暴風雨ガール 29
二十九
その週の土曜日、有希子が連絡もなく突然やって来た。
私は地図や時刻表や手帳をテーブルに広げて、鹿児島へ行く準備をしていた。
三重の仕事が終われば鹿児島に行く予定だった。
「また出張?」
有希子はハンカチで汗を拭いて私の前に座った。白地に水玉模様のブラウスがよく似合っていて、正面から見ると、知り合ったころに比べてずいぶん綺麗になった気がした。
「どうしたの?私の顔をジッと見て」
有希子はコーラを二つのグラスに注いで、一つをこちらに差し出しながら言った。
「いや、知り合ったころに比べてすごく綺麗になったと思ってね」
私は正直に答えた。「フン」といった表情をして彼女はコーラを飲んだ。
「女盛りなんやから、少しは女っぽくなるわ」
「いつもいきなり来るんだな」
「急に来たら都合悪いことでもあるの?」
「そんなものあるわけないけど、いつもビックリするからね。お父さんが様子を見て来いって言うんだろ?」
「そんなんじゃなくて、あなたに会いたいと思うときもあるのよ」
私は椅子から立ち上がり、有希子をきつく抱きしめた。
「光一、それが終わったらプールへ行こうよ。スパワールドっていうのが天王寺にあって、プールも温泉も遊園地もあるらしいから」
スパワールドは地下深くから天然の温泉が沸き出ていて、「世界の大浴場」をキャッチフレーズにして人気があるのは知っていた。
「分かった。そうしよう」
この日、私は久しぶりに遊んだ。
有希子は鮮やかなグリーンの水着を持ってきていて、それがよく似合っていた。
私たちはプールやジャグジーでふざけ合い、人が見ていないところでキスをしたり、まるで青臭い若者のようにじゃれ合った。
プールから出て別々になって、ゆっくりと温泉に浸かった。
鹿児島の霧島温泉と関さんが言っていたが、真鈴の父はそんなところでいったいどんな暮らしをしているのだろうと想像してみた。
でも行ってみないことには分からないので考えるのをやめた。
真鈴には今夜知らせてやろうと思った。
スパワールドから帰って来たのが午後七時を過ぎていた。
プールではしゃぎすぎて少し疲れていたが、有希子は「エッチしよう」と言った。
断る理由もなく、私たちは久しぶりに夫婦の営みを交わした。
別居して四か月ほどになるが、これまでとは違った有希子の反応に戸惑ってしまうほどだった。
有希子は疲れも見せずに帰った。
彼女が帰ったあと、私は真鈴に「遅いけど電話してもいいかな?」とLineを飛ばした。
もう時刻は午後九時を過ぎていた。十数秒後、スマホに電話がかかってきた。
「まだ九時過ぎだよ、子供じゃないんだからいつでも電話して」
「今、何してるんだ?」
「さっきまで勉強していたの。でも終わった」
「こっちに来ないか?」
「だからぁ、嫌だって。女の子だよ」
「頑固だな、まったく。ともかく今週中に鹿児島へ行くことになったよ。おそらく明後日の夜に大阪南港からカーフェリーで向かうことになると思う」
「仕事?」
「お父さんが鹿児島にいるかも知れないんだ。だからちょっと行って来る。帰って来たらすぐにまた連絡するからね」
「分かった。車の運転に気をつけてね」
「うん、ありがとう」
「岡田さん」
「うん?」
「岡田さんのこと・・・私、好きよ」
真鈴はそう言ってからすぐに電話を切った。
私はスマホを握りしめたまま一分間ほど呆然とした。
君は何を言ってるんだ?いつも「変な人」って言うくせに、君のほうこそ猛烈に変な女子高生だ。
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