第37話 〜歌がもたらす魔法の力〜

 溢れんばかりの拍手を感じながら俺とララはお辞儀をし,舞台から捌ける。


 「凄かったのじゃ凄かったのじゃ!」

 「本当に素晴らしかった。私あんな歌初めて聴いた」

 「オイラ歌を聴いて震えちゃった。カナデの演奏を初めて聴いた以来の衝撃だったぜ」


 「皆さんありがとうございます……」

 ララはホッとしたのか,涙を流しながら膝から崩れ落ちた。

 少し落ち着くと,ララは立ち上がって再び感謝の言葉を述べた。


 「出来ることはやった。ララは歌いきった。後は結果を待つだけだな……」

 「……」


 確かにララのパフォーマンスは凄かったが,一位を取れるかどうかはまた別の話だ。

 俺は演奏前より演奏が終わった今の方が緊張してきた。


 全ての演目が終了し,食事も終わった所でお客達の投票が開始される。

 そして全員の投票が終わり,結果が伝えられる為,出演者全員が舞台へと集まる。


 ミケラルドが中央に訪れて言葉を発す。

 「今日は私の我儘わがままで作ったレストランに足を運んで下さり,ありがとうございます。こうやって続けられて開店記念日を迎えられたのは,ここに居る皆さんのおかげです」


 「そして舞台で様々な芸を見せてくれた皆さんの中から投票により本日の一位を発表したいと思います!!」

 

 「――歌姫のララが一位です!! おめでとう!!」

 大きな拍手が起きる。


 俺の前に居るララは微動だにしていなかった。

 「ララ! お客さんに挨拶していきな!」

 そっと背中を押してあげた。


 ララは舞台の中央に行き,お辞儀をし,拍手に応えた。

 店が終わり,ミケラルドに俺達とララは呼び出された。


 「カナデ,約束通り,ヴァイオリンを返すよ」

 俺は相棒のヴァイオリンを返してもらった。


 「ララがこんな凄い事になるのをカナデは最初から分かってたのかい?」

 「いえ全くです! 正直驚きました」


 「正直私は絶対に不可能だと思っていた。ララを厄介払い出来ると共に,ヴァイオリンを手に入れる事が出来ると思っていたが……申し訳ない。私が間違っていたらしい」


 「ララおめでとう。クビの話もこれでナシだ。私の見る目がなかったみたいだ。今日歌った君の歌に感動を覚えた! 今後もよろしく頼む」

 「いや……カナデさんが居なかったらきっと私も歌えませんでした」


 「カナデには感謝しないとだな!」


 「ミケラルド様いいですよ。それよりもこのヴァイオリンという楽器やまだ見たこともない楽器を俺は作っていこうと思ってるんです。もし成功していくつか楽器が作れたら必ずミケラルド様に届けに来ます」


 「おおおお!!! 本当か!?」

 「ええ必ず! 約束します」


 「それならその時を楽しみにしていよう。今回の事で私も学ぶべき事が沢山あった本当にありがとう。音楽と芸術の街にするのにはまだまだ私は勉強不足のようだ」


 「いえそんな事ありません。俺はミケラルド様が目指す街が楽しみです」

 「そうじゃの〜! 確かにそんな街が一つあっても面白いの」

 「お菓子も美味しいしね」


 「オイラも嫌いじゃないぞ」

 「ハッハッハ! 私もこれからもっと頑張っていこうと思う。今日の演奏を超えられるように頑張るよ。それじゃあ私はそろそろ城に戻るとするよ」


 「ミケラルド様……必ずまたお会いしましょう」

 「またなカナデ」


 「さてと……ララは? 帰るのか?」

 「ええ。皆待ってますから!」

 「俺達も行っていいか?」

 「勿論です」


 「なんじゃ!? ララの家に行くのか?」

 「家で待ってる子達にも聴かせてやりたくないか?」


 「そいつはいいの〜」

 「それじゃあ行こうか」

 ララへの家へと向かう途中でお祝いを込めて食材を買い込んでいく。


 家へ着くと,ミリーとエリーそしてハルトが待っていた。

 「ララ姉……どうだったの?」

 心配そうにハルトがララに訊ねた。


 「カナデさん達の力あって一位を取ってクビにならずに済む事になったわ」

 「ララ姉良かったじゃん」

 「「ララお姉ちゃんおめでとう」」


 「それで,何でまたお前らがいるんだ!?」

 「まあいいじゃないかハルト。お邪魔するよ」

 中に入り,ライムに頼んで食事を作ってもらう。料理が完成するまでの間に今日ララが歌った歌をミリーとエリー,そしてハルトの前で披露をする。


 歌い終わるとミリーとエリーはララに抱きつく。

 「ララお姉ちゃんすごーい!」

 「ありがとう。ハルトはどうだった?」


 「すごか……った」

 

 「いい匂いがしてきたのじゃ」

 「お! そろそろ飯にしようぜ!」

 「そうだなそうするか」

 ライムが作った料理をテーブルに並べて,今日のお祝いを兼ねて乾杯した。


 「「「「かんぱーい」」」」

 

 「カナデさん改めてありがとうございました」

 「こうやってヴァイオリンも返ってきたしいいさ」


 「それは俺が盗んだやつじゃん! 返してもらったの?」

 「返してもらったよ」

 「良かったじゃん」


 「せっかくじゃカナデ。お主のヴァイオリンを披露したらどうだ?」

 「そうよ! 弾いてみせなさいよ」

 なんだ!? ミーナも酔っ払ってるのか? 二人して俺に絡んでくる。


 「よ〜しわかった。ハルトよく聞いとけよ! お前が盗んだ楽器の演奏を聞かせてやる」

 俺は二人を振り払って立ち上がり,ヴァイオリンを構える。

 「♪♪♪♪♪♪♫♫♫♫♫♪♪♪」

 シューベルト作曲『サパテアード』


 ヴァイオリンという楽器の音の楽しさと音の素晴らしさが伝わればと思う――

 「♫〜〜〜〜」

 俺は弾き終える。


 「カナデさん,素晴らしい演奏でした」

 「いつ聴いてもカナデの音楽はワクワクさせてくれるの」


 「もしかしてカナデって凄い奴なのか?」

 ハルトが呟く。


 「凄い奴だと思うぜオイラは!」

 「音楽と酒の組み合わせは最高じゃな」

 会話が盛り上がり,食事と酒が進む。


 「ララ,俺達は明日にでもこの街を出ようと思ってる……俺達はまだ旅の途中で行かないと行けないんだ」


 「そう……なんですね」

 「ああ,今日でお別れだ……明日からは一人で舞台に立つけど大丈夫だろ? 次会った時のララの歌声を楽しみしてるよ」


 「それじゃあ俺達はそろそろ帰るよ! ララ今日は久しぶりにワクワクさせてもらったよありがとう。いい刺激になった」

 「カナデさん達皆にはお世話になりましたありがとうございます」


 「カナデもう盗られるんなよ!?」

 「「じゃーねー」」

 皆に手を振られながら俺達はララ達と別れた。


 「なんじゃ。もう街出るのか?」

 「元々こんなに居る予定でもなかったしな。ミーナそうだろ?」


 「まあそうね……予定より大幅に長居しちゃったわね」

 「でもミーナ楽しそうに街を満喫してたのオイラ見てたぞ!?」

 「それは――せっかく居るんだから別に良いじゃない」


 「ララの歌は凄かったの〜。余は長生きじゃがカナデの音楽もそうじゃが初めての体験で,まだまだ余でさえ知らない事もあるんじゃの」


 「まだ知らない音楽もいっぱいあるさ」

 「そいつは楽しみじゃの」

 

 宿屋に戻ると,俺達は街を出る準備をし,就寝する。

 明け方に俺達は馬車に乗ってベルドーの街を出た。

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