第48話:夏の終点・後
第48話:夏の終点・後
「おはようございます。 アポイントもなく訪問してしまい申し訳ありません」
「はあ……今日は何のご用でしょうか?」
「本日は、小山内正優様宛にお手紙をお持ち致しました」
「どなたから……?」
「
「そっ! ……お上がりください」
「お邪魔致します」
ちさ子は飛び出てきた名前に尻込みしたが、なんとか立て直して夕実を家に上げた。
夕実が昨日とは違う緊張感を漂わせているのも原因の一つだったのかもしれない。
二人がリビングに入ると、不快感を隠さない優香からの睨みが飛んだ。
「はあ……ごめんなさいね」
「いえ……」
「正ちゃんに手紙を持って来たんですって」
「僕に……?」
「はい、こちらです」
綺麗な白い便箋に丁寧な文字で『小山内正優様』と書かれている。
そして、裏面には小さく『花守折昌』の文字が。
正優は名前を見ても首を傾げるだけで、どんな立場の人からなのか理解していない様子。
チラリと夕実を見るとコクリと頷かれ、よく分からないながらも開封する。
中には二枚の紙が入っており、どちらも手紙のようだ。
そのまま中身を取り出して、ゆっくりと黙読を始めた。
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拝啓、
未だ冷房器具を手放せない時期かと思いますが、いかがお過ごしでしょうか。
さて、先日小山内正優様の鑑定をさせていただいた件ですが、私の部下が大変な無礼を働いてしまった事、大変申し訳なく思っております。
小山内正優様並びにご家族、ご友人の皆様に不快な思いをさせてしまい、偏に私の教育が至らなかった事が原因であると深く反省致しております。
無礼を承知で伏してお願い申し上げます、もし可能でありましたら汚名返上の機会をいただけませんでしょうか。
図々しい願いである事は重々承知致しておりますが、花守夕実は私の孫娘でもあり、身内の一人として見放す事も憚られるところでございます。
この愚かな願いを聞き入れていただけましたら、国からの援助とは別に、私個人にできる範囲で最大限の援助をお約束させていただきます。
また、連絡やサポートを円滑に進められるよう、花守夕実をサポーターとして派遣致します。
十九歳と未だ心身共に未熟な身ではありますが、国を支える者の一員としての教育を受けておりますので、必ずお役に立てると確信致しております。
何卒ご検討の程よろしくお願い申し上げます。
お返事につきましては、この手紙を託した者にお伝えいただけますと幸いです。
時節柄、皆様のご健康をお祈り申し上げます。
敬具。
内閣総理大臣
花守折昌
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……いや怖い。
何これなんでこんな低姿勢で謙りに謙ってるの?
なんか怖すぎて全然内容が頭に残らないし、なんなら今すぐ捨てたいんだけど。
何で四回りくらい上の大人にこんな態度取られないといけないの?
怖い怖い怖い! た、助けてお母さん……!
「? 正ちゃんどうしたの?」
「こ、これ……」
「あら、読んで大丈夫なの?」
「たぶん……?」
「私は内容は分かりませんが、ご家族の方であれば読むのは構わないと聞いてます」
「そう。 ほら、優さんも」
「うむ」
…………
……
「はあ……」
「うむ……」
「手紙の内容は知らないって言ってましたけど、何か聞かされてないんですか?」
「……総理からは無期限の謹慎と。 ただ、手紙の返答次第では罰の内容が変わるとは聞かされております」
「そう……困ったわね」
「お母さん、なんて書いてあったの?」
「うーん……ざっくり簡潔に言うと、総理大臣が額を地面にめり込ませて謝罪してるのよね」
「え、なにそれ……」
「大事にしなくていいことを大事にされて、お詫びを押し付けられてるっていうか……」
「まあ間違ってないだろ」
「なんでそんなことに?」
「さあ……分からない……」
なんとか落ち着いてきたから、手紙を受け取ってもう一度読んでみる。
「うーん……」
国からも総理からもどんな援助がされるか分からないんだゆね、何も書かれてないし。
夕実さんが派遣されるメリットもよく分からないし……。
通い? 住み込み? 業務内容は? お給料は? 学校……はないのか。
文面から読み取れる部分だけ見ると、なんだか強引な迷惑おじさんに見える。
けど、スキルの効果なのかな? 手紙に込められた思念みたいのが流れ込んできた。
きっと、この手紙を書いてる時に自然と込められてしまったんだろうな。
「あの……」
「はい、なんでしょうか」
「来週の……金曜日……十八時……焼肉タベローで……」
「え、あの」
「ドレスコードは……休日の……家族……そう伝えて……ください……おじいちゃんに……」
「えっと、手紙の返答は」
「伝えて……お終い……バイバイ……」
「返答をいただけないと……」
「……よく分からないけど、返答じゃなくて伝言を託されたってことじゃないかしら? なら、それを伝える義務があると思うんだけど、どうかしら」
「な、なるほど……わかりました。 大事な伝言、必ずお伝えします」
「うん……」
「……失礼します」
夕実さんは僕たちに頭を下げると、ササッと帰っていった。
たぶんアレで大丈夫だと思う。
きっと夕実さんも褒められる……はず、きっと、たぶん、恐らく。
「正優」
「正ちゃん」
「お姉兄ちゃん」
「「「どういうこと?」」」
「あ……えっとね……」
僕は家族に包み隠さず全部を説明して、事後だけど同意を貰えた。
うん、みんなならちゃんと分かってくれるって思ってたし、よかった。
「あのさ……せっかく……みんな居るし……遊びたい……かなって……」
「いいね! ゲームしよ!」
「いいわね♪ コ〇ミワイワイレーシング レボリューションやりましょ♪」
「うむ」
夏休み最終日だし、家族との思い出も作りたかったし、言って良かった。
みんなも嬉しそうに準備してくれてるし、楽しい時間になりそう♪
「僕は……パワプ〇くんで……」
「わたしはリヒ〇ー!」
「私桃太郎♪」
「詩織」
「「えっ?」」
「……ゴエモン」
「「はじめるぞー♪」」
「お父さん……どんまい……」
「……やめてくれ」
ワイワイ楽しくレースゲームをやってたら、優香のお腹がぐーっと鳴いた。
丁度お昼だしって話してたらノートくんたちが来たから、みんなで外食に。
たまたま入ったお好み焼き屋で乙女一家と遭遇して、ワチャワチャ食事をした。
その後は僕たち一家と乙女一家、ノートくん、ネコちゃん、みかりんさんで遊んだ。
両親ズが盛り上がっちゃって、ウノとかジェンガとか人生ゲ〇ムとか古いのをいっぱい。
最後はマ〇オパーティコレクション ビッグバンスターズで締めくくった。
最下位だったのがよっぽど悔しかったのか、お父さんが叫んだのは皆でお腹抱えて笑った。
晩ごはんもみんなでワイワイ作って、楽しく食べた。
お父さんズは慰めあってるし、お母さんズと優香は姦しくお喋りしてるし。
僕たちはそれを眺めながら、夏休み楽しかったねなんてのんびり語り合った。
あっという間に過ぎ去った夏休みだった。
良いことも嫌なこともあったけど、振り返ればトータル悪くない
明日は始業式、また学生生活が再開されるんだなと思うと、もっと嬉しさが溢れてくる。
クラスのみんなは何して遊んでたのかな、いっぱい喋りたいことがあるんだ。
明日が来るのが今から楽しみでしょうがないんだ。
そう話す僕を、優しい目で見ながら頷いて聞いてくれていた。
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東京都千代田区永田町某所。
「なかなか人が良い少年のようですね」
「そうですね」
「心を読む超能力でも持ってるのかと思いましたよ、本当に」
「神族ですから、そういう力を持ってても不思議はないと思いますよ」
「まあ確かに……しかし、どんな服にしましょうかね? スーツばかり着ていた弊害が恨めしいですよ」
「私もです。 普段どんな服を着ていたかなんて思い出せませんよ」
「はっはっは、アルバムでもひっくり返しましょうか」
「私はクローゼットを漁って思い出してみます」
「うむうむ、今から楽しみですね、
「そうですね、お義父様」
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