


「お気遣いありがとうございます。そこで尋ねたいんですが、落下してきた石版を見てはいませんか? もしくは見た人物を知りませんか?」


聞いてみたが…2人は見ていないと答え、何か心当たりがないか首を傾げて思い出そうとしてくれている。


ここで有力な情報が手に入らないと行き詰ってしまう…。私は首を傾げる2人を見つめながら唾を飲んだ…。


「──そういえば爺さ、この前が何か言ってなかったかしら? ほらっ、流れ星がどうこうって…」


「おおっそうだそうだ! 〝ナップ〟って探検家がこの村さ居るんだけど、ソイツが前に流れ星を見たって言ってたべ! もしかしたら流れ星それが石版かもしれねえだ!」


きた…! 有力な手掛かり…! これで実はガチの流れ星でした、なんてことは流石にない筈…。多分…信じたい…。


とにもかくにも…まずはそのナップって蟲人ひとに直接会って、話の真意を伺わなければならない。


「そのナップって蟲人ひとは今どこに居るニ? 村の中に居るニ?」


「んー…どうだべなぁ…。ナップはいつもやれ探検だ、やれ冒険だと言って村を飛び出しとるからのぉ…。今村に居るかどうか…」


んー…一気に雲行き怪しくなってきたぞ…。私も1人探検家の知り合いいるけど…、ソイツに当てはめるなら…絶対に村には居ない筈…。


10回訪ねて1回会えるかどうか…、それが私の知る探検家という生き物…。本当に家に居ないんだ本当に…! 驚くほど動きが読めないんだ探検家アイツ等は…!


だからきっと村には居ない…、今度は行き先を突き止めないとか…。中々上手く事は進まないものだな…。


「──ぼくナップお兄ちゃんの場所分かるよー!」


「わたしもー!」


突然2人の声が聞こえ、全員がバッと声の方を向いた。そこには、開いた窓からひょこっと顔を出す2人の子供が居た。


ここに来る道中にこちらを眺めていた子供達だ。気になってついて来たのだろう、無邪気で可愛いなあの子達。


「ナップお兄ちゃんはねー、えっとねー、かとらすとりであと?ってとこに行くって言ってたよー! ほんとだよー!」


「そっかー、教えてくれてありがとね君達ー♡ もっと詳しく聞いてもいいかな? ほらこっちにおいで、お菓子あるよ♡」


「「 わーい♪ 」」


「おぉ…カカのデレデレ初めて見たニ…。意外と子供が好きなんニね…」


ドアを開けて入ってきた子供達をなでなでし、膝の上に座らせてお菓子をあげる。ドーヴァを出発して初の癒し、ごちそうさまでした。


「それでその…かとらす──なんちゃらと言うのはどこですか?」


「〝カトラス砦跡〟っつってな、シヌイ山を降りた先の〝グラードラ草原〟の東側にある古い砦跡だべ。まさかそんなとこまで行っとるとは…」


マットさんの言い方的に…ここから相当離れた位置にあるのだろう…。しかも場所草原かよ…、せめてシヌイ山の中であってほしかった…。


これだから探検家って奴は…、もう少し近くを探検すればいいのに…なんだってわざわざ遠い場所を好むんだ…。渡り鳥か…?


「ねえねえ君達、ナップお兄ちゃんが砦跡に行ったのがいつの頃か覚えてるかな? 覚えてたらお姉ちゃんに教えてくれない?」


「いーよー! えっとねー、さんにちまえだったよー!」


「そっかー、三日前さんにちまえかー♡ ありがとねー、よしよしいい子だ♡」


「カカ様…」


三日前に出てって未だに帰ってきてないのか…。それだけ距離があるってことなのか…それとも道中何かあったか…。


もし怪我で動けなくなっているのなら…、時間が進むにつれて肉食性の生き物に殺されるリスクが大きくなる…。


いずれにせよ私達も早く向かった方が良さそうだな。石版集めの為にも…ここで情報源失うわけにはいかない…!


「行こう…カトラス砦跡…!」


「行きましょう…!」

「行くニー!」



──第11話 目指す場所〈終〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る