第52話 〜待ち望んだ音の粒〜

 妖精の里を出てから俺達は様々な街に立ち寄った。人が行き交う商業都市,海が近い街,山奥にある村,異世界にある世界と人に触れながら俺は自分の音楽性を昇華していった。


 気付けば長いと思っていた三ヶ月が経っていた。


 「なあなあカナデ! 今度はどうするんだ?」

 「そろそろドワーフの国へ戻ろう。きっとダマール達が楽器を完成している頃だよ」


 「ほう,もうそんなに月日が経ったのか?」

 「そうだよ。じゃあ戻ろうか」

 俺達はドワーフの国へと戻る事に。


 国へ戻るとさっそくダマールの鍛冶屋に向かった。

 「久しぶりだなカナデ達,待ってたぜ! とうとう完成したぜ!」


 ドアを開けた場所の部屋の壁に立て掛け,沢山並べられている楽器達。

 壮観そうかんな眺めだった。


 チェロ,コントラバス,ヴァイオリン,ヴィオラ,ピアノ,トランペットからクラリネット,オーボエ,ファゴット,フルートに打楽器,ホルン,トロンボーン,チューバ。


 オーケストラで演奏するのにも十分な楽器達が揃った。

 俺は驚きと感動していた。


 「すっげ〜〜! カナデこれ全部楽器なのかよ」

 「そうだぜロイ。これが全部楽器なんだぜ」


 「正直大変な仕事だったよ。今まで一番苦労した仕事だったよ」

 「ダマール楽器に触ってみても?」

 「ああ勿論だ」


 全ての楽器の良し悪しは分からない。だが,一つ一つ音を鳴らしてみる。

 「ハハハ! すげー!」

 「どうだ? 満足してくれたか?」


 「ああ! 最高だよダマール! 本当に凄い鍛冶師だったんだな!」

 「なんだそれは! 疑ってたのか?」

 「疑ってた訳じゃないが,そもそも作るのが難しいからな。見るまで楽器を作れるなんて正直思ってもいなかったからさ」


 「まあいいさ! カナデが満足してくれたようで何よりだ」


 「大満足だよ。同じようにまた楽器を作ってくれって頼んだらもう一度作れるのか?」

 「作れるが,沢山作れるわけじゃないぞ。世界樹の材料が無限にある訳じゃないからな」


 「分かってる。もし追加で頼みたい時,その時はダマール頼んだ」

 「おう! 任せろ」


 ロイとクロエ,ミミは楽器をジロジロと興味津々に見て触っていた。

 「カナデ! オイラでも出来る楽器ってないのか?」


 ロイでも出来る楽器……すぐに楽器が演奏出来るわけではない。がしかし――。

 「これがいいんじゃないか? ロイはこれが向いていると俺は思う」

 トランペットをロイに手渡した。


 楽器に性格なんてものは必要ない。だけれども傾向みたいなものはあるんだ。

 元気で活発でうるさい奴,特に運動神経が良い奴,そういう人がトランペットには向いていると俺は思っている。


 「これはどういう楽器なんだ??」

 「ここに口を付けて吹いて音を出すんだ! ロイ吹いてみな」


 「分かったやってみるよ」

 「ブッーーーーーーーーーーー」

 人生で初めて鳴らしたロイのトランペットの音は,ロイの性格に似て活き活きとして元気な音色だった。


 ロイを見ると目を輝かした少年がそこには居た。

 「おおおお! すっげーーー!」

 「ブッブー。プップー」


 「すっげーー気持ちいい! オイラ、こいつの事が気に入ったぞカナデ! オイラこいつをもらってもいいか?」


 「こいつじゃない。トランペットって楽器だ。ロイが持ってていいぞ。トランペットに自分だけの名前を付けたっていいんだぞ」


 「ありがとうカナデ!」

 ロイはトランペットを余程気に入ったのか,ずっと吹いていた。


 「なんじゃロイにだけ! 余にも何かないのか!?」

 「クロエにか?」


 正直クロエの馬鹿力を普段から見てるから渡した次の瞬間には壊されたりするんじゃないか? という予感があるから繊細な楽器を持たせたくないというのが正直な感想だ。

 

 「クロエは黒竜だからな、特別だぞ?」

 俺がクロエに渡したのは指揮棒だった。


 「これはなんじゃ!? ただの棒切れじゃぞ」

 「ただの棒切れじゃない、魔法の棒切れなんだよ。こいつを振ると俺達はクロエに従って演奏しなきゃならないんだ。演奏者じゃないがこの棒を振っている人が一番偉いんだ。どうだ? 黒竜クロエにぴったりじゃないか?」


 「なるほどな! 一番偉いのか? それは余に相応しい地位じゃの! 悪くない」

 「そうだろ!? その大切な役はクロエしかいないだろ!?」


 「カナデ、それって本当の事なの? クロエに嘘言ってるんじゃないの!?」

 「ミミか。いや、本当の事だよ! 本当にあの棒を持っている人が一番偉いんだ。まあ勿論本当なら音楽を一番知っていないと駄目なんだが、大丈夫それはなんとかなるから」


 「そうなんだねぇ。カナデあちきには?」

 「ん~流石に妖精のサイズで出来る事ってのはないかな……ごめんだけど。もしかしたら楽器を作るうちに妖精に合う楽器を発見するかもしれないから、その時までお預けだな」


 「ちぇ! あちきだけつまんないのー!」


 「それでカナデ、お前さん達は今後どうするんだ?」


 「まずはこの楽器の全てをベルドーって街の領主ミケラルドに届けようと思う! あの人に渡せばきっと俺より音楽をより広めてくれると思うんだ」

 「なに!? ミケラルドにあげるのか?? 勿体ないのじゃ!」


 「俺が持ってても全て演奏出来る訳じゃないし,こんな人数を仲間にするってか? 無理だろ。あれだけ芸術や音楽が好きなミケラルドに渡した方が楽器もきっと喜ぶ」


 「カナデがそうしたいのなら仕方ないの……」


 「まあ好きにしたらいい! だけど今後の旅はちょっと気をつけた方がいい」

 「何かあるのか?」


 「最近帝国からの武器の受注が物凄く多くなっていてな。帝国の動きも何やらきな臭い。あの国は今後戦争でもおっぱじめようとしてるんじゃないか? と思っててな」


 「そうなのか……物騒だな」

 「ああ,旅するにしても気をつけた方がいい。帝国の近くは特に気をつけた方が良い」

 「分かった,ありがとうダマール」


 本当にそんな大規模の戦争になるのだろうか?


 戦争になったら俺達はどうすれば良いのだろう?

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