#29 Rainbow

 レイネが描いた薔薇の絵は、僕が彼女にあげた薔薇の絵と並べて、二階の壁に飾ることにした。レイネが「くれたえといっしょに、ずっとここにかざってほしい」と言ったからだ。僕は「手放してもいいの?」と僕は言った。すると彼女は「ずっといっしょに、ここにいたいから」と笑った。

 沢山の思い出が詰まった日記みたいなこの家は、僕が旅に出た後は母さんが管理することになっている。いつかこの街に帰って来た時、この家に「ただいま」と言いたいから。

 それから一晩経った日、僕らは街外れの丘にやって来た。ここには父さんのお墓がある。隣にはリーフ爺さんもいる。

 風が僕らを包み込む。父さんが抱きしめているみたいだ。


「わかれは、つらくない」


 この丘は散歩の途中でよく来ていた場所だ。色んな人の温もりがあるから、僕はここが好きだ。


「そう。辛くないさ」


「でも、ちょっとさみしい」


「そう。ちょっと寂しい」


 それから僕らは、父さんとリーフ爺さんに最近あった事を伝えた。タウルさんと一緒に料理をした事、レイネが初めて絵を描いた事。楽しかったって気持ち。気付いたらレイネの身長がすごく伸びてた事。いっぱい伝えた。そして、「また今度ね」と笑顔で告げて、僕らは次の目的地へ歩みを進めた。


「刹那に咲く花は」


「かぜのようにきよく」


 僕らは手を繋いで、木漏れ日の街を歩いていった。


「記憶に降る雨は」


「キミのようにふかく」


 森の奥の池にやって来た。


「さくら、いろがかわってる」


「花が散ったんだよ。桜ってのは儚いもんさ」


「もうさくらのはな、みられないの?」


「君は、そうだね」


 池の水面は桃色に染まっていた。


「みんな、わたしのこと、わすれちゃうのかな」


「いつかはね。でも、僕は君の事、絶対に忘れない。忘れたくないから」


「やくそくして」


 約束の時はお互いの薬指を合わせるって、小さい頃から相場が決まっている。


「約束しよう、レイネ」


「うん」


 思えば、僕らは色んな景色を見てきた。そのどれもが輝いていた。レイネに会ってから、世界は虹色。

 レイネと出会ってから一年が経つ。

 僕は君を忘れない。

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