第50話 〜王国と帝国〜

 「さて,どこから話しましょうか?」

 サランさんはカップに飲み物を注ぎ,俺達に差し出してくれた。


 「皆さんは,世界にある国についてどれだけ知っていますか?」

 「……どうですかね? そんなに知らないです」


 サランさんが大きな地図をテーブルに広げた。


 「この世界の世界地図です。そしてここがエスパーダ王国,向かいにはボルダ帝国が大国として存在しています。そして端に中規模の魔国があります。この三つが主に大きな国でお互いに牽制しつつ均衡が保たれて来ました」


 「小規模のエルフやドワーフ,この森にいる妖精族,海の方にはエイレーンなどの国も存在しています。お互いに小規模の戦いや争いはあれど,このバランスが保たれて平和に過ごして来ました」

 「この均衡を破壊しようとする動きが帝国にあるという事が分かってきたんです。正直な所なんですが,帝国はそこまでの武力を有しておらず,王国からしてみると圧倒的に優勢で負ける事なんでありませんでした。ですがこの二十年で,もっというとここ十年でとんでもない力を手に入れているという情報が私の所に入ってきました」


 「私が送り込んでいた密偵が死ぬ間際に魔法で帝国の重要機密を私に送って来てくれた事で帝国が特殊な力を持っていることが分かったのです。そして我々の国と大規模の戦争を起こそうとしている事も分かりました」


 「その話を聞くと,どの世界にもありそうな話しかなと思うんですが……」


 「ええ,勿論そうです。帝国は今まで何回も我々の国と大規模の戦争を起こそうとしている事はありました。実際にそうなりかたけた事もありますが,結局王国との力の差に大きな戦争を仕掛けてきた事はありませんでした。ですが私が危機に感じたのは送り込んだ密偵が死んだからです」


 「どういう事ですか?」


 「私が送り込んが密偵は,頭はキレる,武力にも長けていて魔力量と魔法も王国随一で欠点という欠点がない程強い男を送り込んでいました。仮に密偵だと帝国にバレたとしても簡単に王国に戻って来られる程の実力を持っていると確信して言えます」


 「その男が密偵だとバレ,尚且なおかつ殺されてしまったという事実が帝国に脅威を感じたのです。あいつを逃さずに殺すほどの実力を持った何かが帝国にはあるという事実です。私は国に内緒で独自に帝国の内情を調べる事にしました」


 「それによって分かってきた事がありました。帝国は我々が想像もしていないような道具,魔法を使った魔具,新たな魔法技術などを生み出しているようなのです。新たな技術が本当に使えるものだとしたら我々王国も戦争をして負けるかもしれないと私は思えるようになったのです」


 「お主は一体……誰なんじゃ?」

 「私はエスパーダ王国で侯爵の権力を持っている貴族です」


 「カナデ,侯爵って偉いのか??」

 「いや! 俺も分からん。ある程度偉いってのは分かるけど」


 「ハッハッハ。そうですね。国王様に直接意見が言える程度には偉いでしょうか」

 「それは中々偉い人だなサランのおっさん」


 「ありがとうございます。私は自分の調査した内容を国王様に伝えました。王国は帝国との戦争の為に軍備を強化してほしい事を伝えました」


 「ですが……国王様には一切聞いてもらませんでした。正直言って当たり前です。最大の理由としては帝国との争いで王国はほとんど負けた事がありません。先々代の国王様の時に大規模の戦争を仕掛けられたそうですが,その戦争で王国の兵士は怪我はすれどほとんど死ぬ兵士は居なかったようで王国の圧勝だったといいます」


 「現在でも国の境では小競り合いがありますが,帝国に大敗したという報告を受けたことがありません。そんな相手に対して無駄にお金や人を使って軍備を強化する必要がありますでしょうか?」


 「ない……ですね」


 「そして私の調査で分かった事ではあるけれども,全ては憶測の域を出ていないという事も問題なんです。実際に危ない魔法や兵器が使われたという実例がなく,あるか分からないモノに脅威を感じてわざわざ軍備を強化出来ないと」


 「それで? サラン侯爵という地位の人が何でこんな所で俺達にそんな話しを?」


 「私が考えたのは同盟を結ぶ事なんです。それも妖精族との同盟です」

 「だからここにいると? それでどうだったんですか?」


 「あっという間に追い出されてしまいました」

 「なんであちき達,妖精族なの?」


 「我々ですら分からない妖精族の力なら,いざ戦争になった時に帝国は対処出来ないと思ったからです」


 「仮に同盟が出来たとしても,本当に妖精族の力だけで対抗出来るんですか? だってどんな力なのかはっきり分からないんですよね? 想像より弱かったらマズイのでは?」


 「カナデはあちき達,妖精の力が弱いとでも?」

 「そうは言ってない。でも知らない力だとしたら予測出来ないだろ? 戦争なのに予測出来ない力に頼るのってのはちょっと駄目なんじゃないか? って話」


 「おっしゃる通りですね。ですが……私が考えられる最悪の状況が戦いで起こった場合いま持っている武力では到底太刀打ち出来ません。魔国と手を組んでも勝てるかどうか分からないんです。妖精族の力というまだ知らない,未知の力に頼るしかないという事です」


 「ん〜さっきからオイラには分からない難しい事ばっかりだが,簡単に言うと王国はヤバいって事か??」

 「そうですね。――ヤバいって事です」


 「確かにお主の言う通り,帝国には不思議な力を持った道具があることは確かじゃの。魔力を使うのを封じてしまう道具があったのは確かじゃ」

 「普通に使われていたよな」


 「やはり……そういった道具がすでに存在してるんですね」

 「帝国はその道具を使ってエルフの魔法を封じ,捕まえ,人身売買をしていました」


 「なるほど……エルフが帝国を憎んでいるという情報がありましたが,そういった事があったんですね」


 「サラン侯爵は俺達に頼みたい事とは?」

 「そこに居る妖精に我々と妖精族の族長と話し合いの場を作ってもらえないかと……」


 「ムリムリ! あちき達だって妖精の里に行ったら追い出されたのよ? また行った所で同じことの繰り返しでどうせ追い出されるよ」


 サラン侯爵は地面に手を付き頭を下げた。


「駄目でもいいんです。お願い出来ないでしょうか?」


 「……」

 「ミミどうするんだ!?」


 「知らないわよ本当に!」

 「まあもう一度行ってみてもいいんじゃない?」


 「あちきにとってもは人間同士の争いなんてどうでもいい」


 「仮にですが王国が帝国に破れた場合、次に狙われるのはエルフや妖精族なのですよ? 帝国は全世界の統一と全世界を自分たちのものしたいと考えているようです」

 「平和だった世界が混沌の渦に巻きこれていくことになっていきます。それでもいいのでしょうか?」


 話がだんだんややこしく,大きい事になってきたな。

 そんな全世界を巻き込んだ戦争を起こそうとしているのであれば、それは大問題ではある。


 人間だとか、エルフだとか、妖精だとか、そんな事は関係ない。

 ただサラン侯爵の話だけで判断するのは間違っている。帝国側からしたら,もしかしたら戦争をしなければいけない深い理由が、戦争を起こさなければいけない事情というのがあるのかもしれない。


 どっちが正義とか悪とかは正直分からない。

 だけれど、王国が滅亡するのは俺にとっても困る。

 それは酒場ライデンがあるのは王国だからだ。


 「まあもう一度行ってみようぜ!」

 「え〜カナデ手伝うっていうの?」


 「俺達は何も出来ないと思うけど,ミミなら何となならないのか?」

 「しょうがないな〜もう。一回だけだからね!!」


 「本当にありがとうございます!」

 サラン侯爵が手を叩くと,先程の兵士達が食事を運んできた。

 テーブルいっぱいに食事が並べられた。


 「おおおおお! すげ〜! これは貴族飯だな」

 「サランよ! 酒はないのか?」


 「用意しましょう」

 外の野営とは思えないほどの豪華な食事でサラン侯爵は俺達をもてなしてくれた。


 「それじゃあ行きますか」

 サラン侯爵一行いっこうと共に,妖精族の里へと俺達は向かって行った。

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