暴風雨ガール ⑨
九
プロ野球の消化試合のような尾行だ。
彼女が依頼人の息子と接触する可能性はもはやゼロだろう。
両親に彼女との関係を指摘され、不登校の原因を知られてしまったとあってはもう会うことはないだろう。
だが、さらに他の男性と接触する可能性はある。
ただ仮に他の男性との接触があったとしても、依頼人の目的が達せられたとあってはたいした意味はもたない。
必要な結果は出た。
依頼された残りの調査時間を消化するための尾行なのだ。
モチベーションなど上がるはずもない。
依頼人の息子は預金をつぎ込み、親からもらった書籍購入費までも貢いでいたようだ。
これは恋愛のひとつの形なのか、或いは何か他の行為があったのか?
探偵は警察ではない、尾行調査で判明した結果以外のことには一切関与しない。
息子は金を渡していたことを打ち明けたが、密室での行為については頑なに口を閉ざしているとのことだ。
仮に息子がホテルでの行為を親に白状したとしても、そのことを誰にも言えない。
事件にならない限り、決して表には浮き出てこないのだ。
翌日は日曜日、朝早くから出るはずはないだろうと踏んでいたが、念のためキッチンの窓から彼女の部屋の玄関を張り込んだ。
予測に相反して、午前七時を少し過ぎに出てきた。
慌てて尾行を開始する。
短めの髪をうしろで束ねて紺色のゴムで縛り、ジーンズに薄いピンクのシャツを引っかけ、濃紺のデイバッグを背負っていた。
部活にでも行くのだろうか?
彼女がエレベータに乗ったのを確認してから、非常階段を駆け下りる、膝がガクガクするが二段跳びで急ぐ。
休みの日くらいゆっくりすればいいのにと思いながら、彼女のジーンズを追うと、曽根崎通りから新御堂筋に出て梅新を南下、大江橋を渡って左手に大阪市役所を見て、京阪電鉄の淀屋橋駅に到着した。
いったいどこへ行くのか?
ホームに降りるとすかさず区間急行に乗り、すぐに発車、同じ車両のひとつ隣のドアから乗り込んでつり革を持って立ち、目の端で彼女の姿を確認する。
彼女はドアの近くに立ち、スマホをいじっていた。
そしてそれが終わると外の景色を眺めていた。
京橋駅で下車、三階にあるホームから二階のフロアに降りた。
昨日、男性と会ったのはJR京橋駅の改札口を出たところだった。
また今日も会うのかと思うと、私はガッカリした。
ところがエスカレータを降りて数メートル歩いたところで急に立ち止まり、うしろを振り返った。
私は知らない振りをして通り過ぎようとした。
「何でついてくるんですか?」
「えっ?ああ、よく会うね」
「白々しい、私にずっとついてきてますよね、ストーカーです!」
言葉と同時に、私の右腕は彼女に強く掴まれていた。
女子高生にしては意外に強い力だった。
その様子を周囲の人たちが足を止めて見守っている光景が視界に入った。
「駅員室へ一緒に来てください」
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