暴風雨ガール ⑦
七
前日の動きの結果を簡単に報告書にまとめ、A社にファックスを送った。
依頼人の息子の相手女性宅も判明し、住所も明記した。
私の事務所と同じマンションの部屋号が異なるだけだが、それにはA社のスタッフも気づかないようだった。
翌朝は午前七時開始で相手女性の尾行が指示されていた。
外で立って張り込むわけにもいかず、ちょうど私の部屋のキッチンの窓から彼女の玄関が見えるので、準備をして待った。
しかし、彼女は高校生だから家族がいるはずだが、ここに引っ越してきてから彼女以外にあの部屋から出てくる人物は見たことがなかった。
A社の内偵担当が公簿を取り寄せるなどで彼女の家族構成等の割り出しに取り掛かるだろうから、結果待ちである。
午前七時半を過ぎて彼女が出てきた。
週末の金曜日、彼女はもちろん制服姿、昨日は学校をサボったということなのだろう。
同じエレベータに乗らないと見失ってしまう可能性もあるので、やむを得ず急いでエレベーダ前に向かった。
「やあ、おはよう。よく会うね」
「おはようございます」
彼女はこちらを見ずにぶっきらぼうに言った。
「役所に用事があってね、大変なんだ」
「そうですか」
「学校も大変だね」
「いえ、それほどでも」
会話が続かない。
エレベータが一階に着いて、ふたり並んでマンションから出て、「それじゃ」と言って、私は彼女が向かう反対側方向へいったん歩いた。
それから彼女を振り返りながら二十メートルほど歩いて、再び彼女の方向へ、本日の尾行を開始した。
まさか尾行されているなどと思うはずもないのだろう、彼女は一度も振り返ることなく曽根崎通りをぶち抜いて新御堂筋を横切り、大阪駅前の陸橋を渡って阪急梅田駅方面へ向かった。
短めの黒髪が白のブラウスの襟元にかかり、紺色のベスト、同色のスカート、手には濃紺の学生鞄、どの角度から見ても男性とホテルに飛び込むような女の子には見えない。
しかも彼女は女子高生だ、世の中やっぱり狂っている。
梅田駅から電車に乗り、中津を過ぎて淀川を渡り十三駅で下車、わき目も振らずに十数分後に高校の正門から入って行った。
府下でも進学率の高い優秀な高校だ、電車の中ではときおりスマホを取り出した程度で、歩きスマホなどしない、さすがである。
さて、登校したからには少なくとも午前中は出ることはない。
駅まで戻って近くの喫茶店で本を読んで時間をつぶした。
昼前にランチを注文し、それからまたコーヒーを飲んで、午後二時近くまで粘ってから店を出た。
この間に彼女が学校から出てどこかに行ってしまったとしても構わない、もうひとつの結果は出ている。
学校の近くでずっと立っているわけにもいかず、改札口あたりが見える位置にて張り込んだ。
午後四時を少し過ぎたころに彼女が学校方面から歩いて来るのを確認、朝と逆のルートでそのままマンションへ帰宅した。
コンビニにもどこにも立ち寄らなかった。
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