第51話 〜妖精の女王〜

 朝を迎え再び俺達は里へと向かう。

 俺はふとした疑問をサラン侯爵に訊いてみた。


 「サラン侯爵は妖精の里に何故向かう事が出来たんですか? ミミが言っていたんですが,普通の人間だったらまず見つける事もましてや里に到着することさえ出来ないと」


 サラン侯爵は首から下げているペンダントを俺達に見せる。


 私のおじいさんが子供の頃,妖精を助けた事があるそうで,その時に妖精から渡されたペンダントらしく,妖精の里に行く時に必ず役に立つ。そしてこれが無ければ妖精の里を見つける事さえ出来ないという事を妖精から言われたそうなんです。


 父上も嘘だとずっと思っていたそうなんですが,今回の本当にこのペンダントのおかげで,妖精の里を見つける事ができ,さらには到着する事が出来たんです。


 「あなたのおじいさんは心が清い人だったのね。ただ妖精の寿命は短く,サランのおじいさんと妖精との間にあった出来事を知っている妖精がいないでしょうね。だから追い出されたのかもしれないわ。でも私は人間の中ではあなたを信頼出来ると思うわ」

 

 里である場所に到着する。すると昨日と同じくゴーレムが現れ俺達を排除しようとしてきた。


 「ちょっとちょっと! いきなり何なのよ! 少し位話を聞いてくれてもいいじゃない」

 ミミが必死に訴えかける。


 「「人間邪魔,人間邪魔」」

 「あんた達じゃなくて女王様と話させてよ!!」


 「「女王様忙しい,忙しい」」

 すると奥から一際大きい妖精が現れた。


 「ミミ久しぶりだね! 外の世界はどうだい?」

 「女王様お久しぶりです」

 あのミミが丁寧な言葉で頭を下げている。


 「最近里が騒がしいと思ったらまさか人間が出入りしているとは思わなかったわ」

 「女王様に一度でいいんでお話を聞いてもらえたらと」


 「何故?」

 「妖精族の存続にも関わる大事な話が人間からあるそうで……」

 

 「存続? そのような事が? 妖精である私達が?」

 「こちらの王国の貴族が話だけでも聞いてほしいと……」


 「おい!!」

 女王様がそう言うと,俺とロイとクロエ,サラン侯爵の騎士達の地面から石造りの牢が出てきて俺達は捕らえれた。


 「ミミとその人間の貴族とやらだけ私の所に来い。もし何か少しでも不審な事だあれば,捕まえている人間を即刻始末する」


 「……わかりました。カナデ達ちょっと待ってて」

 ミミとサラン侯爵は,共に丘の上の中央に生えている大きな木に向かっていった。


 俺達は他の妖精に見張りをされながら牢の中で待つことしか出来なくなった。

 「あ〜また牢屋に捕まっちまったなオイラ達。よく捕まるな〜」

 

 ロイは仰向けになった。

 「とりあえずミミとサランを信じて待つしかないの〜」

 クロエも同じように仰向けになって寝始めた。


 少しすると,気付くとロイも寝息を立てて牢屋で眠っていた。

 よくこんな状況で寝てられるな〜と思ったが,何だか俺もつられて眠くなってきた。


 ウトウトして俺は意識を失った。






 「おいカナデ! おいってば!」

 俺の事を呼ぶ声で俺は起きると,辺りを見渡すとすっかり夜に変わっていた。


 「あんた達よく牢なんかでそんなぐっすり寝れるわね!」

 ミミは俺と思っていたおんなじ感想を言った。


 「おいロイ起きろ! もう夜だぞ。クロエも起きろ!」

 「え〜なに?」

 ロイは目を擦りながら起き上がってきた。


 「それで? どうなったの?」

 「全く緊張感がないわね」


 「カナデ様達とミミ様のおかげでなんとか無事に話し合いを行う事が出来ました。結果的に妖精族と同盟を結ぶ事が出来ました」

 「本当ですか? よく同盟を結べましたね」

 「正直私も無理かなって思ってましたが……まあそんな事より皆さんを出してもらえるそうです。しかも歓迎会までしてもらえるそうですよ」


 「ほう! 宴を開いてくれるのか?」

 「もしかしてとうとう妖精飯にありつけるのか!?」


 「まあ詳しい話はここから出て食事しながらにしましょう」

 石造りの牢が崩れ,俺達は牢から出ることが出来た。


 女王様が現れ,持っている杖を掲げると地面から石で出来たテーブルと椅子が出現する。

 「お好きな所に座って下さい」


 座ると妖精達が俺達の前に次々に花を持ってくる。テーブルには沢山の花が並べられた。

 「どうぞ召し上がって下さい!」


 女王様がそう言ったが,俺は何を言っているのか理解出来なかった。

 周りを見渡しても理解している人間はいないようだ。


 「あちき達妖精族は,花の蜜を主食としてるのよ! そして目の前にあるのは,あちき達にとってはご馳走なのよ。人間にとっては分からないけどね」

 ミミの発言でようやく理解する事が出来たが,そうは言ってもだ……。


 「いただきます」

 サラン侯爵が率先して花の蜜を吸い始めた。

 周りの騎士達もサラン侯爵に習う。


 俺達も真似をして花の蜜を吸ってみた。

 「甘い……」

 子供の頃公園で花の蜜を吸ったことがあるが,それよりも遥かに上品な味はした。

 

 だがしかし……。


 「美味しいけど量が少ないなぁ〜。これが妖精飯か……」

 ロイは残念そうな顔をした。


 「女王様ありがとうございます! せっかくですから人間の食事をしてみてはいかがでしょうか? 我々で用意しますので」

 「ほう! 人間の食事か。興味があるな」

 「ではすぐに用意します」


 サラン侯爵一行がすぐに食事の用意を始め,新たに次々と食事が並べられた。

 今度こそ本当に美味しそうな食事が並ぶ。


 「これが人間の食事か?」

 「左様でございます。どうぞ召し上がって下さい」

 食べ始め,反応を見ると,妖精の皆も人間の食事を楽しんでるようだった。


 「ところでサラン侯爵,なんで急に同盟をあっさり結ぶ事が出来たんですか?」

 「これのおかげです」

 サラン侯爵がペンダントを見せた。


 話を聞くと,このペンダントが二つで一つのペンダントなようでお互いを引き合ってるのだという。そしてもう一つの片割れは,妖精族の族長の証として代々受け継がれているのだという。


 昔からという訳ではなく,妖精族がここの土地を見つけ安全な土地に変え,安定した生活を手に入れた凄い女王様が居たという。その女王様が持っていたペンダントがこれだったのだという。

 過去に人間に助けられ,いつかきっとその人間が妖精の里に来るかもしれない。

 来たら歓迎して欲しいという事を伝えられているのだという。


 今までそんな事もなかったし,人間との関わり合いがない妖精族はそんな話はないものだと今日の今まで思っていたのだという。しかし本当にその人間が現れた事によって女王様は人間の手助けをする事にしたという。


 「私達の母とも呼べる女王を助けた人間の子孫という事であれば,私達も最大限の敬意と手助けする事を誓ったのだ」


 「良かったですねサラン侯爵」

 「ええ,本当に良かったです。今回の目的を果たす事が出来ました。私のおじいさんのおかげです。国に帰ったら墓参りにでも行こうかと思っています」


 「それでミミよ! その世界はどうだ? 里には戻って来ないのか?」

 「あちきはこのままカナデの旅に同行しようと思っています」


 「ほう? 人間の旅にか? どんな旅をしておるのだ?」

 「音楽の旅です。音楽を楽しみ,広める旅をしています」


 「音楽? よく分からないが……」

 「せっくじゃ! カナデ皆に聴かせてみたらどうじゃ?」


 「そうだな! せっかくだし演奏するか! 是非皆さん楽しんで下さい」

 クロエにピアノを出してもらい,ライムと共に演奏をする。俺はヴァイオリンを奏で始める。


 「♫〜♫♪♪♫〜♫♪♪〜♪♪♪♪♫〜♪♪♫♫」

 「―――――――――――――――♫〜♫♫♪〜」

 ヴィエニャフスキ作曲『華麗なるポロネーズ第一番』


 子供が飛び跳ねるような軽やかさと楽しさ,途中から大人の雰囲気に,最後には畳み掛けて弾け飛ぶような楽曲。

 綺麗な花びらと妖精が飛び交うこんな場所にぴったりだと思い選曲した一曲だ。


 今日のき日とこれからの佳き日に込めて!


 弾き終えると妖精たちが宙に沢山舞っていてキラキラしていて綺麗だった。

 「カナデ様,素晴らしい音楽ですね」

 「驚いたぞ。これが音楽というものなのか」


 「俺達は,この音楽を世界に出来たら広めたいと考えています。その為に世界のあちこちに旅をして音楽を奏で演奏し,素晴らしさと楽しさを伝える旅をしています」

 「なるほど! ミミは楽しそうな旅に,そして人間に出会ってしまったのだな」


 「女王様……そうですね。あちきは幸運だと思います」

 「カナデ,ミミをどうかよろしくおねがいします」

 女王様に頭を下げられた。

 

 「そんな女王様……分かりました任せて下さい」

 会話を終え,再び食事を楽しみ,楽しい一時ひとときを過ごした。


 綺麗な花畑の場所で一晩過ごし朝を迎えた。

 俺達は妖精達に森の入口まで案内してもらった。


 「案内してくれてありがとう」

 俺は感謝の言葉を述べた。


 「「人間またな,またな」」

 妖精達はたちまち消えていった。


 「カナデ様今回の事本当にありがとうございました」

 「俺は何もしてないですよ。お礼はミミに! ミミのおかげですよ。それにサラン侯爵のおじいさんのおかげでもありますよ」


 「ミミ様ありがとうございました」

 「別に良いわよ!」

 ミミは少し照れてる様だった。


 「カナデ様これを」

 渡されたのは何やら紋章の入ったバッジだった。


 「これは?」

 「私の家の紋章が入ったもので,これがあれば王宮にだって入る事が出来ます。王国を訪ねる時は必ず役に立つでしょう」

 「ありがとうございます。いつか侯爵の力を頼るかもしれませんよ?」


 「ハハハ! 勿論いいですよ。私で出来る事があれば何でも手伝いますよ。それでは私達はこれで……カナデ様またお会いしましょう」

 サラン侯爵は馬車に乗り去っていった。


 「じゃあ俺達も行くか」

 「オイラ達,次はどこに行くんだ?」


 「さあ……明日は明日の風が吹くさ」

 「まあなるようになるじゃろ」


 俺達も馬車に乗り,サラン侯爵とは反対方向の道へと進んでいった。

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