暴風雨ガール ⑧

        八


 翌日の土曜日も同様に午前七時前ごろからキッチンの窓から彼女の部屋の出入り口を張った。


 この日は一緒にエレベータには乗らず、彼女が降りていったのを確認してから非常階段を駆け下りた。


 マンションを出ると十数メートル前に彼女を確認し尾行を開始、前日と同様に登校したのを見届けてから改札口が見える喫茶店で時間をつぶした。


 だが、午後一時過ぎに十三駅改札口近くに現れた彼女は、涼しそうな表情で阪急電車に乗り、梅田駅で下車したあとJR大阪駅に入り、大阪環状線に乗り換えて京橋駅に出た。


 階段を降りて一階の女子トイレに入り、出てきたときはジーンズとグレーのパーカーに着替えていた。


 手に持っていた大きな紙袋にはおそらく制服と学生鞄が入っているのだろう。

 それを同じ階のコインロッカーに放り込んだ。


 そして改札口を出たところで待っていた若い男性と合流、依頼人の息子とは別の男性だった。


 私は愕然としてしまった。


 そんな私の狼狽を尻目に、彼女は京橋駅から京阪国道へ出て、道路を向こう側へ渡って路地を入ったところにあるホテル「ブルースカイ」に男性とともに飛び込んでしまった。


 真っ昼間から再びラブホテルに入ったことに落胆し、「本当に世の中狂ってるよ、有希子、まったく」と、離れて暮らしている妻の名前を無意識に呟いていた。


 張り込みを続けながらA社に電話を入れた。

 調査会社は土日も関係がない、社長は出社していた。


「別の男の人とホテルにね。依頼人さん、喜ぶわ。じゃあ、ホテルから出たら、念のため相手男性を尾行してくださる、あまり意味はないかも知れないけど」


 社長はまるで狂喜乱舞しているかのように嬉しそうな声だった。

 私の憤慨と落胆とは対照的で、彼女に対して腹立たしさを覚えた。


 何故腹立たしさを感じるのかは分かっている。

 偶然にも事務所オープン後、最初の仕事が同じマンションに住む女の子が関係していたからだ。


 こんな偶然は千に一、いや万に一もないだろう。驚きではなく、唖然とし、なぜか腹立たしさを覚えた。


 依頼人はおそらく息子に対し、「お前のことが心配で少し尾行を依頼した。何も言わないからもう会うのはやめなさい。彼女はお前だけじゃない。別の男とも付き合いがある」と言うだろう。


 どのような行為がホテルで繰り広げられたのか、金銭の取引はあったのか、肉体関係があって金を求められたとなると売春行為に該当する、いや、高校生の立場なのだから、もうこれは言語道断の不純異性交遊ではないのか。


 私は訳が分からなくなってきた。


 ふらつきながらも、ホテルへの路地が見える位置にあるコーヒーショップに入って張り込んだ。


 午後二時過ぎにホテル「ブルースカイ」に入った二人は、午後四時半ごろに出てきた。


 若い男とは京阪京橋駅とJR京橋駅との間にあるフリースペースで別れたので、今度は男を尾行する。


 彼女の方をチラッと見ると、一度も振り返らずにJR側の改札口の向こうに消えた。


 男を尾行すると、彼は午後五時過ぎ、近鉄奈良線八戸ノ里駅で下車し、徒歩七分程度の住宅街にある「菅原」と表札が掛けられた戸建ての家に入った。


 尾行中に男の顔を観察してみたが、顔のあちこちにまだニキビがあり、高校生と見えなくもなかった。


 調査も残り三日となった。もう結果は出ている、私はこれ以上彼女を尾行する気力がなくなってきた。

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