第38話 〜懐かしい顔〜

 「それにしても,暇じゃの〜」

 「ああ,そうだな暇だな!」


 「暇なら御者代わってくれよ」

 「なら俺が代わるよロイ」


 ベルドーを出てから穏やかな旅が続いている。道中魔物などにも出くわす事もなく,日々ボルダ帝国へ向かっている。

 そんな時に――


 「ん!? なんか焦げ臭くないか!?」

 「焦げ臭いの〜」


 「あっち見て!」

 ミーナが指摘した方を見ると,煙がいくつも出ているのが見える。


 「クロエちょっと行って様子を見てきてくれないか?」

 「なんで余なんじゃ!?」


 「簡単にひょいって行って来れるじゃん!」

 「しょーがないのー」


 クロエは空を飛んで,煙が出ている場所へと向かっていく。

 俺達も馬車を走らせて,クロエが向かった方角へ向かう。


 何があるのか分からないが,クロエだったら大丈夫だろう……


 馬車を走らせて向かうと,村らしき場所が見えてきた。

 その村のあちこちの家が燃えて煙が出ている。


 「おいカナデ! もっと速く!」

 ロイが突如大きな声を出した。声に呼応するかのように馬の速度が上がる。


 村に近づくと,人間が発する怒号や悲鳴が聞こえてきた。

 到着した俺達は村に入り,クロエを探す事に。


 「クロエーーー!! どこにいるんだーーー!!」

 「ここじゃーーー!!」

 声がした方を見ると,空にクロエが浮いていた。


 「どうなってんだーーー!」

 「盗賊が村を襲ってるらしのじゃ!! とにかく撃退してからじゃ」

 なるほど,盗賊が村を襲ってるのか,状況はなんとくなく把握したが,俺は戦闘出来るわけじゃない……


 「オイラがカナデを守ってやるぜ」

 ロイは剣を構えて,俺の前に立つ。


 ミーナは弓矢を構えて,弓矢を放っている。煙が凄くで何が何やら把握出来ない。

 誰がどこにいるのか? 村人と盗賊を区別出来るかも怪しい……


 空から雨が降ってきた。クロエの魔法だろうか?? そんな事は今はどうでもいい。

 「ライム,皆に何かありそうだったら頼むぞ」

 ライムは俺の頭に乗り,ブヨブヨ動いている。


 少し視界が開けてくると,あちこちで逃げ回ってる人間と追い回す人間が見えてきた。

 ミーナが弓矢を放つと追い回す人間の脳天に一発で突き刺さる。


 クロエは空から魔法で攻撃をしている。

 二人の攻撃に目を奪われていると――


 「カナデ!!! 後ろ!!!」

 振り向くと,一人の男が剣を振りかぶって俺に向かって来た。

 俺はビビって尻もちをついた。


 ガキンッ!!

 ロイが身をていして俺を守ってくれた。

 しかし,ロイは一撃で弾き飛ばれた。男はもう一度構え直し,振りかぶってくる。


 ヤバイ! 

 男は振り下ろす前に,背中から血を吹き出して倒れた。


 尻もちをついてる俺が見上げるとそこに居たのは,なんとリングストンだった。

 「カナデ,大丈夫か?」

 「あ,ああ……なんでリングストンが?」


 手を出されて,起き上がらせてもらう。

 「久しぶりだなカナデ……。とりあえず話は後だ!」

 リングストンは次々に盗賊を相手にしていく。


 リングストンは俺とロイを背中にして,敵が来られないようにしてくれている。

 しばらくして,盗賊達が退散していく。


 俺はリングストンにお礼をする。

 「リングストン助かったよありがとう」

 「別に構わない……」

 「それで? なんでリングストンが――」

 

 「おーーーーい! リングストーーーーン」

 遠くから呼ぶ声の主はなんと,ローレンツだった。そして他の皆も一緒だった。


 「リングストン急にどうしたん……!? あれ? カナデじゃねえか!!」

 「ローレンツ久しぶり! 他の皆も」

 

 「煙の臭いの中に,カナデとクロエの匂いがしたから来てみたのだ」

 「あっれ〜久しぶりじゃ〜ん!」

 「ルイーザも皆も元気そうで」


 クロエが空から戻ってくる。

 「おお! ローレンツ達! 久しぶりじゃの」


 「なんだ!? カナデ達の知り合いなのか!?」

 ロイが少しモジモジしながら会話に入ってくる。


 「なんだ坊主? どうした?」

 「坊主じゃない! オイラはロイってんだ。おっさんこそ誰だ?」

 「俺はローレンツだよろしく」


 「そうだ。ルイーザと同じエルフと今旅している――」

 「ルイーザさん!!!!」

 ミーナが勢いよくルイーザに抱きつく。


 「あれ? ミーナじゃない!? どうしたの?」

 「色々と話したいことがあるみたいだが,とりあえずこっちが最初だな」

 ローレンツが顎をクイっとさせ,その方を見ると村人が集まってきていた。


 村長と思わしき人が先頭に立って,俺達に頭を下げた。

 「盗賊から町を救って頂いてありがとうございます! もし皆さんがいなければ私達は蹂躙されていた事でしょう。本当に感謝致します」


 俺達は村人達に感謝と歓迎され,村長の家に招待された。

 食事と今日の寝床を用意してもらった。


 「どうぞ! 召し上がって下さい」

 「じゃあ遠慮なく頂くのじゃ!」

 ローレンツ達も居てテンションが上がったのか,いつも以上にはしゃぐクロエ。

 「それで?? カナデ達はどうしてるんだ??」

 俺達が王都エスパーダを出てからの簡単な経緯をローレンツに話す。


 そして,今はボルダ帝国を目指している事,囚われたエルフを救出する為に旅している事を伝えた。


 「ルイーザはエルフが攫われている事知ってるのか?」

 「里と出てから,かなりの年月が経ってるから私は初めて聞いたわ」


 「ローレンツ達は? どうしているんだ?」

 「この辺りのエリアで盗賊に襲われるって被害が最近多いらしくてな,偵察と情報収集の依頼を請け負ったんだが,この村に来たら襲われてて今に至るって感じだ」


 「それで!? 村長はまだ俺達に何か頼みたい事があるんだろ??」

 「えっ!? どういう事?」

 俺はローレンツに訊ねた。


 「まあ聞いとけ」


 「流石は冒険者という所でしょうか。先程襲ってきた盗賊の残党を倒して来てほしいのです。きっとまたこの村に襲いに来るでしょう。今から依頼を出して冒険者などに来てもらっている間にきっと村は滅ぼされてしまうでしょう! ですから,あなた方に今お願いしたいのです」


 「俺達は冒険者だ。タダじゃ動くわけにもいかない! 村長も分かるだろ? 報酬としてどの位出すことが出来るんだ??」


 「正直言うと,三十万コルトが限界です」

 「さっき助けた分はどうなんだ??」

 「村でこれ以上出す事は出来ません……」


 「おい! ローレンツのおっさん金,金うるさいぞ」

 ロイがローレンツに食って掛かった。

 

 「ガキが黙ってろ。冒険者は慈善活動じゃねえんだ。俺達だってもしかしたら死んでたかもしれないんだぞ。村人が全滅するかもしれなかった所を助けたんだ! それ相応の報酬をもらって然るべきだ」


 ロイからしたら冷たい人間に映るかもしれないが,ローレンツの言ってる事は正しい。

 「俺達はこの依頼は受けない。カナデはどうするんだ!?」

 「……」


 「なんだよカナデ。受けないのか!? ならオイラが受けるよ!」

 「急に何言ってるんじゃロイは!」


 「オイラだって冒険者なんだホラ」

 ロイはキラリとプレートを見せた。


 「いいよ皆。オイラがやっつけてやるよ!」

 ロイは人の話を聞かず勢いよくそのまま外へと飛び出していった。

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