暴風雨ガール ⑥
六
十二時半過ぎにスマホが鳴った。A社の社長からだった。
「動きはどうかしら?」
「入ったままですよ」
「実は、依頼人がそちらへ行きたいって言うのよ」
「いや、それはダメじゃないですか。まだこの調査は初期段階だし、今日接触のあった相手女性の家を割り出して、その次に内偵調査に進むんじゃないですか?調査はまだ四日目ですよ。残りの調査日数で相手女性の尾行も必要になってくるでしょ」
白々しいことを言っているなと、私はこころで苦笑いした。
「そうよね、分かったわ。依頼人にはそう説明する」
そう言って社長は電話を切った。
午後一時半を少し過ぎてようやくふたりがホテルから出てきた。
すでにコーヒー三杯分の代金は支払っていたので、すぐに喫茶店を出てあとを追った。
ふたりは手をしっかりつないでいた。
きっと依頼人は今頃「息子を誘惑するとんでもない女」と奥歯をキリキリさせていることだろうが、相手女性、というより女の子は、誰もが知っている有名校の女子高生だ。
ふたりは泉の広場に降りる手前で手を振って別れ、依頼人の息子はウメ地下へ降りた。
そして彼女は、彼の姿が地下に消えるとクルリと振り返り、こちらに向かって歩いてきた。
私は慌て戸惑ったが、身を隠す間もなく彼女に見つかってしまった。
「こんなところで何してるんですか?」
「いや、その・・・良い天気だね」
「今日は曇ってますよ」
「あっ、そうか、ちょっと事務用品を買いに出てきたんだ」
私の言葉が終わる前に、彼女はなぜ私がここにいるのかなど気にもしない様子で、兎我野町のマンション方向へ歩いて行った。
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