第53話 〜再び聴く歌姫の歌〜

 ベルドーに街に早く向かう為にクロエの背中に再び乗ることとなった。

 俺は高所恐怖症だし,一度飛行機事故で死んでる事でより高い所が苦手だった。


 「おおおお,降ろしてくれ〜〜!」

 「カナデ我慢するのじゃ!」


 「ウッヒョ〜〜楽しい,気持ちいいぜ」

 相変わらずロイは楽しそうにしている。


 俺は騒いでいないと意識を保てない。

 「そろそろボルドーに着くのじゃ!」

 

 やっとスピードと高度が落ちていく。

 何やら下から大勢の人間が騒いでいる声がする。


 ドスンッッッッ!!

 やっと着地したようだった。


 フラフラになりながら辺りを見渡すと俺達は沢山の兵士に囲まれていた。


 「もしかしてカナデか!?!?」

 声の方を見るとミケラルドだった。

 どうやらミケラルドが住む城の中庭に乗り込んだようだった。


 「ミケラルドのおっさん!」

 ロイが大きな声で答えて手を振った。


 「皆武器を下ろせ! 私の知り合いだ!」

 ミケラルドが俺達の元へ来て挨拶を交わす。


 「お久しぶりですミケラルド様」

 「まさか空からしかも黒竜が来るとは思わなかったぞ。世界が終わったかと思ったぞ」


 ミケラルドは大口を開けて笑っていた。


 「それで急にどうしたんだ??」

 「約束通り様々な楽器を届けに来たんですよ」


 「おおおお! 本当か? とりあえず中へ入ろう」

 中へ案内され部屋に入る。以前よりも更に訳のわからないガラクタが増えていた。


 「実に楽しみにしていたんだよ。いくら探してもカナデが持っていた楽器を見つける事が出来なかったんだ」


 「この世界ではまだまだ未知のものだと思いますからね。クロエ出してもらえるか?」

 クロエに頼みダマールが作ったあらゆる楽器を部屋に出した。



 「おおおおおおお! 素晴らしい! これを私にくれるのか?」

 「勿論です。でも大切にしてくださいね。数は少ないんですから」

 「とても貴重なのは私にも分かる。本当にありがとう」

 ミケラルドが紳士的に俺達に頭を下げる。


 「これから店に行くんだが皆も付いてくるかね? 以前よりも進化したショーを是非見てもらいたい」


 「ほう! それは楽しみじゃの。勿論料理も進化しておるのじゃろう?」


 「勿論ですとも。デザートもです」

 「お言葉に甘えて俺達も一緒に行きます」


 馬車に乗り込み動き出す。


 「カナデ,あちき達は何処へ向かってるの?」

 ずっとポケットに居たミミが出てきた。


 「これはこれは! 妖精ですか? 初めて見ました」

 「妖精のミミって言います。俺達と一緒に旅をしている仲間です。俺達はこれから領主のミケラルド様が運営する店に行くんだ。そこでは料理を食べながらショーを観る事が出来る面白い店なんだ」


 「へぇ〜そうなのね。美味しい食事なら大歓迎だわ!」

 「妖精の口に合うのか分からないがね」

 「ミケラルド様大丈夫ですよ。こいつ何でも食べますから」


 「カナデ今あちきの事馬鹿にしたでしょ?」

 「してない! してない!」

 

 「店に着いたみたいだ。では行きましょうか」

 馬車を降りて店の中へと入る。店内は特に以前とは変わってないようだった。


 「ここの席に座って下さい」

 ショーが最も見えやすい席に俺達は座った。


 「なんか前よりも人気がありますね」

 「ええお陰様でね! 今では店に入ることも難しい程人気になってるよ」

 食事が運ばれてきて,同時にショーも始まった。


 以前よりも遥かにパワーアップした店に俺は驚いた。ショーもそうだが,食事に関しては創作料理のような物が多く出てきて美味しかった。


 「カナデ,ここの料理美味しいわね」

 「前来たときよりも美味しくなってるよ」

 「#$%@#$$$」


 楽しく食事をしていると,店の明かりが消え壇上にだけライトが照らされる。

 出てきたのはララだった。大歓声と拍手で迎えられララが歌い出した。


 ララの歌声は,垢抜けた少女の声で洗練され,自信と経験がララの歌声をさらに魅力的にし,以前の時とは比べ物にならない程素晴らしい歌声になっていた。


 今までのショーは全て前座に変えてしまうほどの歌声が会場を包んだ。

 歌い終わると大歓声だった。


 「ララはどうです? 凄いでしょ?」

 「凄いですよ本当に。彼女がもし地球に……いや! ララは俺よりも才能がある逸材ですから大事して下さい」


 店の全てが終わり,俺達はララに会いに行った。

 バックステージに向かいララの姿を見えたので声をかける。


 「ララ!? ララ久しぶりだな!」

 振り返ってこっちに気付いたララが近づいてきた。


 「カナデさん? カナデさん達だ! 久しぶりです!」

 こっちに来て嬉しそうにしている。


 そこには以前のようなオドオドしたララはいなかった。汚い服ではなく綺麗なドレスに身を纏い,首と耳には装飾品が,髪は綺麗に纏められ化粧までしていた。歌姫と呼ぶに相応しい風貌だった。香水も付けているのだろういい香りがした。


 「ステージ見てたよ凄い良かったよ!」

 「見ててくれたんですか? ありがとうございます! この後はカナデさん達はどうしてるんですか? 暇ですか?」


 「まあ暇だよ! 特に何かあるわけじゃないよ」

 「なら家に来ませんか?」


 「じゃあ行こうかな」

 「良かったです。なら行きましょう」

 ララと一緒に店を出て,ララの家へと向かう。


 店から出て街の中央通りの方へと向かっていく。途中にある建物の前でララは止まる。

 「どうぞこちらに! 今はここで暮らしてるんです」

 

 以前住んでいたスラムのあばら家ではなく,いい場所に住み始めたようだ。

 外から上がる階段で二階へと上がり,奥の扉に向かう。


 扉を開けると,中からミリーとエリーが飛び出してきた。

 「「おかえり」」

 二人はララに飛びつく。


 中へ入るとキッチンでハルトが何やら料理を作っていた。

 「ララ姉おかえり! 今すぐご飯――げっ!! なんでお前達がいるんだよ」


 「ハルト久しぶりだな! 元気そうで何より」

 「カナデあのガキ生意気ね」


 「ハルトみんなに何か飲み物だしてあげて?」

 「しょうがないなー」

 ハルトは怠そうにして俺達に飲み物を出してくれた。


 「ほらよ!」

 「ありがとう」


 ララは戸棚からボトルを取り出した。

 「クロエさんお酒好きでしょ? 一緒に飲みませんか?」

 「なんじゃ! 酒があるのか。ララお主飲めるか? じゃあ一緒に飲もうか」

 グラスにお酒を注ぐ。


 「「カンパーイ!」」

 「ララ酒飲むのか??」


 「ミケラルドさんが飲めるようになっておけと! 貴族のパーティーに最近は呼ばれたりする事もあってたしなみとしてお酒ぐらいはと」

 「そうなのか……」


 ハルトがテーブルに食事を並べ食べ始める。

 明らかに生活水準が変わって良くなってるのが目に見えて分かる。ハルトもミリーもエリーも幸せそうで楽しそうだった。


 だけれども……。


 お酒が弱いのか少し飲んだだけでララはテブールに突っつっぷして寝てしまった。

 ハルトがララを寝室に運んでいく。


 「ハルト! ララは最近どうなんだ?」

 「最近? 忙しそうにしているよ。色んな所で歌ってるみたいだよ」


 「そうなのか……俺達は帰るよ」

 「「ええ〜帰っちゃうの?」」


 「ミリーとエリーまた来るよ」

 俺達はララの家を出てミケラルドの城へ戻った。


 執事の人達に部屋を案内され,ベッドに横になり眠りに着いた。

 朝日が昇る前に目が覚めた俺はクロエを起こす。

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