暴風雨ガール 19
十九
「君は確かに何人かの男の人とホテルに入った。部屋で何をしていたかは知らない。でももう過ぎたことじゃないか。今はそんなことしていないんだろ。まだやってるのか?」
「やっていないわ。岡田さんを捕まえてからは、やっていない」
「捕まえてからって・・・、知り合ってからって言えよ。プライドが傷つくじゃないか。
あのな、自分を粗末にするのはやめよう。何か解決方法を考えよう」
「ちっとも分かっていない」
「えっ?」
「岡田さん、全然分かっていないわ。当たり前だけど」
「どういうこと?」
「もしかして、私がホテルで彼等に売春行為をしたと思っているの?」
「えっ?」
「エッチなんかしてないよ。私は彼等に楽しく過ごす時間を売っていただけなの。そりゃあ、ときにはキスをしてあげたり胸を触らせてあげるよ。でもそれだけだよ」
真鈴の反論しているような口調に呆気に取られた。
「キスをしてあげたりって・・・そんなことはっきりと言うなよ。楽しく過ごす時間を売っていたって、わけが分からん」
真鈴の過激な言葉にショックを受けていた。
尾行の際に会った彼らとキスをする彼女を想像してみたが、情景がうまく浮かばなかった。
「いいのよ、もう」
真鈴は投げやりな口調で言った。
「ともかくお父さんの居所を捜して欲しいという希望は分かった。それはそれとして、前から不思議に思っていたことがあるんだが・・・」
「何ですか?」
近くを通った若いカップルが、私たちの様子を見て不思議そうな顔をしていた。
やっぱり、私と真鈴とはどの角度から見ても変なんだろう。
「君のご両親の親戚のことだけど」
「親戚?」
「うん、つまり君のお父さん側やお母さん側の親戚なんかが何か手助けをしてくれないのかな?状況を知っていたら、放っておかないと思うんだけど」
真鈴は私が言い終わらないうちに正面を向いたまま、「そんな人はいません!」と吐き捨てるように言った。
ピシッと耳元に音が飛んできたようだった。
「どういうことなのかな?」
「お父さんの両親は結婚する前にどちらも亡くなったって。実家は香川県の丸亀市というところで、小学生のときに二度ばかりお墓参りに行ったことがあるけど、もうそこに実家はないみたい。
お父さんの姉が一人いたようだけど、早くに病気で亡くなったらしいの。お母さんの実家は泉南の岬町というところだけど、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんもとっくに亡くなってるし、兄弟は何人かいるらしいけど、連絡もないし全然分からない」
真鈴は言葉の合間にため息をつきながら言った。
「親戚なんて、ないのと同じよ」
「そうか、事情はよく分かったから、そんなに怒るなよ」
「怒ってなんかいないよ」
真鈴は明らかに不機嫌そうな顔つきで言った。
そして、体育座りの足の間に顔を埋めてしまった。
「分かった、引き受ける。でもな、費用は要らないよ。お金の心配なんかしないで、僕に任せておけばいい」
「そんなことできない。私、何もお礼ができないのに頼めない」
「僕みたいな人間に好きにしてなんて言うなよ。何でそう投げやりになるんだ?もっと自分を大切にしろよ」
「私が何をしようと、いいじゃない」
「バカ!心配しているのに、そんな言い方ないだろ。ともかく空いている日にお父さんを捜してみるよ。時間がかかるかも知れないけど、やるだけやってみよう」
「私、それならもういい。ハンバーガーご馳走様でした」
真鈴はそう言っていきなり立ち上がった。
「何でそんなに強がるんだ。甘えろよ。素直になればいいんだ」
私はもう一度座るように手で示した。真鈴の伏せた両目から涙が流れ出ていた。
彼女の寂しさは分かる。女子高生が置かれている状況としてはあまりに厳しすぎる。
誰だって泣きたくなるだろう。まるで暴風雨の中でもがいているようなものだ。
「余計なことを考えないで任せておけよ。僕が好きでやるんだから。分かったね」
真鈴は五秒ほど考えてから大きく頷いた。
扇町公園を出てマンションへの帰り道、真鈴に対して学校へはキチンと行くことと、これからも絶対におかしな行動はしないようにと約束をした。
真鈴は「分かった」と言って、あまり元気なく部屋に消えた。
そのうしろ姿が何とも形容しがたいほど切なく思え、いつでもおいでよと誘っても「嫌だって!」と言って断るが、帰ってもずっとひとりなんだと思うと、何とかして彼女の父親を捜すんだと、自分に命令を与えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます