第25話 聖騎士SIDE 苦くてまずい酒


「聖騎士様、こんな場所に全員集められてどうしたというのですか?」


「うむ、大司教様から、勇者様関係の有難いお話があり、その後、ご褒美を取らせるそうだ…今暫く待つが良い」


「あの…女子供まで、集めて…」


「今回の件は女子供までもが、その対象になる…ゆえに暫く待たれよ」


「お母さん、僕たちも何か貰えるの?」


「そうみたい…なにかくれるって」


「お菓子だと良いな…凄く楽しみ」


「お母さんも解らないけど…凄く良い物らしいわ」


心が痛い…


詳しい理由までは教えて貰ってないが、この者達が『犯罪者』と判明したら皆殺しにしろ…そういう話だ。


『勇者様絡み』そう聞かされた。


そう言われてしまえば、聖騎士は相手が誰であろうと剣を振るわなくてはならない。


しかも、教皇様の勅命を持った大司教様の指揮…


最早、慈悲なんか掛けられない。


「いやぁぁ、勇者様様だな…同じ村に居るだけで大司教様や聖騎士様が来て…褒美迄貰えるなんて…」


「僕、大きくなったら聖騎士になりたいな…白銀の鎧を纏って教皇様に仕えるんだ」


「なら、鎧に触ってみるか?」


この子には未来は恐らくない。


命令が出れば、即殺さなければならない…


この子供まで犯罪に関わったとは私には思えない。


本来は触らせる事など出来ぬが…この位は良いだろう。


「いいの?」


「ああっ、構わぬよ…」


俺がそう言った途端、子供が鎧を触りだした。


周りを見ると…他の聖騎士も同じようにさせていた。


『可哀そうだ』


親たちが何をしたのか解らない。


だが、この中の何人か位は試験に受かり…私達の部下になった人間も居たのかも知れない。


狭き門だが、無いとは言えない。


聖騎士への門は身分の低い者にも開かれている。


「俺も元は村人だった…死ぬ程頑張って聖騎士になったんだ…頑張れよ」


頑張っても無駄だ。


もうじき俺が殺す…容疑が間違いであって欲しい。


そう思っているが、此処までの進軍まず間違いって事はない。


『ただ確認しているだけだ』


「本当…ぼく頑張るよ」


「そうか…頑張れよ」


この合図は見たく無かった。


離れた場所から手旗信号が送られた。


『黒』



もうやるしかない。


「悪いな少年…苦しまぬように楽に殺してやるからな…」


「えっ」


俺は少年を苦しませない様に首を跳ねた。


首を跳ねるのは慈悲なのだ。


ギロチンと同じで一瞬で苦しまずに死ねる。


身分のある者を殺すのに『首を跳ねる』のはそういう意味がある。


「たたた助けて…助けて…」


「この子だけは…この子だけは…いやぁぁぁぁーーー」


恨まないでくれ…せめて苦しまない様に首を跳ねてやる。


殺さない…それは俺には出来ない。


だからせめて楽に…


周りの他の聖騎士も同じようにしている。


俺には、そんな悪人には見えない…楽に死なせてやる。


それ位は…


『えっ』


また手旗信号が来た。


嘘だろう…


『首ではなく腹を狙え』


首を斬れば楽に死ねる。


逆に腹を斬れば…内臓が零れ落ち、地獄の様な断末魔が襲う。


暫く死ねず、地獄の様な苦しみを感じ死んでいく…


これを行うという事はこの者たちは『神敵』扱いという事か…


邪教徒という事なのか…しかも記録水晶で記録している者まで居る。


駄目だ…最後の慈悲すら掛けられない。


「楽には殺さん…地獄の苦しみのなか死んでいけ」


俺はもうタダ殺すしか出来ない。


◆◆◆


村の中は地獄絵図だった。


俺は吐かなかったが、何人もの聖騎士が吐いた。


そこら中に転がる内臓をぶちまけた死体…恨みの目でこちらを見ている気がする。


かすかに声も聞こえるが…直ぐに死ぬだろう。


処理班は、この状態の死体に確認の為に剣で刺して歩いている。


そして、何人かの首を切断して塩漬けにしている。


「撤収です」


声が掛った。


可笑しい。


他の聖騎士が手を挙げた…


「何をしたか解りませんが、せめて燃やしてあげられないのでしょうか?」


「この者達には『女神は微笑みません』」


どんな罪人にも慈悲の心を持つ女神…それが微笑まない…という事は死んでも救われない…それを意味する。


この者達は教会的には『人間として扱わない』そう言う事だ。



誰もが黙った。


「しかし…山犬やオークやゴブリンが寄ってきても面倒です…村ごと最後に燃やしましょう」


「はい」


1人の聖騎士が許可を得たので急いで火を放った。


大司教の気分が変わらないうちに…


『邪教徒』…だが邪教徒の子供が聖騎士に憧れるだろうか…


考えてはいけない…


俺は聖騎士…教会の敵を葬るのが使命なのだから…


邪教徒を殺した…良い事をしたんだ。


無理やりそう言い聞かせた。


多分、今夜の酒はきっと苦くてまずい…



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