第六章:仄々①

第49話:始業式 (7/2改稿)

 第49話:始業式


 ついに夏休みが終わっちゃった……。

 今日からまた学校が始まるし、それはそれで嬉しいんだけどやっぱり寂しいな。

 たぶん今までで一番楽しい夏休みだっから、だよね。


 お祭りは駄目になっちゃったけど、代わりに神社のお祭りに行った。

 海に行ったり、お台場のダイバーシティでBBQもやった。

 お家の庭で花火もやったし、かき氷作ってスイカ食べて……本当に楽しい一ヶ月半だった。


「小山内くんおはよう」

「おはよう……ございます……委員長……」

「おはよ~正っち~」

「ミカちゃん……おはよう……」

「おはようございます、小山内君」

「おは……よ……どなた……ですか……?」

「え? 睦海ですよ? 忘れちゃいましたか?」

「睦海さん……? キレイ……」

「そそそそうかな! えへへそうかなあ!」

「睦海っち変わったね~? めちゃ良い感じじゃ~ん」

「そうね、クールビューティっていうのかしら? 素敵よ」

「ま、まあ本質は何も変わりませんから、オタク趣味はガッツリ継続しますよ」

「うん……それも……睦海さんの……魅力だよ……」

「あ、ありがとうございます……」

「ちょ、何赤くなってるしー!」

「あ、おはよ~」

「あああ赤くなんてなってないです! こっこれはその……」

「ま、いいけどー? ライバルばっかなのは今更だしー」

「やっぱり百合も良いわね」

「……一応ノーマルカプですぞ」

「デジャブですぞ白枝氏」

「猫×睦……ありだわ」

「「そっち!」」


 続々とクラスメイトが集まってきて、久しぶりの再会に話の花が咲き乱れる。

 教室内もザワザワし始めて、学校がまた始まったんだなって実感がすごく湧いてきた。

 それにしても、色んな種族が入り交じってるせいか異世界感が半端ないね、すごい。


 人族、エルフ、ドワーフ、獣人、精霊種、そして神族の僕。

 人族と獣人が多めで、もふもふ率高めでちょっと嬉しかったり。

 ……っていう感想はあんまりよくないのかな、反省反省。


「クッキーくんおはよ!」

「おはよう……ノートくん……」

「なんか学校始まったって感じがしていいよな、このザワザワした感じ」

「あ……同じこと……思ってた……」

「お、なんか嬉しいな!」


 朗らかな笑顔が眩しい。

 ノートくんの言葉が刺さったのか、周りのみんなも話に混じってきて盛り上がった。

 なんだかんだ夏休み中絡むことがなかったから、お喋りが楽しくて嬉しいな。


「おはようございます。 お喋りしたい気持ちも分かりますが、始業式始まるので移動しましょう」


 いつの間にか先生が来ていて、パンパンと手を叩いてそう言った。

 みんな緩く返事をして、ゆっくりと移動開始。

 僕もそれに混ざって、ノートくんとネコちゃんと喋りながら体育館へ向かった。



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「皆さんおはようございます。 ゴリラの獣人になった校長です。 教員時代にゴリ先生ゴリ先生と言われてきましたが、本当にゴリラになるとは夢にも思っていませんでした」

「「「はははは!」」」

「笑ってくれてありがとう、それくらいが気持ちが晴れてありがたいです。 ……さて、夏休みも終わり二学期が始まりました。 九月には体育祭、十一月には文化祭があります。 三年生は本格的に将来を考え始める時期ですが、是非行事にも力を入れて思い出を作ってもらえたら嬉しいです。 あ、勉学もがんばってくださいね、勉学も。 一番大事ですから」

「校長先生!」

「はっはっは、怒られてしまいましたね。 では最後になりますが、二学期も健康に気を付けて、元気に過ごして参りましょう」



 ----


 始業式が終わって、ゾロゾロと教室に戻っていく。

 教室でもそうだったけど、全校生徒が集まると種族の違いがすごいね。

 正直ちょっと暑苦しかったかな……もふもふ度が高いと、こういう弊害もあるのか……。

 満員電車とかすごそう、本当に、すごそう……。

 そんな事を考えながら教室に戻って、先生が来るのを喋りながら待つことにした。


 夏休み中なにしてたとか、配信見たよとか、いろんな話をした。

 一番興味深かったのは、ミカちゃんが夏休み中だけやってたバイトの話かな。

 弟くんたちの頼みで、町内会の肝試しを手伝うことになって、お化け役をやってたらしい。

 給料が良かったみたいだけど、気合を入れたメイクで子供に泣かれてショックだったとか。

 お化け役だからしょうがないけど、僕でもちょっと凹んじゃうかもしれない……。

 

「お待たせしました、終わりのホームルームを始めます。 校長先生が言っていた通り二学期は大きなイベントが二つもありますので、バタバタする日が続くかと思います。 ですが、クラス全体での貴重な思い出を作ることができるタイミングでもありますので、是非一丸となって頑張っていきましょう」

「「「はーい!」」」

「では、月曜日から通常授業が始まります。 時間割も新しいものに変更になりますので、今から配ります。 時間割は学期毎に毎回新しくなりますので、古いものと間違えないようにだけ注意してくださいね」


 そう言って持ってきていた紙の束の一つを持って、各列に配っていく。

 そっか時間割新しいのになるんだ、小中は変わらなかったからなんだか変な感じだな。


「二学期中の予定表も配ります。 体育祭と文化祭の詳しい日付や他の細々とした行事も書かれていますので、必ず目を通しておくようにしてください。 後で知らなかった、はなしですからね?」

「あたし忘れちゃうかも~」

「ミカちゃん忘れっぽいもんな、俺が覚えておいてやるからいつでも聞いてくれよな!」

「うっせ~しwww お前にだけは頼んね~よwww」

「うわっ手厳しいっしょwww」

「「「ははははwww」」」

「はいはい、後ろに回していってね」


 時間割と同じように配られて、全員の手に渡ったのを確認すると締めに入った。


「では、また二日ほど間が空いてしまいますが、月曜日も元気な姿を見せてください。 学級委員さん、号令お願いします」

「起立! 礼!」

「「「さようなら!」」」

「はい、さようなら」

「この後どっか行こうよ!」

「いいね! カラオケでも行っちゃう?」

「俺たちも混ぜてよー」

「えーどうしよう?」

「いいんじゃない? 人数多いほうが楽しいし」


 みんなカバンを持ってパラパラと帰り支度を始めていく。

 そんな中でふと周りを見渡すと、如月萌花さんが睦海さんをジッと見てるのが目に入った。

 どうしよう、なんだか嫌な予感というか、胸騒ぎがするというか……。

 その目に怒りのような、焦燥のような、言いしれない何かを感じてしょうがなかった。



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 私は小さい頃から可愛い可愛いとちやほやされてきた。

 それは高校に入ってからも変わらず、オタクくんたちだけだけどちやほやされてきた。

 でもそれは、彼が登校するようになった前日までの話……。

 正直私も可愛いと思ったし、人気になるのは当然で必然でごく自然なことだと納得できた。

 それ自体もとても不思議な感覚だったし、全くもって嫌な気持ちは湧いてこなかった。

 まあそれでも、ちょっとは『悔しい』と思わなかったわけではないんだけどね。


 でもあの子は違う。

 あの子は同じであってはならない。

 何故って、全然綺麗じゃないし、可愛くもないし、お化粧頼りの偽物だから。

 あんな子がちやほやされて良いわけがない、それは許されちゃいけない。

 だって、何もしなくても可愛い私は他の女子からそんな風に扱われてこなかったから。

 オタクくん以外の男子にそんな風に扱われてこなかったから。

 そう、私は今嫉妬に狂ってしまいそうで、自分を抑えるのに必死なのだから……。


「睦海さん……また……月曜日……」

「ええ、またね」


 私だって小山内くんと仲良くしたい。

 また明日ねって言われたい。

 私ができてないことを、あの綺麗でも可愛くもない子ができてるなんて……。

 そんなの……そんなの許せない!


「竹井さん! ちやほやされて浮かれてんじゃないわよ!」

「「えっ……」」


 ……え? ……は? ……あっ……言っちゃった!

 どうしよう、言うつもりなんてなかったのに!

 様子なんか見てないで早く帰ればよかった……どうしよう、小山内くんに嫌われちゃう!

 私は気付いたら走って教室から逃げ出していた。

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